【投稿】Y2K問題を考える

【投稿】Y2K問題を考える
本の紹介「西暦2000年問題の現場から」(濱田亜津子著 文春文庫 1999年8月)

<西暦2000年問題とは>
コンピューターの「西暦2000年問題」が話題になっている。
2000年1月1日を迎えると、コンピューターがトラブル〔誤作動〕を起こし、いろんな問題が発生する可能性がある、という問題である。
原因は簡単なことだ。「古い」コンピューターの場合、西暦表示が、例えば「1995年」は「95年」と、四桁を二桁で表示、または記憶させてきた。ところが、「2000年」は二桁なら「00年」という表示、または認識されて、これが「2000年」と認識されるのか、または「1900年」と認識されるのか、それぞれのプログラム、またはハードがどう認識するか。確認、また修正が行われない場合、誤作動が起こり、その影響が心配されているのである。
現在の社会経済行政システムにおいて、コンピューターはありとあらゆるところで稼動しており、もし対策が不充分な場合、その影響は深刻だといわれているのだ。
世界的にも同様の2000年問題が問われているわけだが、さらに日本で複雑にしている問題がある。それは、和暦の問題である。昭和、平成など元号処理の問題が絡んでくるのである。和暦で入力して、西暦それも二桁処理がされている企業システムもあるわけである。
私も、何台かパソコンを管理している関係で、この不気味な問題について、2000年へのカウントダウンが始まった最近、そろそろ対応が必要だなと考えて、少し書物などあたって、この問題を考えてみることにした。

<・・引き続き万全を期すよう努力を・・>
政府の2000年問題ホームページを覗いてみた。そのに「Q&A集」というコーナーがある。「2000年問題の発生により、預金の払い出しに問題は生じないか」という冒頭の問いに対して、その答えは、「金融機関では、・・・支障が生じることがないよう鋭意対応している」とか「2000年問題が発生した場合、預金データのバックアップをとることや・・・・元帳データを印字するなどの(危機管理計画の作成を進めている)」とは、書かれていても、問題が起こらないとは一切書かれていない。ちなみにこの文書は99年10月27日に更新された文書らしい。
さらに、このホームページの冒頭に、「コンピューター西暦2000年問題に関する行動計画の推進状況について」という文書がある。この文書は平成11年7月となっているが(今は11月の中旬なのだが?)、その中に金融機関の対応策部分がある。
この項には、民間重要5分野等の対応状況として、金融・エネルギー・情報通信・交通医療について状況報告がある。

「金融監督庁は、昨年6月以降、四半期ごとに、金融機関(銀行、保険会社、証券会社等)から銀行法第24条等に基づき対応状況について報告を求めているが、本年3月末時点の報告によると、取組状況は以下のとおり。
①必要な総経費は、金融機関全体で7935億円、平均で主要行129億円、大手生保50億円、大手証券13億円(大手3社では平均59億円)。〔以下略〕
②「重要なシステム」について、本年6月末までに99%が修正を完了し、全金融機関の88%が修正を完了し、77%が模擬テストを完了。また、98%が本年6月末までに模擬テストを完了する見込みとしており、このうち主要行、地銀、第二地銀ではいずれも6月末までに完了したとしている。
(注)「重要なシステム」とは、決済システム等に直接影響する基幹勘定系、対外接続系システムのほか、対応が完了しなければ業務に直接支障がある-切のものを指す。

<表>重要なシステムの対応完了時期(完了の企業の割合)
上段=修正,下段=模擬テスト
       99/3       99/6      99/9
       (実績)    〔見込み〕   〔見込み)
全国銀行    85%       100%      100%
        72%       100%      100%
保  険     85%       97%      100%
        72%         96%      100%
証  券     86%         99%      100%
         73%        99%      100%

共同接続テストの実施今年2月、4月、5月、6月及び7月に、日本銀行、全国銀行協会、東京証券取引所等により、日銀ネット、全銀システム、東証等の決済・取引システムについて、主要行、地銀、第二地銀、取引所会員証券会社等が参加して、世界的に見ても例のない規模で共同接続テスト(インダストリー・ワイド・テスト)を実施。日本銀行等では、これらのテストの結果テスト参加者問における各種決済システムを通じた2000年日付
等のデータ授受について、基本的に正常に処理されたとしている。」などと記述されている。99年9月には、全国銀行の100%が修正も模擬テストも完了する見込み、と7月段階で書かれているのに、10月末の冒頭のQ&A集も「問題が発生しない」との記述はないわけである。

さらに、中小企業の項を覗くと
「②事務処理系システムについて、着実に進展。
            97/7    98/9   99/6
対応中・済       38%     67%    79%
未検討・検討中     62%    33%     21%
③ カレンダー機能を持つマイコン内蔵機器については、3割程度の中小企業が有しているとしており、当該中小企業の対応についても重要性の理解が進展。
             98/9     99/3     99/6
対応中・済        51%      59%     66%
検討中・未検討 49% 41% 34%    」
と、かなり遅れているな、との印象があるが、現在がどのような状況なのかはわからない。
同様の問題は、医療機器・医療機関の項でも見られ、99年7月時点では、医療機器についての医療機関の対応について、重点医療機関に限ってでも、99年7月時点でも「①医療機器については、19%が「模擬テストを完了」、8%が「修正等を完了」70%が「修正中」となっており、まだまだ末端の医療機関の対応は明らかにされていない。

<何が問題を複雑化させているか>
大きく分けて、2000年問題には、三つの領域があるように思える。
第1は、金融や電力、運輸などの基幹系のコンピューター処理に関わる部門への対策で、企業や政府・行政がその対応にあたっており、この部門での対策如何は、国民生活やライフラインに大きな影響が懸念されている領域である。
第2は、第1ほどには国民的影響は少ないとは言え、中小企業などで比較的古いシステムを使いつづけている場合に起こる、経営上への影響が心配されている領域。
第3には、個人のパソコンをはじめ、家庭内に存在する各種電子部品を装着された電機製品において心配されている領域、ということになろうか。
素人分類であるので、辛抱願いたいが、影響の大きさというころで分類してみた。
どうも、この問題が深刻なのは、何か対策は取られているらしいのだが、結局のところ、「何が起こるか」わからないというのが本当のところらしいことである。政府のホームぺ時を見ても、むしろ危機管理、問題が発生したときの十分な対策を行うことの方に重点が置かれているような気がするのである。
対策が取られた当初は、単にプログラムの問題と捉えられて、プログラムの書き換えと言う形で作業が進められたらしい。ところが、最近になって、「書かれたプログラム」から「埋めこまれたプログラム」が問題に上がってきた。例えば、機械に埋めこまれたチップにROMとしてプログラムが記憶され、その中にも、2000年問題が「埋めこまれている」。航空機の中にも、家庭用の電子機器の中にもこうした電子部品は膨大に使用されているわけである。こうしたすべての電子機器への対応が可能なのか、どうか。
さらに、あるシステムにおいて、2000年対策が仮に99%対応ができているとしても、一つの部分に問題が残された場合、全体として関連付けられたシステムの場合、1月1日でなくても、それ以後に、いつか誤作動を起こす可能性が残されているということで、いつそれが発生するか、予測がつかないということである。
とくに、個人の場合など、古いパソコン、古いソフトを使いつづけるケースは多い。新型パソコンやソフトが出ているが、決まった仕事をさせるのに、遅い・早いはあまり関係がない。そうなると、2000年への対応をしてくれる、メーカーもない、サポートもないと言う場合、いつ問題がおこるのか、わからない、ということになる。

<いつか、誰かが、対策するだろうと・・>
実はこの2000年問題は、かなり以前から専門家の間では、問題の所在は確認され、対策の必要も叫ばれていたらしい。しかし、どうせ、その頃には、一発で問題解決できるソフトが開発されるだろうとか、機器の更新の更新も行われて、問題は解決されるのでは、という甘さが、対応の遅れを生み出した、と著者は指摘している。
さらに、同じような年号問題がUNIXシステムにも存在しているという。ご承知の方も多いと思うが、UNIXは、インターネットシステムの基幹をなすものであり、インタネットサーバーの多くがUNIXを使用している。さて、UNIXのシステムは、システム日付を計算するために、グリニッジ標準時1970年1月1日を基点にした絶対日時を使用している。そして、今日は何日か、と言う計算は、この絶対日時からの経過秒数を基にしているわけだ。ところが、このUNIXの絶対日時は、2038年1月19日までしか数えることができない。何故なのか。UNIXの絶対日時は32桁の2進法で表されているため、また最上位の一桁は符号を表すと言う構造のため、31桁しか利用できない。つまり1970年1月1日から、「二の三十一乗」秒後は、2038年に訪れるというわけだ。まだ、40年はある、というわけだが、果たして、こちらの方はどうなるのだろうか。

<生命・財産・ライフラインが大切・・>
これまで書いてきたことは、冒頭に紹介した「西暦2000年問題の現場から」と、政府のホームページ〔http://www.kaitei.go.jp/jp/pc2000) を覗けば、理解して頂けるだろう。特に著作の方は、金融パニックが起こるとか、核ミサイルが飛んでくる、と言うような危機意識ばかりの説明があったり、また結局何も起こらないんだ、というような説明があったり、という混乱した中で、冷静に2000年問題を考え直す、という視点で書かれている。また、実際の修正作業の中での混乱も、プログラマーの皆さんの悲哀も込めた現場の状況も、冷静に描かれ、最後には、年末・正月の過ごし方、生活者の危機管理にも触れるという丁寧さである。もう50日を切った現在、是非ご一読をお進めしたい。
そして、アサートの読者諸氏の中には、私以上にこの方面に詳しい専門家も多いと思う。まだ、今年は12月号もあるので、是非、現場からのご意見をお寄せいただき、実際の現場の状況をお教えいただければ幸いである。(佐野秀夫)

【出典】 アサート No.264 1999年11月20日

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