【投稿】 労働力の流動化に新ワークルールの確立が急務–労基法「改正」によせて–

【投稿】 労働力の流動化に新ワークルールの確立が急務–労基法「改正」によせて–

●「終身雇用」から労働力流動化への動き
厳しい経済状況の中、地域ユニオンでの労働相談には毎日のように相談が相次いでいる。特に企業倒産に関連する相談と中高年労働者の相談が多いのが、今の経営側の状況を反映した状況となっている。大手企業では終身雇用やそれを前提にした賃金制度にかわり会社や個人の成績・業績を中心にした制度へとどんどん移行している。それは事業やプロジェクトの必要に応じて必要な人材(労働力)を集め、事業目的が達成すれば解散するといった短期集中型の生産・管理が行われてきていることの反映でもある。ナショナルスタンダードな部品の共通化を徹底することによってコストを削減し製品の基礎的な部分については製品サイクルを伸ばし、しかも新技術や新しい外観を取り入れることによって新しい商品価値を与え、1製品当たりの製品サイクルは極端に短くなっているのが昨今の商品の特徴だろう。パソコンや自動車、加工食品、音楽CDにいたるまで、このような「プレミヤ」「レア」「特別仕様」ものブームもその現れといえよう。
労働基準法改正が衆議院段階での修正可決に続き、参院本会議で可決、成立した。裁量制をホワイトカラー業務に拡大するほか、期間を区切った雇用契約の上限を一部業務で3年に引き上げる、裁量制の適用拡大は2000年4月から、そのほかの改正内容のほとんどは来年4月から実施となる。 改正により、現在は公認会計士やコピーライターなど11業務に限られる裁量労働制を企画、立案、調査などホワイトカラー業務に広げる。労働省は今後、裁量制を拡大する業務や対象労働者について指針作りに入る。
今回の労働基準法改正は、言ってみれば経営側にとって「労働力」というコストに対してのフリーハンドを拡大したという一点につきる。労働側は様々な修正を行ったが、結論的には「労働者保護」というよりは経営側の主張にそった内容だ。労働力もフレキシブルに扱えるように法的な合意を与えたことだ。
これらは日経連がかねてから「新日本的経営」の中で、基幹社員以外の労働力を専門職も含めて派遣や契約社員といった流動的なものにしていくという内容とも合致している。
もちろん機会均等法や育児介護休業法をはじめとした関連法を背景とした平等法についての一定の前進はあるものの、重要な点についての保護規定は不十分なままである。特に一部新聞報道で指摘されたとおり、連合内部でのホワイトカラーの裁量労働制導入についての意見の食い違いは、すでに「サービス残業」が恒常化して、これに組合として歯止めをかけられないという労働実態のが多くあることを物語っている。今回の改正でこの実態についても法的な整備を行ったというのが事実だ。すでに日本では「サービス残業」は労働契約にない「時間外労働なんだ」という点さえあいまいになりつつある。今後、企業レベルでの組合側の具体的対応が焦点になってくるが法案の修正審議が本当に成果となるかどうかが厳しく問われる。
生産部門については80年代より高い労働生産性を確保してきた日本であるが、管理部門についてはコンピュータ化も含めて日本は極めて低い生産性であることが指摘されてきた。企業間のネットワーク化も90年代後半に入って本格化したが、これに拍車をかけて管理部門での生産性を向上しようというのが経営側の思惑であろう。退職金の在職期間中の早期支払い制度や年俸制など企業の雇用・賃金システムは激変しつつある。そしてそれは一定の労働者ニーズを持っていることもまた事実であることをきちんと押さえておく必要があるだろう。この点で一律ベースアップ要求を行ってきた組合側のあり方もまた問われている。

●21世紀のワークルール確立をめざして
法案に対して連合をはじめとする労働団体は昨年より様々なキャンペーンと活動を全国的に繰り広げ、労働側の対案も作成し、当初、政府労働省案の廃案をめざして運動を展開してきた。それは21世紀へ向けて、労働のあり方をきちんとルール化しようというワークルール確立の運動として展開された。当初の署名活動も連合地協傘下だけでなく様々なレベルでキャンペーンされ、ひさびさの大衆行動として行われたことも記憶に新しい。しかし当初廃案をめざしてきた労働(連合)側も、国会審議がはじまるや、長引く景気の低迷、いっそうの規制緩和をもとめる財界の声に押され、野党や連合内部の一致した対応が難しいなかで、法案の修正審議へ臨んだ。地域ユニオンの首都圏段階のネットワークでは「労基法改悪No!」ネットワークとして運動を広げ、衆議院での修正が不十分であることをふまえ、参議院でのよりいっそうの徹底審議を追求しようと、デモ行進やハンガーストライキで審議を追求した。
今回の労基法改正の問題点は、(1)新裁量労働制の導入、(2)有期雇用契約の延長、(3)深夜労働の規制緩和、(4)時間外労働の条件緩和などがる。特にパート労働者からみると、(2)有期雇用契約の延長や(3)(4)の残業や深夜労働の条件緩和が重要な問題である。(2)の有期雇用契約は、現状では1年以上の契約を認めていないが、それを5年(改正法では3年)にまで延長しようというのが財界の狙いだ。これは『育児・介護休業法』で労働者に子供や親の育児・介護の権利を保障しながら、「ただし有期雇用契約のものは除外する」という条項があることを前提にしている。つまり、パートや契約社員などを有期雇用契約としてしまえば、5年間も働き続けた労働者にさえ育児・介護休業は保障しなくてもいいという、財界に都合のいい内容となっているからだ。また、男女の雇用平等を基本として出てきた(3)(4)でいえば、日本はただえさえ残業に対して規制がないのが実態なのに、これでは男も女も深夜労働や時間外労働が拡大し、家庭崩壊や子育てができない環境をいっそう拡大することにつながりかねない。残業は労働契約にない時間外労働なんだという働く側の意識も大切ですし、時間外労働や深夜労働が必要ならばきちんとこれをルール化(割り増し賃金等の問題)して、厳しく規制することが必要だ。
改正労基法は、『連合案に比べればなお不十分なものの、労働大臣答弁と付帯決議で「おおむね連合の要諸は満たされたもの」』となったとして、連合は事務局長談話で『成立後も審議課題に取り組む』ことを表明した。「法案成立後の課題は、新裁量労働制の対象業務や対象労働者および労使委員会の機能等に関する専門的機関での検討、深夜労働に関する法令措置を視野に入れたガイドライン作成、時間外労働の上限基準等をはじめとする政省令事項等の重要審議がある。これは主に中央労働基準審議会での審議になるが、連合は労働者代表委員を通じてこれまでの国会での審議はもちろん、労働現場の実態および各界の意見を踏まえつつ、労働基準法改正はまだ終わっていないとの認識で対応していく。
99年4月には今回の新裁量労働制を除く改正労働基準法、改正男女雇用機会均等法、改正育児・介護休業法が施行される。連合は、これら改正労働関係法が真に労働者の労働条件向上に寄与するよう、労働組合においては協約闘争として、未組織労働者には周知・相談活動等として取り組んでいく。(要旨)」
思うにこの10年、経済の国際化の流れとバブル景気を背景に女子労働の本格的な戦力化が行われ、男女を問わず24時間生産・サービス体勢へと駆り立てられ、子育てどころではない少子高齢社会への窓口をあけてきた。女性の自立という面では前進があったが、同時に労働者生活は「コンビニでしか買い物ができない」生活へと向かった。生活はいっしょだが「結婚しない」、「子供を産まない」自由は手に入れたが、「結婚して」「子どもを育てる」条件はますます厳しくなった。今30代前半ぐらいまでの世代はこうした状況下で企業の中でも今後中心をになっていく世代になりつつある。会社で働くことばかりに駆り立てられてきた労働者の意識も今大きく変化してきているが、企業社会が一定、意識の上でも賃金の面でも後退せざるを得ない現状で、労働側がこれに代わるきちんとした労働者としての「生き方」を提示できるかどうか、という点ではよい契機である。
すっかり影を潜めてしまったボランティア活動や環境問題などの地域社会生活、老人介護や子育てなどの家庭生活、そして会社等での労働生活といった3分野で今後重要な選択が問われることは必至である。企業危機や生活危機のなかで、これまで企業に大きく依存してきた領域をどう個人レベルで再構築してゆくか、労働者の権利や労働組合の権利、あるいは「連帯」ということも基本に立ち返って取り組めるだろう。連合の大手組合が相変わらずの企業主義では連合の未来も見えてこないのではないだろうか。(東京・R)

【出典】 アサート No.252 1998年11月21日

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