【投稿】地方財政危機と地方分権

【投稿】地方財政危機と地方分権
               —自治労自治研全国集会に参加して—

10月28日から30日、米子市内で第27回自治研全国集会が開かれた。今回の集会は、地方財政危機が進む中で、地方分権を議論の段階から実行の段階に移すための実践的課題がテーマになった。私は残念ながら最初からは参加できなかったが、地方税・財政の分科会に参加し、かなり刺激を受けて帰ってきたので、簡単に報告したい。
ご存知のように、自治体財政は、長引く不況による税収の悪化と数次にわたる国主導の景気対策の影響を受けて危機的状況になっている。98年度に限ってみても歳入不足は1兆円を越え、公債費の借入れ残高は160兆円を越える見込みになっている。国のさらなる減税実施によって、これでは予算編成ができないと悲鳴を上げる地方自治体も出てきている。大阪府では1998年度予算編成過程で、1997年度の税収見込みが1300億円程度下回ることが明らかになり、今後毎年約2500億円の財源不足が生じる見通しとなった。その後状況はさらに悪化、11月11日には、府税収入の大幅な不足から1998年度の赤字決算は避けられない見込みだと財政危機宣言を行い再建団体転落の瀬戸際という危機的な状況に陥っている。この状態は大阪府ばかりでなく、神奈川県、東京都、愛知県等も同様であり、市町村も収入構造は違うものの財政全体の構造は同様で同じ危機をはらんでいる。
このような状況の中で、自治研の地方税・財政分科会には例年の3倍の参加者があり、自治体労働組合がいかに危機意識を持っているかがうかがわれた。最初に、地方分権推進委員でもある神野東大教授からの問題提起があった。その要約を「自治労大阪」から引用すると「減税と公共事業を進めるほど地域経済は停滞する。国と地方との関係は親企業と子会社のように系列化されており、国の赤字が地方に押し付けられているのは現状だ。今、市民は雇用不安や社会保障の切り捨てで将来への不安を感じている。不安を断ち切るために、自治体がセイフティーネットを構築する必要がある。地方が財政を立て直しセイフティーネットを構築するためには、1、国から地方への財源移譲 2、地方税の増税と国税の減税 3、消費税の地方分(地方消費税)の引き上げ 4、法人税を外形標準課税方式に変えるなどが必要だ」ということである。地方財政危機は深刻で、定数削減や人件費削減等組合運動にも大きなマイナス要因になっているが、この危機を逆に地方分権の条件を整えるチャンスにして行こうという発想である。税源移譲には法律的な壁があるが、現状でも具体的に、土木費等の公共事業費を削って、町田市では福祉型財政への取り組みや、上越市では国際的環境マネジメントシステムであるISO14001認証を取得しての環境型財政の先進的な取り組みが行われている。また、大阪自治研センターからは、景気回復や雇用対策という点からも、公共事業よりも福祉に財政投資した方が、地域への雇用・経済効果の点で上回るとの心強い研究発表も行われた。地方財政危機は自治体労働運動にとって重苦しい重圧としてのしかかっているが、組合も一皮むいて、日本の根本的なシステム改革の重要課題として地方分権の視点からこの問題に取り組む必要があると気づかされた。財政分析の重要性が訴えられていたが、労働組合だけでやるのではなく、市民と一緒にやることで組合と違う視点で分析してみる必要があるのではないだろうか。
(若松一郎)

【出典】 アサート No.252 1998年11月21日

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