【投稿】 橋本政権の危うさ、脆さ

【投稿】 橋本政権の危うさ、脆さ

<<「ハシリュウは嫌いですか」>>
政局は急変、急展開の兆しを見せている。橋本首相は、競争相手が立とうともしない「無風」状態を演出し、自民党総裁再選を全党一致のもとで難なく決めてしまい、高水準を回復した内閣支持率、政権を脅かすには程遠い野党の低迷をほくそえみ、「順風満帆」の第二次橋本内閣を出帆させる予定であった。ところが事態は、一閣僚の起用をめぐって今やどん底に落ちようとしている。盤石揺るぎなしと見られていた橋本内閣は、ここで大きくつまずき、対応いかんによっては風前の灯火にさえなろうとしている。
佐藤孝行という、受託収賄の有罪が確定した政治家を閣僚、しかも最大の政治課題と自ら位置づけている行革を統括する総務庁長官に据えるなどという、およそ常識からかけ離れた決断を下したのは首相自身である。首相は、「批判があればあるほど、佐藤氏にはその声を吹き飛ばす活躍をしていただきたい。私なりに考え抜いたうえでの結論としてこの道を選んだ」「不適当な人を閣僚につけたつもりはない」(9/12改造直後の記者会見)などとみずからの決断を誇りにさえしたのである。
多少の逆風はあっても突破できるとタカをくくっていたのであろう。ところが世論の反撃は厳しかった。直接の抗議はもちろん、あらゆる世論調査で事態は逆転した。

「威張る、怒る、すねる、相手の無知をあざけるような表情」、「わざとらしくて、鼻持ちならない」(9/8日経「ハシリュウは嫌いですか」)姿勢をすべて出し切った後、激しい世論の反発に直面すると今度は官邸から一歩も出ようとせずにだんまりを決め込み、ついには村上・参院自民党幹事長から「社さ両党から問責決議案の話があれば、賛成する」と伝えられ(9/17)て、首相の責任を問われると、「コメントしませんというのがコメントだ」(9/17)などと無責任さと無能力さをさらけ出し、こうしたみずからが招きよせた危機であるにもかかわらず、自分で事態を収拾する能力とその意欲にも欠けていることを暴露してしまったのである。

<<収賄者が旗を振る行革>>
そもそもこの佐藤という人物、ロッキード社からのワイロを全日空経由で収賄したという明白な証拠を突き付けられてもなお、裁判中も有罪確定後もみずからの犯罪について何の反省もせず、ただただ司法批判を繰り返し、二審判決では「被告人が事実関係を全面的に否認しているのみならず、多数の関係者を巻き込んでのアリバイ工作が行われており、今なお、己が潔白であるとして国会議員の地位に執着していることを考え合わせるとき、反省の情は皆無であると認めざるを得ない」と断定されるほどの厚顔無恥の典型である。
こんな人物を首相自身が内閣改造前から「いったんレッテルを貼られた人はどんなに有能であっても使わないのか」などという佐藤弁護論を展開(9/6)して、総務庁長官に起用したのであるが、当の本人は、「おれは総務庁なんてやりたくない。建設がやりたい。建設か農林水産、できれば農水がいい」などと利権・賄賂がらみのポストを露骨に要求していたのである。問題が深刻化し、自発的辞任論が飛び出してくると、「橋本首相は私の歩んだ道を百も承知で長官に任命したんでしょう」、「ここで辞めれば生きている価値がなくなる。何のために屈辱に耐えてきたのか」と開き直る。
こんな人物を必死になって弁護し、行革担当大臣に任命した橋本首相の言う行革とはいったい何なのか。その本質と限界をあからさまに立証したものともいえよう。まさに「収賄者が旗を振る行革など、悪い冗談である」(9/9日経)。
しかも首相はまだ性懲りもなく、この場に至ってなお、加藤幹事長に対し、「佐藤さんが党に戻って行革で活躍できる場を考えてほしい」などと指示する程度の政治感覚しか持ち合わせていないようである。リクルート事件でこれまた有罪判決を受けている藤波元官房長官を自民党総務会に迎え入れていることと同じ鈍感さである。

<<おごる自民、久しからず>>
もちろんこうした事態をもたらしたのは、首相個人の問題だけではないのは明白である。
もはや連立政権の人事ではなく、完全な自民党単独政権の思い上がった自民内派閥人事として好きなように閣僚人事の絵を描いてきた自民党政治の本質の表われでもある。93/8の細川連立政権の誕生で野党に転落し、同年12月、そのことへの反省として派閥解消を決め、看板を下ろしたはずがいつのまにか公然と復活、主流・非主流相乱れての閣僚分捕り合戦にうつつを抜かし、政治倫理もどこへやら派閥力学で政治倫理を踏み潰すことに何の痛痒も感じなくなってきたおごりが、今回の事態を必然のものとしたのであろう。
しかしもう一方で、非自民、野党勢力の不甲斐なさがこれを大いに助長したことは間違いないともいえよう。今回のことに限ってだけでも、加藤幹事長ら自民執行部は事前に社民党幹部らと接触し、「社民党も佐藤入閣を受け入れる」との感触を得たとされており、問題の佐藤氏自身が「会話の内容は言わないが、内閣改造前に伊藤茂幹事長、笈川一夫政審会長と一度ならず二度も食事をした」(9/19)と暴露している。
新進党は終始この問題で腰が引け、むしろ保保連合復活への期待をにじませて、保保派へ身を摺り寄せようとしている。
しかし、おごる自民、久しからずである。「たった一人の閣僚問題」から事態は急変し、問われている政治的問題の本質が急浮上してくる。「順風満帆」、長期政権かと思われていた橋本政権の危うさ、脆さが一挙に浮き彫りにされだしたのである。朝日の世論調査にもあるように、今や、内閣改造直後の調査から支持・不支持が完全に逆転し、支持率は昨年1月、橋本内閣が発足していらい最低のものとなった。首相の責任を問う声は76%にも達し、政治への信頼感は地に落ちている。非自民、野党勢力の真価が今こそ問われているといえよう。

朝日新聞9/21付け世論調査(内閣改造直前調査は、9/7,8)
佐藤長官の辞任   事態の原因      首相の責任    現政治への信頼
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当然だ  84    首相の指導力不足 11 重大だ    76  している  18
当然ではない 10  自民党のおごり  9  それほどでは 18  していない 69
その他     6  派閥の圧力   44  その他     6   その他   13
          倫理観のなさ  28
その他   8

   政党支持率 改造直前 今選挙では  橋本内閣 改造直前  首相はどうすべき
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自民  32     38    29   支持する 35  53   国民に謝罪  17
新進   4      5      6   支持しない 48  28  首相を辞める 18
民主   3      3      5   その他   17  19  行革に全力  59
共産   4      5      8               その他     6
社民   6      5      7
太陽   1      0      1
他党   1      1      1
支持無 38    38     22
その他 11      5     21

(生駒 敬)

【出典】 アサート No.238 1997年9月27日

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