【映画紹介】「三たびの海峡」

【映画紹介】「三たびの海峡」

題名と主演「三国連太郎」に惹かれてこの映画を観た。予想以上の感動が胸を包んだ。映画の出来もさることながら、出演者の作品に対する思いがジワーッと伝わってくるのである。
APEC前の日韓関係、アジア外交にとって大事なときに、江藤長官の不見識な発言があり、金泳三大統領との首脳会談さえ一時危なくなりかけた。戦争中の日本の非を謝罪したかと思うと、閣僚達の時代錯誤な考えられないような発言が飛び出し、首相までがおかしな発言をする。私ですら、腹立たしくなって来る。口先だけの謝罪と思われてもしかたないような度重なる反省のない態度、間違った歴史認識・・・この背景には日本側にアジアの人々に対する傲慢さや過去の歴史への真剣な反省のなさがあるように思う。それは相当に根強く、戦前、戦中派の中国や韓国の人々への蔑視、それに連なる若い人々の差別観が後を絶たないように思える。「日韓併合は、韓国の発展に役立った」、「南京大虐殺はなかった」、辛酸をなめた人々が激怒するようなことを平気で言う。せめて入閣する前に基本的な政治姿勢については、一人一人テストをして大臣に就任して貰いたいものだ。そんな気持ちを胸に抱きながら映画館に入った。
映画の主人公-河時根(ハーシグン、三国連太郎)は、強制連行されて日本に来た。何度も死と直面するが、生き抜き、日本の敗戦、解放直後に日本人の妻千鶴を連れて、故国へ帰る。しかし千鶴は彼の故郷の人々に受け入れられず、彼にも知らせず子どもを連れて日本に帰る。
その後、河時根は懸命に働き、現在は会社の会長職にある。そんな折、日本から、徐鎮徹(ソジョンチョル、風間杜夫)が訪ねてくる。50年前、河時根達を高辻炭坑でこき使った山本三次(隆大介)が、「長峰市」の市長選挙で炭坑跡に残るボタ山を崩して企業を誘致すると公約している。そこには多くの強制連行されてきた仲間たちが、過酷な労働の中で息も絶え絶えにこき使われ、山本三次たちに殺され、あるいは自殺し、また逃亡に失敗して虐殺された、故郷を夢見ながらついに夢絶たれた仲間たちの手作りの小さな墓が、墓石がまだ数多く残されているはずである。河時根は意を決して、三たび海峡を渡る決意をする。
河時根を演じる三国連太郎は、阿川佐和子さんとの対談で(週刊文春11/9号)、「重いテーマの映画を撮るときはホモ的感覚で監督を愛しています」と語り、シナリオの書き換えに熱を入れたこと、祖父や父のことについて「祖父は棺桶作りを職としていたんです。でも、小さな村ですから、そんなに注文があるわけじゃない。暇をみては、これは今では差別用語になりますかね、隠坊という火葬場の世話をする係をしていました。
・・・僕らが通ると、途中の集落の人たちが、急にみんな、家ン中に入っちゃう。声もかけてくれないという、妙な出来事がありました」、「親父が地方を渡り歩いて、定住しませんでしたから、決して、温かい目で見られませんでしたね」、その父が入院して「生まれの話だとか、シベリア出兵の話だとかを聞いたわけです。それで、僕がぼんやりと覚えていたいろんな事件をはっきりと認識できていったんです」と語っている。三国連太郎の原点、映画にかける思いが伝わってくる。
隆大介は、浮島丸事件を扱った映画「エイジアン・ブルー」とは逆の立場で出演している。韓国の新人・李鐘浩の好演、スター歌手・張銀淑が唱う主題歌、その熱い思いに目も耳も離せなかった。(11月11日~松竹洋画系公開中)
(田中 雅恵)

【出典】 アサート No.218 1996年1月20日

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