【投稿】96春闘を迎えて・・・依然厳しい状況
–・問われる日本的経営の限界–
各組合では96春闘の準備が始まった。しかし今年も湿ったムードが漂っている。昨年は「阪神大震災」の影響もあったが、全体に押し切られた。部分的に好況産業でも、それを反映しない「低位平準化」の傾向が支配した。96春闘はどうなるのか。
<日経連 4年連続のベアゼロ提唱>
1月12日日経連は、臨時総会を開き、労働問題研究委員会報告を採択している。その内容は、雇用維持が最優先であり、4年連続のベアゼロを提唱。具体的には①雇用維持が最優先で臨み、支払い能力があるところはまず雇用維持し、次に賞与、一時金で配慮する。②生産性向上が見込めない場合はベアは論外。③一律の定期昇給を見直し、能力・業績給を拡大する。④初任給の据え置きに言及。などが主な骨子である。相も変わらぬ生産性向上基準原理である。そして現状では生産性向上分は賃上げではなく「雇用維持」の原資に使うべきで、ベースアップには使うべき状況にない、という主張である。
さらに「日本の賃金は世界一の水準である」との論法から、「勤労者の生活水準の向上は物価水準の是正で行うべきだ」と主張する。もっともらしく聞こえるが「日本の物価は世界一だ」ということを忘れているらしい。
<連合中央委員会 1万3千円要求>
同日連合は、第1回拡大中央闘争委員会を開催し、「ベアゼロ」は認められないと1万3千円を基準に4~5%の賃上げ要求を決定し、3月21日前後の山場に向けて闘争をスタートさせた。昨年の春闘が春闘史上最低の2.83%(労働省調べ)で、連合結成以来の「敗北春闘」の連続からどう転換していくのかが焦点になっている。
しかし昨年もあったことだが、個別賃金ということでベアの発表が若年層の低い賃上げが公表された例があった。せめて組合側は「隠し」のないことを願いたい。
<個別企業で進む賃金政策の変更>
一方、春闘低迷の影で、個別の企業では人減らしが進むとともに、賃金制度の変更が進んでいる。特に日本的経営の特徴であった年功賃金にかげりが生まれ、年俸制や業績給の導入が始まっている。さらに中高年から賃金カーブが鈍化するともに、ホワイトカラー層の人減らしが特徴となっている。有効求人倍率が5割を切る状況の中で個々の現場では雇用環境の変化が深刻になっている。連合に結集している労組は多くが大企業であり、比較的労組の発言力、決定力が存在しているので、こうした傾向は一挙に進んでいるわけではないが、着実にこうした傾向は強まっていると判断できる。
<依然解消されないバブル後遺症>
春闘議論から脇道に逸れることになるが、日本経済の「危機」もまた議論しておくべきであろう。雇用と賃金のベースである経済の状況が極めて深刻だからである。バブル経済は破綻したが、その後遺症は特に金融機関の不良債券として、またバブル期の企業の拡張政策の失敗による資産と経営機構の整理がはたして進んでいるのか。現在国会では住専(住宅金融ノンバンク)の不良債券処理案が議論されているが、これはまだ一部に過ぎないからである。低金利の中で経常利益こそ銀行に蓄積されているが、それをはるかに上回る不良資産が手付かずで残されている。
低金利時代で新聞にはたくさんの不動産広告が入るが、私の回りでも最近家を新築・購入したという話はない。先行き不安が購入を渋らせている。「内需拡大の為の賃上げ」と言っても、消費マインドも冷えきっており、たとえ賃上げがあってもそれが消費に回ると組合の主張はあるものの、全体を覆っている空気は明らかに冷えきっているのではないか。電機・半導体などの一部産業で好況が伝えられているが、経済全体の底力は依然として低迷している。
<一体感のもてる春闘に>
業界横並びで賃上げを獲得してきた春闘方式もすこし陰りが見えてきたようだ。組合側が弱いからとか、労使協調だからという批判だけで果たして打開できるものだろうか。ストライキによって打開できるものでもない。個別企業運動だけに収まり切れない上記の問題を打開する政策と運動が求められているように思う。
さらに運動論的に言えば、春闘のいいところは、みんなで闘うところだと思う。大企業も中小企業も、組織労働者も未組織労働者も。連合96春闘の結果が全体に波及していく力。そこに労働組合の「連帯」が問われている。(96-1-15佐野秀夫)
【出典】 アサート No.218 1996年1月20日