【投稿】「史上最低」の94春闘をふり返る
—-「改革」迫られる春闘——
<3月24日の集中回答が出て>
「こんな『春闘』なんて・・・・・ 」「本気で改革を迫られる春闘」「労使は大胆に発想転換せよ」 「不況下の春闘だが信頼関係は崩すな」
以上は、94春闘の集中回答日であった3月24日の翌日の新聞各社の社説の見出しである。(朝日、毎日、産経、日経の順)
連合の山岸会長は、「実質生活維持分として要求していた 3.2%にも届かなかった。不満であると言わざるを得ない。経営側が前面に打ち出してきた悪しき横並び論を打破できなかった。」「電機のスト配置などリストラの力に転化できる可能性が出てきた。春闘が終わり次第、抜本的な議論に入る」と表明。
一方、日経連の永野会長は、「本来賃上げゼロとなるべきところなので企業経営への影響が懸念されるが賃上げ率が春闘史上初めて4年連続でダウンしたことは、企業業績が著しく悪化し企業の支払能力が限界にきていることを労組にも理解してもらった結果だ」「・・今後大詰めを迎える企業は、雇用維持の考えを最優先し、いわゆる『横並び』を廃し、今年を『春闘改革元年とすることをお願いしたい」 労・使・マスコミとも、異口同音に春闘の『見直し』が語られているが、これは同床異夢である。
<日経連と連合の主張 >
94春闘は、「職安に 君達が居て 僕が居た」という川柳や次のような労働経済指標に端的に見られた情勢の下で闘われた。
93春闘時 94春闘時
(9211) (9311)
完全失業者 146万 176万
完全失業率 2.3% 2.8%
有効求人倍率 0.93倍 0.65倍
日経連はこの情勢をとらえて、「現在の企業は賃上げ要求に対応する力はない。雇用の維持を最優先に考えるべきであり、賃上げは事実上困難」との考え方を打ち出した。
連合は、「経営者の実質賃金引き下げ論など企業利害のみに捕らわれた主張は、景気底割れ、構造不況への道に外ならない。我々連合は総掛かりの闘争態勢を確立し、賃上げ、時短、政策制度改善の3本柱の闘いを展開して『消費不況・円高・雇用不安』を打破し、総合生活の改善を進めていく」との方針を決定。
さらに、主要企業50社の財務内容の分析の結果、使途が特定されていない『別途積立金』(自由度が高い流動的な積立金)が、計12兆円で、この50社の 124万人の従業員の賃金総原資 9.8兆円の 1.3倍にもなっていると指摘。「多くの企業はわれわれの要求に応えることが企業財務上からは十分に可能と言うことができる」と日経連に反論した。連合として従来にない主張である。
<今年も経営側の壁を破れず>
しかし、賃上げ結果は、次期経団連会長会社のトヨタ自動車が、総資本の立場から、 9,200円、3.06%(昨年より 2,000円ダウン)という、実質賃金確保の最低ラインと言われた『 3.2%』をも下回る回答となった。この回答を基準として、電機が3.05%。
そして、私鉄が、トヨタと同じく昨年比 2,000円ダウンの11,400円、3.94%で4%を割ることとなった。
・・・・・・・・・ 94春闘・主要組合回答一覧 ・・・・・・・・・
・電 機 17組合 7,893円 3.05%(前年比 ▲ 1,191円、▲ 0.55ポイント)・
・自動車 11組合 8,156円 3.06%(前年比 ▲ 1,992円、▲ 0.82ポイント)・
・鉄鋼35歳 5組合 4,500円 1.56%(前年比 ▲ 3,000円、▲ 1.09ポイント) ・
・造船重機 7組合 9,700円 3.30%(前年比 ▲ 2,500円、▲ 0.97ポイント) ・
・ゼンキン連合 13組合 8,536円 3.11%(前年比 ▲ 1,291円、▲ 0.57ポイント)・
・金属機械 13組合 9,517円 3.26%(前年比 ▲ 2,098円、▲ 0.82ポイント) ・
・私 鉄 14組合 11,400円 3.94%(前年比 ▲ 2,000円、▲ 0.80ポイント)・
・電力30歳 9組合 8,300円 3.09%(前年比 ▲ 1,800円、▲ 0.77ポイント) ・
・NTT 10,800円 3.36%(前年比 ▲ 1,600円、▲ 0.63ポイント) ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・
・日経集計 697社 8,579円 3.07%(前年比 ▲ 1,879円、▲ 0.77ポイント
(4/7現在)
造船重機は、 9,700円 3.3%で金属4単産の中では、唯一、 3.2%を超えたが、他に比べて好調な業況の割には、昨年比 2,500円、0.97%ダウンと大きく落ち込む結果となった。(別表参照)鉄鋼の 4,500円、1.56%回答も含め、集中回答日を前後して闘った関連産業・部品産業労働組合や中小組合は苦闘を強いられ、長期不況もあり、従来以上に、各種格差は拡大した。今まだ、春闘は終わっていないが、全体として経営側に押さえ込まれたと言わざるを得ず、多くの問題を残した春闘である。
< 春闘は闘われたか>
今回の春闘では、93春闘における『低位平準化』の反省を踏まえ、戦術面で、不況の影響をまともに受けている金属グループが後ろに下がり、公益グループを前にという試みや、金属グループと公益グループの間を1週間ほど空けて、回答に不満な場合は妥結留保の戦術で闘いを盛り上げることなども議論されたが、結果として実現せず、従来通りのパターンとなった。
また、回答が不満な場合にはストライキという連合でも年々強調されてきている戦術行使も前進したとは言いがたい。
この点を実行したのは、私鉄、ゼンセン同盟、電機連合、情報労連、金属機械など一部の単産にとどまっている。
NTTや電機連合、私鉄総連の大手はストライキに突入することなく通告・回避して解決したが、私鉄総連中小やゼンセン同盟、金属機械などでは、多くの組合でストライキ闘争が展開された。
日経連は、『平成6年版労働問題研究委員会報告』(1994年1月12日臨時総会決定)で、「春季労使交渉が現在のような形をとるようになって40年を経た。最近は改めて春闘見直し論が浮上している。しかし、労使のみならず、国民全体がいわば全国的な勉強の場として、毎年、世界情勢から日本経済、企業業績、さらには国民生活のあり方についてまで広範に議論し、国民的コンセンサスを得る努力を重ねることは、日本経済にとって大変重要なことである」と述べている。
まあ、日経連も言いたいことを言ってくれたものである。この間春闘が経営側のペースで推移してきたこ とによる自信と安心が言わしめたのであろう。
「国民の勉強の場」や「議論の場」に止まっていて は春闘とは言えない。
団結権、団体交渉権に団体行動権(ストライキ権) が加わって初めて労使対等の「議論」「話合い」が実 現するのである。
「回答が不満な場合」「話合いで折り合いつかない 場合」はストライキしかないのである。ストライキを を前提にしないと経営側に押し切られるのは自明の理 なのである。日本の春闘は、この労働組合のイロハか ら再出発しなければならない。大変な状況である。
<強まる日経連の春闘つぶし攻撃 >
日経連は、3月31日付『日経連タイムス』の主張で 次のように労働者を脅かし、春闘に対する攻撃を行っ ている。少し長いが、重大なので引用する。
「ここ数年の円高もあって、わが国の名目賃金は世 界最高水準となった。その一方で、従来型の成長が難 しくなった中で、これ以上、名目賃金を引き上げていったらどうなるのか。産業の空洞化を避け、国際競争 力を保持しつつ、勤労者の生活を実質的に維持・向上させていくには物価を引き下げていく以外にない。そ のためにも思い切った市場開放、規制緩和に加え、低生産性部門の生産性向上努力が不可欠である。」 「昭和30年に『8単産共闘』という形でスタートし たいわゆる『春闘方式』も、やがて40年の節目を迎え る。この間幾多の変遷があったが、総じて言えること は、これまで低生産性・非競争的部門においても、高 生産性・競争的部門にならって、いやそれ以上の賃上 げを繰り返してきたことである。その長年の積み重ねが、今日の物価高を生んだ最大の要因である。こうし た従来型賃上げ方式を見直し、生産性や支払い能力に見合った適正な賃金決定を各産業ごとに実施していく ことが今後は求められる」
そして最後に、「いわゆる『横並び』を排し、永年 の悪循環・悪慣行を改め、今年の交渉を持って『春闘 改革元年』としたいものである」と言い切っている。
これは、連合が春闘を再構築しようとしていること への真向からの全面攻撃である。 端的な例では、この日経連の『横並び打破』だけを 見ても、連合の『悪しき横並び打破』方針に対する全 面否定の主張である。
われわれは、日経連のこのような主張の全てについて絶対認めるわけにはいかない。(M.H)
【出典】 アサート No.197 1994年4月15日