『詩』 ピノチェトは裁かれるか? 

『詩』 ピノチェトは裁かれるか? 

                    大木 透

まだ若き日、「社会主義が世界体制として」
優位に前進している象徴的出来事
それがアジェンデ政権の誕生だった
民主的・平和的な社会主義への移行
時代を見据えた希望、
国際的連帯の熱い思い

それらを一挙に崩壊させた
血なまぐさいピノチェトの軍事クーデター
目を閉じれば、くぎ付けになったニュース画像がよみがえる
爆撃で炎上する大統領官邸
ハンドマイクを手に抵抗を呼びかけるアジェンデ大統領
銃弾の雨の中、うつぶせに倒れた大統領の姿

その独裁者・ピノチェトが大統領となった
公然とした弾圧、暗闇の中の虐殺
貨物飛行機から海上に投げ落とされた「行方不明者」
お手盛りの名誉大統領、終身上院議員、不逮捕特権
なんと当時の行為に対して罪に問われない
そんな恩赦特権まで手に入れた

その独裁者・ピノチェトが突如逮捕された
いったいどうしたのだ
「無実の人を大量に処刑した人道上の罪」だという
スペインが請求し、ベルギー、フランスも続いた
遅きに失したが、当然だ
おりしも「コソボ問題」をめぐって人道上の罪が問われていた

その独裁者・ピノチェトが突如釈放された
一年以上のロンドン拘留
その間、右派政治家から追随者や崇拝者のロンドン詣で
チリ陸軍の裁判阻止声明
サッチャーは逮捕に反対して度重なる病院見舞い
釈放理由は「裁判に耐えられる健康状態ではない」

その独裁者・ピノチェトが帰ってきた
サンチャゴに着くや車椅子も忘れて立ち上がり
嬉しさのあまり元気に歩き出し
支持者や犯罪者どもと抱擁を交わす
自ら「裁判に耐えられる健康状態」を誇示したのだ
だがこの一年あまりの大きな変化を独裁者は知らない

「ピノチェトは過去の人物」
逮捕直後直ちにロンドンに駆けつけ支持を表明
彼の礼賛本まで出版してきた右派連合大統領候補
そのラビンがこう表明せざるを得ないのだ
一月十七日、それでもラビンは敗北した
ピノチェトを名指しで批判してきたラゴスが勝利した

「チリ人の手でピノチェトを裁こう」
「歴史はピノチェト軍政の負の遺産を裁くだろう
私はピノチェトのしたことを許さない」
こう明言する新大統領が誕生したのだ
アジェンデ政権のモスクワ大使であったラゴス
アジェンデ打倒を傍観していたブレジネフ・ソ連

歴史のめぐり合わせは何という皮肉に満ちていることであろう

(K.M)

【出典】 アサート No.268 2000年3月25日

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