【投稿】迫る破産の津波--経済危機論(24)

<<ハーツの破産>>
5/22、レンタカー業界・世界最大手のハーツレンタカー(Hertz)が米国の裁判所に対して、約190億ドル(約2兆円)の負債により、日本の民事再生法にあたる連邦破産法11条の適用を申請、破産を申請した。新型コロナ関連倒産では最大規模の倒産が表面化したのである。同社は、生き残りを図るため、売却可能なレンタカーを中古市場で販売し、空港外の営業所を統合し、設備投資を据え置き、すでに3月下旬には12,000人の労働者を削減、4,000人の一時帰休を進めていたが、さら

に雇用労働力の50%削減、20,000人の従業員削減を発表している。アメリカではシェア第1位であり、アメリカ国内で約1,900店、世界で約5,100店、日本では1999年4月からトヨタ自動車、トヨタレンタリース(TRR)と業務提携している。同社の稼ぎ頭は空港でのレンタカー事業であったが(上図)、航空機の運航停止が相次ぎ、需要が❝蒸発❞、同社は4月に車両リース代の支払い不能に陥り、債権者との協議に入っていたが、5/22が支払い猶予期限であった。経済危機の進行が、パンデミックの危機と結合したことによって、ありきたりの対策では追い付かない、予想外の急激な展開が容赦なく押し寄せてきているのである。
そしてこうした投資不適格な破産企業のジャンク債券を購入してきたFRB(米連邦制度準備理事会・中央銀行)が「今や、破産したハーツ債の誇らしき所有者」となったのである。
FRB議長・パウエル氏にとってのさらなる問題は、FRBが保有するこうした投資不適格なジャンク債発行企業が、数週間あるいは数ヶ月以内に破産申請をする企業が、実に数十社、あるいは数百社にも及ぶかもしれないことである。
5/20に公表された、FRBの米連邦公開市場委員会(FOMC)が4/28、29両日に開いた会合の議事録要旨は、「尋常でない不確実性」をとりわけ強調し、金融不安の懸念を重視、「パンデミックによる影響は、中期的に経済活動に対し、尋常でない不確実性と顕著なリスクを生み出している」との見解で当局者が一致した、「幾人かの参加者は金融安定への潜在的リスクについて言及し、市中銀行がより大きなストレスにさらされる可能性を参加者は懸念した」という。米経済で最も打撃を受けた部門の消費支出が「より正常な水準に早急に戻る公算は小さい」とし、多くの中小企業が破綻する、ないし新たな事業モデルにうまく適応できない可能性についての懸念も表明された、という。迫りくる破産のツナミをFRB自身が想定せざるを得ない事態の到来だと言えよう。

<<控える破産の大群>>
それにもかかわらず、ここ数週間、日本も含めアメリカの株式市場は乱高下があるものの上昇傾向を垣間見せている。それは、中央銀行が破綻を避けること、金融システムの崩壊を回避することが至上命題となっているがために、今や不良債権であれ何であれ、買い支える、際限なく資金を超低金利やゼロ金利で提供する、野放図な姿勢を続けていることが唯一の支えとなっている。今や株価は、こうしたFRBのヘリコプターマネーに支えられ、実体経済と全くかけ離れたものとなっているとも言えよう。むしろ、株価が上昇すればするほど、市場は脆弱になっているのである。
このほど発表された4月の米国の小売売上高は16.4%も減少し、工場生産高は先月13.7%減少し、いずれも最悪の記録を更新している。失業手当申請は、3650万人に上り、シカゴ連邦準備銀行によると、米国の実際の失業率は30.7%という史上最悪の記録に達している。失業の増大に伴い、無保険のアメリカ人の総数は現在の約2,800万人から4,000万人に増大することが必至となっている。
トランプ大統領が自慢してきた米国の石油掘削機の数は、歴史的な低水準に落ち込んでおり、石油リグの52%が閉鎖され、リグ稼働数は前年比で68%も減少している(5/22現在)。
こうした実体経済の最悪の状態にもかかわらずというか、それだからこそであろうが、3月から開始された中央銀行の救済措置獲得を目的として、カーニバル、マリオット・インターナショナル、デルタ航空からギャップ、エイビスに至るまで、ここ数週間で数十億ドルの債券やローンを新たに発行し、数え切れないほどの既に債務超過に陥っている企業がこれらに続いている。
今や船や飛行機を運行できないにもかかわらず、クルーズ会社でさえ債券市場から80億ドル以上を借り入れ、船から島まであらゆるものを担保にした債券を販売し、航空会社は銀行や投資家から140億ドル以上の新たな資金調達を受けている。もうけを手にするのはこうした金をあてに金融取引で、マネーゲームで肥え太るウォール街であり、1%の大富豪、金融資本である。
そしてこうした実体経済とかけ離れたゾンビ企業の借り手が、当面は生き延びれたとしても、今後数ヶ月あるいは半年も持たない、現金を使い果たし始めるや、中央銀行も対処しきれない債務不履行と破産のツナミがどっと押し寄せることが避けられないであろう。それは日本をも含めた世界経済大破綻への道筋でもある。事態は意外と差し迫っているのである。規模も数も増大する破産の大群が控えており、ハーツの破産は、その明らかな予兆と言えよう。
経済の再建にまったく役に立たない、1%のウォール街・金融資本・大独占・大富豪に奉仕するヘリコプターマネーではなく、99%の人々に、真の経済再建に貢献するニューディールこそが要請されている。
(生駒 敬)

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