<<トランプ大統領弾劾条項の更新>>
6/29付け米紙ワシントンポストは、オピニオン編集エディターのフレッド・ハイアット(Fred Hiatt)氏が「トランプ弾劾条項の更新」と題して、今年の1月、下院が送付した弾劾判決を上院が否決し、無罪としたが、それ以降、今日に至るまでの新たな弾劾条項の更新がなされるとすれば、として、以下の4項目の追加弾劾条項を上げている。
1.新型コロナウィルスへの対応の過失 : トランプは、利己的で政治的な目的のために、また株式市場が沈滞することを怖れて、故意に危険を認めることを拒否して、多くの人々を死に至らしめた。
2.法執行機関の権限の乱用 : トランプは、ビル・バール司法長官に、大統領と彼の仲間の一部を捜査していたD.C.とニューヨーク南部の米国弁護士を解雇させ、さらには、連邦法執行官に、平和な抗議者の修正第1条の権利を侵害させた。
3.任命権の乱用 : 2月以来、トランプは昨年の秋に下院捜査官に真実を語った誰彼をとわず大量の報復に乗り出し、内部告発者の苦情を議会に転送した諜報機関の検査官であるマイケルK.アトキンソンを解雇し、国防長官ジョン・ルード、国家情報局長代理ジョセフ・マグワイアおよび欧州連合ゴードン・ソンドランド大使を追放、コロナウイルスに対する政府の不十分な対応について報告した、または他の場所での説明責任を確保する立場にあった検査官を解任または置き換えた。
4.外交における権力の乱用 : トランプは、自らの大統領再選を支援するために、中国の習近平国家主席に、イスラム教徒強制収容所に承認を与え、米国の農産物を購入するように頼んでいた。
以上の4項目(要旨)により、トランプ大統領は明らかな弾劾罪を犯していると主張している。
<<同時に直面する5つの危機>>
この論説に先立ち、6/25付けニューヨークタイムズ紙は、「アメリカは同時に5つの巨大な危機に直面している」と題するオピニオンを掲載している。筆者はコラムニストのデヴィッド・ブルックス(David Brooks)氏である。氏は、「現在、アメリカでは5つの大きな変化が起こっている」、として要旨、以下のように述べている。
1. 新型コロナウィルスとの戦いに負けている : アメリカ人は世界中を見渡して、他の国がこのウィルスを打ち負かしていて、そして私たちが失敗している現実を見ている。
2.すべてのアメリカ人、特に白人のアメリカ人は、アフリカ系アメリカ人が毎日負担している負担について急速な教育を受けている : この教育は継続しているが、すでに世論は驚くべきスピードで変化しつつある。
3.アメリカは、政治的再編の真っ只中にある : アメリカの国民はドナルド・トランプの共和党を激しく拒否しつつある。
4.準宗教的な社会的正義が、真実の探求ではなく、権力構造における地位を維持するために支配的なグループが使用する武器となり、言葉が規制されるべき暴力の一形態となり得ることを示している。
5.アメリカは経済不況の危機に瀕しているが、それは長引く可能性がある : 州および家計の予算は落ち込み、企業の多くは危機に瀕し、健康不安への緊急事態が続くと、経済活動を完全に再開できなくなる可能性がある。
ブルックス氏は、「これらの5つの巨大な変化の相互作用が、いくつかのきちんとしたイデオロギーの物語に収まると思うなら、あなたはおそらく間違っている。人種格差に対処し、軍事化した警察を改革し、文化戦争を一段上のものにすることで、現在のコロナ危機と長引く経済不況に対処できると思うなら、あなたは間違っている」と述べ、連合を作り上げ、立法化する「ニューディールの実用的な精神」こそが、今後数年間のより適切なガイドであろうと、主張している。
とりわけ、1で指摘されている現実は深刻である。6/29、ニュース専門放送局のCNBCは、米国疾病予防管理センター(CDC)の主席副局長であるアン・シュチャット博士が「コロナウイルスは急速に広まりすぎており、制御するには広すぎ、米国が他の国々のようにこのパンデミックを制御することができる事態ではありません」、「このところ、1日あたり30,000を超える新しい感染が報告されており、ピークに達していると考えた4月の毎日の感染を上回る事態であり、ウイルスが循環しています」と、半ばさじを投げ、「人々が社会的距離をとり、マスクを着用し、手を洗うことによって感染の拡大を抑えるのを助けることができますが、ワクチンができるまでウイルスを止めるためにどんな種類の救済にも頼るべきではありません」と付け加えた、と報じている。事態の深刻さは、トランプ氏らの根拠のない楽観主義を厳しく弾劾しているとも言えよう。
<<孤立化する分断・挑発路線>>
パンデミック危機を放置し、むしろ促進さえしてきたトランプ政権の失政は、事態を非常に深刻なものとしている。事実、フロリダ、テキサス、アリゾナ、サウスカロライナ、オクラホマなど南部・南西部の各州は、すべて共和党の知事であり、トランプ再選の頼みとするところであるが、マスクの着用さえ拒否するトランプ氏に倣ってウィルス蔓延を放置してきたがために、「経済再開」どころか、これらの各州は、検査結果の陽性率も上昇し、新規感染者が劇的に増加し、パンデミック対策への無能力さをさらけ出している。
こうした事態の進展にいら立つトランプ氏は、前回にも紹介した、感染が増大する問題のオクラホマ州タルサ市で、6/19に予定されていたトランプ陣営のコロナ危機後の最初の選挙キャンペーン集会の大成功をもって反撃に乗り出す予定であった。ところがこれが大失敗に終わったのである。その日はそもそも、タルサで1921年に起きた、白人暴徒によって300人もの黒人を殺害した99年目を迎える日であり、集会の延期を要求し、抗議するタルサ市の共和党員女性らのテレビキャンペーンまで巻き起こし、さすがに一日だけ延ばしはした。しかし、トランプ氏は、「オクラホマ州に行く抗議者、アナキスト、扇動者、略奪者、または卑劣な人は誰でも理解してください。ニューヨーク、シアトル、またはミネアポリスにいたように扱われることはありません。まったく異なるシーンになるでしょう!」と、挑発的で暴力的な警察力・軍事力の導入をさえちらつかせる脅しのツイートまでしていたのである。
6/20当日、トランプ氏は、この集会には「100万件を超えるチケットリクエスト」があったと大いに自慢し、19,000席の会場では足りないのでと、野外に特設会場まで設定し、最低・最悪でも60,000人の出席を見込んでいたのであったが、実際に参加したのは6,200人で空席が目立ち、もちろん野外特設会場は取りやめる始末となった。事前チケット予約も抗議するフェイク予約にさらされて、そのほとんどが偽のエントリ送信であったことが明らかになり、トランプ陣営は今後オンラインサインアップを放棄する、としている。問題は、熱心なトランプ支持者でさえこんな危なっかしい集会には出席したくないという現実が明らかとなってしまったことである。
今や事態は、「トランプは歴史的屈辱から、脱落の可能性あり」と報じられるまでに至っている(6/29 alternet)。
しかし、トランプ氏はそんな生易しい、事態を冷静に判断できるような人物ではない、と言えよう。トランプ氏は6/28、「トランプは偏狭な人種差別主義者」と書かれたプラカードを掲げる人に向かって、白人男性が「ホワイト・パワー」と言い返す様子を収めた動画をリツイートし、「素晴らしい人々よ、ありがとう。何もしない過激左翼の民主党は、秋には落ちぶれる」とコメントしたが、批判が集まるや、その日のうちにツイートは削除されている。しかし、翌6/29には、セントルイスの白人カップルがライフル銃を振り回し、人種差別と警察の暴力に抗議する人々に向かって自動少銃で脅している動画を平然とツイートでを共有しているのである。(上のトランプ氏の共有ツィート動画)
トランプ氏は、分断・挑発路線でますます孤立化しているとはいえ、そしてそのことによってより一層政治的・経済的危機を劇化させているのであるが、そうした危機に対処できる「ニューディール」政策が明確にされ、圧倒的な合意と政治勢力の結集が勝ち取られない限り、トランプ氏らの蠢動する余地はまだまだあると言えよう。
(生駒 敬)