【投稿】米大統領選の結果が示すもの--経済危機論(33)

<<パンデミック対応の明暗>>
 「危険なほど無能」(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)、「ヒトラーよりも悪い」(ノーム・チョムスキー)とまで批判されてきたトランプ米大統領、ついに退場せざるを得ない事態に自らを追い込んでしまったと言えよう。トランプ氏は不正選挙・「盗まれた選挙」としてあくまで平和的な権力移譲を拒否し、分断と暴力を煽り、徹底抗戦の構えである。その動きは過小評価も過大評価もすべきではないであろうが、もはや事態を巻き返しはできない段階であろう。
 トランプ氏敗北の最大の要因は、新型コロナウイルスを徹底的に軽視し、感染拡大への対応が、「危険なほど無能」であったばかりか、自ら先頭に立ってパンデミックの「スーパースプレッダー」として行動し、一日に新規感染者が10万人を超えるような事態をもたらしてしまったことにある(11/6には過去最多の12万人6714人)。この感染拡大は、経済危機の拡大と結合したことによって、大量の失業者の増大と、健康保険資格喪失者の増大、感染が疑われても検査・診察、治療さえ受けられない、生活と健康をめぐる格差の拡大、セーフティネットの欠如を以前にもまして赤裸々にアメリカ社会に問題を投げかけたのである。
 本来なら、民主党のバイデン候補は、トランプ氏に大差をつけて圧倒的勝利を獲得できたはずであったが、上院選挙では逆転もできず(50:50の可能性は残されている)、下院選挙でもかろうじて多数派を維持できたに過ぎないのである。ここでも、民主党伸び悩みの最大の要因は、パンデミック危機対応にあったと言えよう。このパンデミック危機のさなかに、民主党主流はあくまでも医療を自由競争原理主義にゆだね、儲け主義本位の医療・製薬・保険・金融産業に媚びを売り、セーフティネットの構築をないがしろにし、バイデン候補自身が国民皆保険としてのメディケアフォーオール(Medicare for All)に反対し続けてきたことにあった。それでもバイデン氏が勝利できたのは、マスク装着と社会的距離を堅持し、対照的にあまりにもトランプ氏がひどかったからであろう。
 問題は、どちらの大統領候補も、パンデミックの時代に包括的なセーフティネットを提唱せず、事実上、最も脆弱な人々を置き去りにしたことにある。

<<「問題は、きわめて明快」>>
 民主党左派のオカシオ・コルテス氏は「問題は、きわめて明快」として、「どのような民主党員が敗北し、どのような民主党員が勝利したかを見ると一目瞭然」であるとして、民主党下院選立候補者のメディケアフォーオール(M4A)に支持か反対かで勝敗がくっきりと別れた対照表を明示している。(November 07, 2020 by Common Dreams

メディケア・フォー・オール(M4A)に賛成か反対か、    選挙の勝敗は

 バイデン氏は、トランプ氏に投票した人々も「愛国者」だとして、融和を図ることを第一義にしようとしているが、問題意識が外れているのである。敗北が歴然としている現段階に至ってもなおトランプ支持者には、投票集計所であるフィラデルフィアコンベンションセンターを武装攻撃せんとしてFBIによって逮捕されている「愛国者」もいるのである。彼らを「彼らは敵ではない。米国人なのだ」「私たちの国を愛する人々」だとして賞賛・迎合することに力点を置けば置くほど、自らの勝利を掘り崩しているのである。
 今回の大統領選で、トランプ氏は意外にも、黒人、ラテン系アメリカ人、LGBTQ、および女性の有権者の支持を、前回よりも相当大きく伸ばしているのである。それは、民主党がこうした人々への政策をないがしろにしてきた裏返しでもある。
 あるミズーリ州の共和党員ジョシュ・ホーリーがツイート(11/4 Josh Hawley @HawleyMO)して、「私たちは今、労働者階級の党です。それが未来です。」と述べ、大きな反響を呼んでいるのはその一つの証左でもあろう。うかうかしていると、2022年には上下両院とも民主党が敗北する事態を迎えよう。
 バイデン氏に問われているのは、パンデミック危機を抑え込み、経済危機を打開するためには、トランプ政権からの根本的政策転換が今決定的に必要、緊急不可欠なこと、ニューディル政策をを明確にすることであろう。
(生駒 敬)

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