【投稿】バイデンの大嘘:イスラエルに「自衛権」--経済危機論(49)

<<メディアが報じない「自衛」の実態>>
 バイデン米大統領が、アパルトヘイト(人種差別・隔離)国家であり、パレスチナ民衆のジェノサイドを推し進めるイスラエルのネタニヤフ政権を、「自衛」という名で擁護する姿勢を明確にさらけ出してしまった。トランプ前政権よりはイスラエルに批判的姿勢を選択するかに見せていたが、米国内のネオコン勢力とイスラエルロビー、ネタニヤフ政権に踊らされ、彼らの代弁者となってしまったのである。
 アメリカの政治的経済的危機から脱出する路線転換が問われていた、あの大統領選は、いったい何のための政権交代であったのか、台無しにしかねないものである。しかしそれは、バイデン政権が大上段に掲げる、凋落するアメリカ帝国の復権を狙う、中国・ロシアとの新たな冷戦挑発戦略にとって不可欠な中近東の火薬庫に手を出す、必然的な結果でもあるとも言えよう。今、最も必要な緊張緩和ではなく、今、最も避けられるべき緊張激化路線を選択したのである。

 ことの発端は、5/7、東エルサレム旧市街、シャイフ・ジャラーフ地区のパレスチナ民衆にとっての聖地、アルアクサにラマダン月(約 1か月におよぶ断食)最後の金曜礼拝に向けて、何万人ものパレスチナ人が朝から参集しているモスクを、武装したイスラエルの警察と軍隊が包囲し、爆弾、催涙ガス、ゴム弾を発射して、襲撃したのである。

 名目は、イスラエル当局が推し進める東エルサレムの2000人に及ぶパレスチナ人立ち退き政策、シャイフ・ジャラーフに住むパレスチナ人38家族への立ち退き命令の実行である。しかしこれは、占領地への入植活動や併合を禁止し、「個人的若しくは集団的に強制移送し、又は追放すること」、「不動産又は動産の占領軍による破壊」を禁止するジュネーブ第四条約と国連安保理決議478号によって「国際法違反で無効」とされているものである。
 この無理無体を強行するイスラエル側の政策、襲撃によって、この日、300人以上の負傷者が続出、これに抵抗した人々が次から次へと拘束される事態が引き起こされたのであった。この事態を受けて、ガザ地区のパレスチナ人居住区を実効支配しているイスラム抵抗運動組織・ハマスは、午後6時までにアルアクサとシャイフ・ジャラーフ地区からのイスラエル軍・警察の撤退と、拘束されたすべてのパレスチナ人を釈放しなければ、報復が行われるだろう、とイスラエル側に最終警告を出していたのである。午後6時過ぎ、警告通りハマスはガザからロケット弾を数発発射したのであった。これこそまさに「自衛」の警告砲撃であった。イスラエル側は、待ってましたとばかりにガザ地区への激しい空爆での圧倒的報復攻撃を開始したのである。マスメディアは一切こうした経緯を報じていないばかりか、いかにもイスラエル側がやむにやまれぬ「自衛」、「自らを守る」行為にしかすぎないかのように描き出しているのである。とんでもない悪質・悪辣な行為、テロリスト国家として行動するイスラエルの人種差別と民族浄化、国際法違反の戦争犯罪を弁護しているのである。
 この事態に関連して、菅政権の中山泰秀防衛副大臣が5/12、「私たちの心はイスラエルと共にある」「イスラエルにはテロリストから自国を守る権利があります」とツイッターで投稿し、イスラエル大使館から「我々が聞きたかったことであり、感謝している」と大いに歓迎されている。5/18、参院外交防衛委員会でこのツイートを追求された中山氏は、「個人として行わせていただいている」と撤回を拒否している。しかし、これは5/11の外務省の見解「イスラエル政府当局による東エルサレムにおける540棟の入植地住宅建設計画は、我が国が国際法違反として幾度となく撤回を求めてきたイスラエル政府による入植活動の継続にほかならず、まったく容認できません。イスラエル政府に対し、その決定の撤回及び入植活動の完全凍結を改めて求めます。」「日本政府は、すべての関係者に対し、一方的行為を最大限自制し、事態の更なるエスカレートを回避し、平穏を取り戻すよう強く求めます。」と言う日本政府としての公式談話を完全に否定するものなのである。

<<アパルトヘイト国家・イスラエルにフリーパス>>
 5/12、バイデン米大統領は今回のガザ空爆に至る経緯を意図的に無視・隠蔽して、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で会談した際に「イスラエルが市民を保護しつつ、自国と国民を守る正当な権利に対し、揺るぎない支持を伝えた」のであった。会談後、バイデン氏は「イスラエルには自衛する権利がある」と述べ、5/13には記者団に対して、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザに対する空爆について「著しい過剰反応ではない」との認識を明らかにした。このバイデン氏の発言から数時間後、イスラエルはガザでの空爆強化とともに、さらに地上部隊の3個旅団の追加を決定したのである。こうしてバイデン政権は、イスラエルの人種差別・民族浄化戦争を「自衛」戦争として祭り上げるフリーパスを与えたのである。そもそも占領者に、被占領者を守る義務はあっても、被占領者からの「自衛権」など存在しないのである。
 これは、ネタニヤフ政権の戦争犯罪と民族浄化政策への加担・共謀を改めて確認したものと言えよう。トランプ前政権と同様、上っ面のモラルやバランス感覚さえもかなぐり捨ててしまったのである。
 5/17、米国内はもちろん全世界からの非難や抗議をかわすため、バイデン氏はネタニヤフ首相と再度電話協議し、「停戦を支持する」と表明したが、その際にも「自国を守るイスラエルの権利を断固として支持する」と改めて表明し、「罪のない市民を保護するためにあらゆる努力をするよう促した」という。「罪のない市民」を攻撃し、パレスチナ人に襲い掛かっているのはイスラエル側なのである。バイデン氏は、パレスチナの民間人を殺害し、住宅を破壊しているイスラエルの空爆、今回の端緒を招いたアルアクサモスクでのイスラエルの攻撃を、一切非難もせず、一言の批判さえもしていないのである。

全米各地で展開されたフリーパレスチナ・イスラエル空爆抗議のデモ(5/16 ロサンゼルス

 5/14、アメリカ議会で最初で唯一のパレスチナ人女性である民主党下院議員のラシダ・ハルビ・タリーブ議員は、こうしたバイデン氏の発言に対して「パレスチナ人家族への攻撃が行われ、住宅が破壊され、家族が引き裂かれているという認識がありません。子供が拘留または殺害されたという言及もありません。人々がひざまずき、祈っている間、アルアクサがイスラエル警察・軍の暴力、催涙ガス、煙に囲まれていることについての言及もありません。」「バイデン大統領、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官、そして民主・共和両党の指導者の声明を読むと、パレスチナ人の存在がほとんど無視されています」と、厳しく批判している。

 ここには、前トランプ政権と同様、年間38億ドルのアパルトヘイト国家への軍事援助・補助金を終わらせたくない、その軍需から莫大な利益を得ている軍産複合体の利害をあくまでも継続したい、さらにはイスラエルをてことして崩れつつある中東の石油支配、ペトロダラー支配体制を何としても維持したい、という政治的経済的利害がバイデン政権においても貫かれていることが明らかである。
 米国はイスラエルへの武器の最大の売り手であり、ガザ攻撃に使用されている軍事兵器には、362機の米国製F-16戦闘機、F-35の艦隊を含む100機の米軍機、45機のアパッチ攻撃ヘリ、600M -109榴弾砲と64M270ロケットランチャー、等々、すべて米国が供給したものである。米軍はまた、イスラエルの6カ所に18億ドルの武器の備蓄を維持しており、中東での戦火拡大に備えて事前に配置されている。2014年のガザ攻撃の際には、この米国の備蓄武器からイスラエル軍が120mm迫撃砲弾と40mmグレネードランチャー弾薬の在庫を引き渡すことを承認している。
 空爆開始の直前、5/5にはバイデン政権自身が、イスラエルに7億3500万ドル相当の精密誘導兵器を売却することを承認している。
 かくして、バイデン氏が今回、イスラエルのアパルトヘイト政策を擁護する政治選択をしたことによって、氏自身が繰り返してきた超党派的に共和党と手を組んだのである。しかし、これはバイデン政権誕生の積極的役割を自ら否定するものであり、こうした政策を続けるかぎり、バイデン政権の存在意義は雲散霧消し、見放されざるを得ないと言えよう。
 近年イスラエルに近づきつつあった国々でさえ、今回のパレスチナ人に対する攻撃に対しては明確な批判声明を出し、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、バーレーンなどの国々からの声明は、いずれも濃淡の違いはあれ、「違法なイスラエルの慣行」とガザ地区への空爆を非難し、停戦と緊張を緩和する措置を講じるようイスラエルに要求しているのである。
 バイデン政権の与党民主党内においてさえ、発言力を増してきた左派のみならず、今回は、下院予算防衛小委員会の委員長として米国の対外軍事援助に影響力を持っているマッカラム議員が、「米国の年間軍事援助における無制限で無条件の38億ドルは、説明責任がなく、議会による監視がないため、イスラエルによるパレスチナ占領に青信号を与えている」、「これは変更する必要があります。イスラエルへの1ドルの米国の援助は、パレスチナの子供たちの軍事的拘留、パレスチナの土地の併合、またはパレスチナの家の破壊に向けられるべきではありません。」と明確に述べる事態である。
 バイデン政権は進退窮まり、イスラエルに「停戦」を持ち掛けざるを得ない事態であるが、フリーパスを与えてしまったバイデン政権にはもはや、事態を平和的に転換するイニシアティブなど期待できない段階に自らを追い込んでしまった、と言えよう。
(生駒 敬)
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