<<「これが戦争の代償だ」・殺害された67人の子どもの写真>>
5/27、イスラエルの新聞「ハーレツ」(Haaretz)紙が、「これが戦争の代償だ」と題して1面表紙に、イスラエル軍の猛爆撃によって殺害されたパレスチナ人の子ども67人全員の写真と体験談を掲載した。前例のない事態である。これまでイスラエルの主流メディアはイスラエル軍の軍事作戦やイスラエル政府の暴力的人種隔離政策によるパレスチナ人の犠牲者を報道してこなかったことからすれば、「大胆な行動」だと見なされている。イスラエル国内の組織やメディアがイスラエル軍の攻撃による人的被害を公表しようとすれば弾圧し、抑え込まれてきたことからすれば、確かに異例な事態である。
「ハーレツ」はさらに、「イスラエルのイラストレーターがガザ紛争で犠牲になった子どもたちを追悼」と題して、イスラエルの美大生が、他のイラストレーターと協力して、命を落とした子どもたちを追悼し、自分たちの持つツールで自らの痛みを表現した追悼のイラストを大きく紹介している。ベザレル芸術デザインアカデミーのビジュアルコミュニケーション科4年生のオル・セガールは、「私は、静かで強く、物事をさらに悪化させないような方法で仕
事をしたいと思いました」、「慣れ親しんだイラストとデザインというツールを使って、兄弟愛をもってそれを行うことにしました」とハーレツに語っている。
バイデン米大統領も強く後押しした「自衛権」の名による戦争犯罪がイスラエル国内においてさえ公然と問われ出したのである。
圧倒的な武力、重武装の イスラエルは、アメリカ、フランス、イギリス、EUから供給された兵器 砲艦、戦車、砲弾、ドローン、F16、F35ジェットを使用して、ガザを自由に爆撃、病院や水道などのインフラまで破壊、殺害したのである。ガザにはこのような一方的な「自衛」に対抗できるような陸軍も海軍も空軍もない。それでも、ガザのハマスが率いる抵抗運動は、過去11日間で約4,000発の自家製ロケットを発射し、さらに数か月間発射し続けられる備蓄がまだあると述べている。圧倒的な軍事力格差は厳然としてあるが、ハマスを見くびっていたイスラエル軍が地上部隊を侵攻させることができなかったのも事実であろう。この11日間の戦闘の過程で、米バイデン政権は、5回の即時停戦を求める国連の提案を阻止している。しかしついに内外からの圧力によって、イスラエルは停戦に応じざるを得なかったのである。
あくまでも一時的な停戦合意であろうが、その合意までの11日間の死亡者数を比較しただけでも、暴力とジェノサイドの一方的な本質は明瞭である。67人の子供を含め、248人のパレスチナ人が殺害されている(イスラエル側は12人、内、子ども1人)。
国連の集計によると、6つの病院、53の学校、11のプライマリヘルスケアセンターを含む450近くの建物が被害を受け、258棟、1,000戸以上が破壊され、14,500戸が被害を受け、10万人以上が国内避難民となり、3つの主要な淡水化プラント、送電線、下水処理場が破壊されている。
しかし、もはやこうした戦争犯罪とジェノサイド・アパルトヘイト政策を隠蔽しきれない情勢の到来と言えよう。アメリカや西ヨーロッパの政権が、中東で唯一の「自由と民主主義」の価値を代表し、体現する国として称揚してきたイスラエルが、今や「自由と民主主義」の価値を踏みにじる政権として問われ出したのである。
<<歴史的な「尊厳のストライキ」>>
こうした事態の変化をもたらした重要な要因の一つは、これまで抑圧され、分割支配され、統一した闘いが形成されていなかったパレスチナ人の抵抗運動が、今回目覚ましい前進と統一した運動を作り上げたことである。
その象徴が、5/18のゼネストの呼びかけであり、それがイスラエル国内パレスチナ人においてさえ大きく支持され、成功したことである。この何百万人ものパレスチナ人が参加した、イスラエル政権の暴力と民族浄化キャンペーンの終結を求める「尊厳のストライキ」と呼ばれた、歴史的なゼネストであり、これまでに見られなかった幅広い統一戦線の前進であった。この予期せぬゼネストに最も驚いたのは、イスラエルのネタニヤフ政権であった。
2021年5月18日に、東エルサレム、ガザ、イスラエルのパレスチナの村や町を含む、占領下の西岸地区のすべての経済、商業、教育
施設をゼネストで閉鎖する統一行動を展開したのであった。これまでバラバラで、別個に行動していた政党、組合、シンジケート、さまざまな抵抗運動、市民組織がこぞって支持を表明し、合流したのである。イスラエルの労働力の大部分はイスラエルのパレスチナ市民、エルサレムのパレスチナ人、そして西岸地区のパレスチナ人の労働力に依存しているがゆえに、その影響力は巨大である。
とりわけネタニヤフ政権に打撃を与えたのが、イスラエル本国内のパレスチナ市民の参加であった。イスラエル本国内の人口の約20%を占め、経済の約3分の1は、イスラエルのパレスチナ市民に大きく依存しているからである。国内の建設、公共交通機関、地方自治体のごみ収集がゼネストによって停止され、大打撃を与えたのである。イスラエルの病院では、多くの医師、看護師、および保守スタッフがイスラエルのパレスチナ市民であり、彼らは医療とイスラエル経済を危機に追い込み、屈服させる能力を発揮したわけである。
パレスチナ人は、今回のゼネスト、蜂起を「統一インティファーダ」と呼んでいる。
それでも懲りない米バイデン政権は、停戦が発表された後の段階に至ってもなお、イスラエルの「自衛権」を断固として支持し、ネタニヤフ首相に継続的な米軍の支援を「保証」することを表明し、イスラエルのミサイル防衛システム「アイアンドーム」の「補充」を支援することまで約束している。申し訳程度にガザ地区復興支援に550万ドルの緊急災害援助の提供し、[国連救援活動機関]の緊急人道支援に3200万ドル強を提供することを表明したが、同時に5/21、イスラエル政府に7億3500万ドルの先進兵器の輸出許可をボーイング社に与えている。それは、米政権が毎年「軍事援助」としてイスラエル政府に提供している38億ドルから支払われるものである。この圧倒的な差、そしてバイデン大統領が提案した7530億ドル(2021年度比1.7%増)の2022年新年度軍事予算、トランプ前政権をも上回る軍事予算、アメリカ以下、中国・ロシアをも含めた10カ国の軍事予算合計額よりも大きい軍事予算こそ、バイデン政権の、中国、ロシアとの新たな冷戦を仕掛ける帝国としてのアメリカの意図、政治的・経済的危機の現われが露呈したものと言えよう。それは、袋小路の危機と矛盾を一層深める路線であり、支持を失わせ、孤立化させられなければならない路線である。
(生駒 敬)