<<「バケツの一滴」>>
6/13、英南部コーンウォールで開かれていた先進国G7(グループ オブ セブン)サミット閉会式で発表された公式コミュニケは、「現状を変更し緊張を高める、いかなる一方的な試みにも強く反対する」と名指しは避けながらも中国を牽制し、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」とする首脳宣言を採択して閉幕した。しかし、米国と欧州は中国に対する戦略的利害関係が大きく異なっており、バイデン政権が主導した中国およびロシアに対する敵対的・冷戦的対決志向に対しては、ドイツ、イタリア、EU首脳が反対し、コミュニケは「中国と世界経済における競争に関して、我々は、世界経済の公正で透明な運営を損なう非市場的な政策や慣行に挑戦するための集団的なアプローチについて、引き続き協議する」と、きわめて妥協的なものにならざるを得なかった。中国の「一帯一路構想」に対抗するインフラ建設計画(Build Back Better World より良い世界を築く B3Wイニシアチブ)に至っては、その具体的概要さえ示すことはできなかったし、その意欲さえ疑問視される程度のものであった。
一方、世界中が深刻な危機に見舞われている新型コロナウイルスによるパンデミック危機に対しては、G7はその無力さ、リーダーシップのなさをさらけ出してしまった。アメリカは5億回分のワクチンを世界に提供することを「約束」し、G7全体としては、途上国などに10億回分のワクチン提供を表明したものの、実際に新たに公約された分は6億1300万回分にとどまるものでしかなかった。6/12、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、パンデミック収束には世界人口(約80億人)の7割の接種、110億回分が必要だと表明していたが、その10分の1以下なのである。ワクチン接種を必要としている何十億人もの人々にとっては「バケツの一滴」に過ぎないと批判される事態である。
変異ウイルスが次から次へと出現し、収まりかけていたものが、さらに世界中に広がるにつれ、すべての国、地域が守られない限り、収束などありえないということが誰の目にも明らかになってきているにもかかわらず、「世界の救世主」を装ってもこんな程度の対処能力しか持ち合わせていないのである。
<<「恥ずべきコミュニケ」>>
G7開催国議長のイギリスは、将来の必要量をはるかに超えるワクチンを保有しているにもかかわらず、ただの一度もワクチンを開発途上国に輸出していない。アメリカもこれまで一度もワクチンを輸出していないが、ようやく今年後半に8000万本のワクチンを輸出することを約束したにすぎないのである。対して彼らが敵視する中国は、3億回以上のワクチンを開発途上国に輸出しており、ラテンアメリカでのワクチン接種の半分以上は、中国が調達したものである。こうした現状は、明らかに「民主主義国のリーダー」を自任するG7諸国のふがいなさ、地位の低下、無責任さを象徴しているものと言えよう。
ジョンソン首相:やったぜ! 大手製薬会社の利益を守るために、何十億ものコビッド・ジャブをできるだけ早く作るという計画を阻止。貪欲と資本主義、私の友人です。(2021-06-14 Global Justice Now)
とりわけ問題なのは、トランプ政権に代わって「民主主義国のリーダー」として「戻ってきた」はずのバイデン政権が、この5月に世界貿易機関(WTO)で提起したはずの大手製薬企業のワクチン特許の権利放棄提案を、G7の議題にさえ載せられず、討議さえ放棄してしまったことである。世界が注目するこの肝心かなめの問題点について、グローバル・ジャスティス・ナウは声明の中で、コミュニケでは「『ワクチンは公共財である』、『公平なアクセスが必要である』と強調しながら、全く反対の原則を謳った知的財産権制度を強化している」として、「恥ずべきコミュニケ」だと弾劾している。
また、オックスファムの不平等政策担当責任者であるマックス・ローソンは、「この100年で最大の健康上の緊急事態と、地球を破壊しつつある気候上の大災害に直面しながら、富裕国のリーダーたちは、現代の課題に対応することに完全に失敗した」、大企業の「利益優先」を至上命題とした「今回のG7サミットは悪名高いものになるだろう」と声明の中で述べている。
G7のリゾート地上空でジェット機曲芸飛行を、ステーキとロブスターのBBQで祝杯をあげるG7のリーダーたち(2021-06-14 Greta Thunberg)
気候変動活動家のグレタ・トゥーンベリは、G7首脳たちのイギリス空軍のジェット戦闘機の曲芸飛行を楽しむ写真を紹介しながら、「気候と生態系の危機は急速に深刻化しています。G7は化石燃料に莫大な金額を費やしていますが、CO2の排出量は年間で過去2番目の増加率になると予測されています。これは、G7のリゾート地の上空でジェット機が曲芸飛行をしている間に、ステーキとロブスターのBBQで祝杯をあげることを意味します。G7のリーダーたちは、空虚な気候変動対策の公約を発表したり、昔の未達成の約束を繰り返したりして、本当に楽しんでいるようです。」と、徹底して皮肉を込めてこき下ろしている。
G7に出席した菅首相は、東京オリンピック・パラリンピックの開催について、 「(G7参加国の)全首脳から大変力強い支持を頂きました。こうした支持を心強く思うとともに、東京大会を何としても成功させなければならない」と、関心がコロナ危機にも気候危機にも全くなく、ただただ自己の政権維持にしかないままG7にお添え物程度にしか出席していなかったことを告白してしまっている。今回のG7サミットが「恥ずべき」、「悪名高いもの」になるのも、当然と言えよう。
(生駒 敬)