<<バイデン「攻撃あれば、台湾を守る約束です」>>
10/21の夜、米ニュースチャンネル・CNNのタウンホールで開かれたイベントで、バイデン米大統領は、アメリカは台湾を守るかどうかを聞かれて、「攻撃あれば、台湾を守る約束です」と答えた。これまで長年にわたって維持されてきた「戦略的曖昧さ」と決別する発言に一歩踏み出したものである。決定的瞬間とも言えよう。その詳細は以下の通りである(RT 22 Oct, 2021 05:59 による)。
この質問は、ロヨラ大学(Loyola University)の学生と名乗る聴衆から出されたもので、北京が 「極超音速ミサイルの実験をしたばかりだ 」と指摘した後、用意された質問のリストを読み上げながら、「台湾を守ることを誓えるのでしょうか?」と質問したのであった。この質問に対して大統領は「イエス、イエス」と答え、「我々は軍事的に、中国、ロシア、その他の国も知っているように、世界の歴史上最も強力な軍隊を持っている。彼らがより強力になるかどうかを心配する必要はありません。」、「しかし、彼らが重大な過ちを犯すかもしれない立場に置かれるような活動をするかどうかは心配しなければならない」と答えたのである。
CNNの司会者・アンダーソン・クーパー氏は、やや唖然とした様子で、「中国が攻撃してきたら、アメリカは台湾を守ると言っているのですか?」とあらためて問いかけ、説明を求めた。これに対して、バイデン氏は「はい、私たちはそうすることを約束しています(Yes, we have a commitment to do that)」と答えたのであった。ここで言われている「コミットメント」は、約束、公約というものである。
しかし問題は、この「コミットメント」とは具体的には一体何なのかは、明らかにされていないし、不明なのである。米国と台湾は、相互防衛条約を結んでいないのである。中国は「一つの中国」政策の下、台湾を中国の一部とみなしており、歴代米政権は1979年・米中国交樹立以来、何十年にもわたってこれを事実上是認し、黙認してきたのである。
米国は一方で、国内法規として台湾との関係を規定する台湾関係法(TRA Taiwan Relations Act)で、米国は台湾が「十分な自衛能力」を維持するために「防衛用品および防衛サービス」を提供することが認められているが、この法律では、それが何を意味するかを正確に判断するのは議会とホワイトハウスに委ねられている。したがって、バイデン氏のいう「コミットメント」にこれが当たるものではない。もちろん、いざとなれば牽強付会、無理やりこじつけることはできよう。しかし現時点では、対象外であろう。
<<米上院、ペンタゴンの要請に100億ドル上乗せ>>
バイデン氏の発言に慌てたホワイトハウスは、バイデン氏のタウンホールでの発言は、米国の対台湾政策の正式な変更を示唆するものではないことを明らかにし、報道官は、米台関係は引き続きTRAによって導かれると述べて、それ以上に踏み込むことを避けたのであった。そして台湾側も、バイデン大統領の発言に対して、自衛を堅持する決意を表明する一方で、バイデン政権による台湾への「揺るぎない」支援を高く評価したのであった。
もちろん、このタウンホールイベントでの発言の後、バイデン氏はこれまでと同様に、北京との「冷戦」は避けたいと繰り返し主張していたことも事実である。しかし、相反する発言が次第に危険な前のめりに傾きつつあることは否定しえないし、それが一挙に大きく動き出す可能性に近づきつつあることをも示していると言えよう。
10/18、こうしたバイデン大統領の意向に呼応するかのように、米上院の国防予算委員会は、国防総省(ペンタゴン)の年間予算を7,258億ドルとし、昨年より290億ドル増額、しかも国防総省の要求額より100億ドル多く上乗せすることを承認している。
問題は、この国防予算委員会の採決が、民主党のバーニー・サンダース上院予算委員長が委託した超党派の議会予算局が、今後10年間で国防総省の支出を1兆ドル削減する方法をまとめた新しい報告書を受けて、これに対抗するものとして採択されたことである。ここで民主党右派と共和党が超党派でがっちりと手を組んだわけである。これは「超党派の合意」を重んずるバイデン氏も望んだものでもあろう。しかし、同じバイデン政権が提案する医療、育児、住宅、再生可能エネルギーへの3.5兆ドルの投資法案は、ことごとく民主党右派と共和党の反対によって頓挫し、反貧困プログラムやクリーンエネルギーの取り組みは大幅に削減、減額され、成立さえ危ぶまれているのである。サンダース氏は、現在の米国の軍事費は冷戦時代の最盛期よりもさらに増加しており、無駄が多いだけでなく、根本的に反民主主義的であると厳しく批判している。
すでに9月には下院軍事委員会が、バイデン氏が提案した2022年度の軍事予算7,530億ドルに239億ドルを上乗せする共和党提出の修正案を賛成多数で可決しており、年間7,800億ドル近くに達しており、トランプ政権下の7,400億ドルを上回っているのである。
反戦団体のコードピンクは、10/18の声明の中で、「軍事費をさらに増額させることを承認することは、言語道断であるだけでなく、危険であり、地球上の生命の未来を著しく脅かすものである。受け入れがたいものであり、地球の未来に対する最大の脅威である気候変動に適切に対処する連邦予算を求めて、ワシントンD.C.で精力的にデモを行ってきた何千人もの活動家の顔に平手打ちを食らわせるものである」と強く抗議している。
バイデン氏は、政治的経済的危機の回避を、軍事的緊張激化にゆだねる危険な道、その岐路に立っており、自ら作り出した何の根拠も必要性もない、有害無益な「新冷戦」から一刻も早く抜け出さなければ、危険極まりない泥沼に足を取られるであろう。
(生駒 敬)