<<主観的希望の「政権交代」論>>
10/31投開票の衆院選の結果、自民党は選挙前勢力の276から15議席減らしたものの、単独で過半数(233議席)はもちろん、17の常任委員会すべてで委員長を出したうえで、なお過半数の委員を確保できる「絶対安定多数」の261議席を確保した。その上に、自民を右から補完し、連携する維新が、大阪の自民をゼロにして入れ替わり、公示前の4倍近い41議席を獲得、自民、立憲に次ぐ衆院第3党に躍り出る事態となった。
野党共闘による政権交代どころか、自民党政権は第4党の公明(32議席)との連立に加え、いつでも維新との連立も可能となる選択肢を保持し、憲法9条改悪の基盤をさえ広げたのである。
一方、野党第一党の立憲民主党は、公示前の110議席から96議席へと14議席減らす結果となり、責任を問う声が広がり、11/2、枝野代表、福山幹事長が辞任表明の事態に追い込まれることとなった。
共産党は、12議席から10議席に後退、議席数では国民民主(8議席から11議席)の後塵を拝することとなり、第5党となった。共産党の志位委員長は、敗因を「わが党の力不足によるものだと考えます」「次の機会で必ず捲土重来を期したい」と述べ、これまでと同様の責任回避論である主体強化論に逃げ込み、責任論には一切触れない姿勢を表明している。
このような選挙結果をもたらした要因はどこにあるのであろうか。
第一は、自民党は、菅政権のままでは事態を乗り切れないどころか、政権から転落しかねない危機感から、すばやく路線転換をしたこと。党首交代を大々的な公開選挙で演出、岸田文雄氏が新自由主義路線からの転換を表明し、有権者に期待感を抱かせ、眉唾路線が露呈する前に選挙に突入できる情勢に持ち込んだ。
第二に、野党勢力は、こうした事態を前にしても、野党共闘のかなめである、立憲、共産ともども、民主的公開性にまったく無関心であるばかりか、決定的に欠けていたこと。それを変えよう、変わろうとする努力さえ見受けられず、自民党の党首選をただただ見過ごしてしまったこと。有権者からの批判や、下からの意見や共に闘う仲間からの意見・政策などをどんどん取り入れ、公開し、議論する姿勢が皆無であったこと。今や、こうした旧態依然とした上意下達の幹部・指導部体制が有権者から見放されていることに気づいていないのである。
第三に、野党共闘前進に、常に優柔不断な姿勢が付きまとっていたこと。立憲民主は共産との共闘を拒否する連合路線に配慮して、全面的な共闘体制に踏み込まず、バラバラな共闘体制が有権者にも見え見えであったこと。共産党もいくつもの選挙区で独自候補を立てて、自民党に漁夫の利を進呈する、中途半端な共闘路線であったこと。
第四に、そうした野党共闘の実態にもかかわらず、そして野党の政党支持率が一貫して一けた台で、足し合わせても10%台という低さにもかかわらず、「政権交代」が可能であるかのような幻想を振りまき、主観的願望を先行させてしまって、有権者から見放されたたこと。
こうした要因こそが、野党共闘を阻害し、自民党政権を助けたと言えよう。
<<「せめて謝罪を」>>
党首に関して言うならば、野党勢力こそが、すばやく切り替えるべきであったと言えよう。原発被災地の「民の声新聞」10/23号は、「政権交代のために投票するが枝野だけは許せん…」 野党共闘の陰で原発事故被害者が抱える「ただちに影響ない」への怒りと葛藤 という記事を載せている。
「総選挙の投開票日を31日に控え、原発事故被害者たちがジレンマを抱えている。2011年3月の事故発生直後、当時の枝野幸男官房長官が連呼した『ただちに影響ない』が魚の小骨のように喉に引っかかっているのだ。…わが子を被曝から守ろうと必死だった親は『せめて謝罪を』と願う。『枝野だけは許せない』と憤る人も。」
枝野氏が立憲民主党立ち上げに大いに功績があったことは間違いないではあろうが、「せめて謝罪を」という声にいまだに応えていないのは、まったく理解しがたいことである。
そんな枝野氏を大いに持ち上げ、野党共闘による「政権交代」の到達目標は、「枝野政権」樹立であると公言する、共産党の志位委員長の姿勢も理解しがたいものである。そもそも20年以上も委員長在任という共産党の実態が、いかに硬直化しているかの証でもあろう。志位委員長によって、野党共闘路線が共産党史上初めて実現したかのように、しんぶん赤旗では喧伝されているが、もしそうであるならば、それまでさんざん独自候補擁立路線で野党共闘・統一戦線を破壊し、自民党を利してきたこれまでの路線の謝罪があってしかるべきであろう。枝野氏と同様、志位氏から一切これまでの路線の「謝罪」など一言も表明されていないのである。
それであっても、枝野氏は辞任を表明した。さて、志位氏は、どう処すべきなのかが問われていると言えよう。
あらためて、選挙結果の概観は、以下の通りである。
比例区の得票数、得票率 2017総選挙の得票数、得票率
比例区 | 得票数 | 得票率 | 2017得票数 | 2017得票率 |
自民 | 19,913,883 | 34.6 | 18,555,717 | 33.3 |
立憲 | 11,492,088 | 19.9 | 11,084,890 | 19.9 |
公明 | 7,114,282 | 12.3 | 6,977,712 | 12.5 |
維新 | 8,050,830 | 14.0 | 3,387,097 | 6.1 |
共産 | 4,166,076 | 7.2 | 4,404,081 | 7.9 |
国民民主 | 2,593,354 | 4.5 | 2,215,648 | 3.8 |
れいわ | 215,648 | 3.8 | —- | —- |
社民 | 1,018,588 | 1.7 | 941,324 | 1.7 |
各党の獲得議席数(小選挙区・比例区・合計・公示前)
議席数 | 小選挙区 | 比例区 | 合計 | 公示前 |
自民 | 189 | 72 | 261 | 276 |
公明 | 9 | 23 | 32 | 29 |
維新 | 16 | 25 | 41 | 11 |
立憲 | 57 | 39 | 96 | 109 |
共産 | 1 | 9 | 10 | 12 |
国民 | 6 | 5 | 11 | 8 |
れいわ | 0 | 3 | 3 | — |
社民 | 1 | 0 | 1 | 1 |
野党共闘を構成する立憲民主、共産、社民、それぞれ、得票数、得票率、議席数で減少、低迷が歴然としている。
しかしその現実と実態の上に、野党共闘破産路線ではなく、野党共闘惨敗の中でもその有効性があらためて確認されたいくつもの成果を引き継ぎ、野党共闘を前進させることこそが問われている。
(生駒 敬)