<<トランプ「ガザへの爆撃を直ちに停止する必要」>>
トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が共同で、20項目からなる「ガザ和平計画」を発表したのが、9月29日であった。
10/3、ハマスはその一部の受け入れを表明、
10/4、トランプ大統領は、直ちに「イスラエルはガザへの爆撃を直ちに停止する必要」を表明。
事態の急速な展開である。
その焦点となった「ガザ和平計画」の主要な内容は、以下の通りである。
* ガザは住民の利益のために「再開発」され、軍事インフラや「テロ」インフラは存在しない。
* 撤退条件とイスラエル兵捕虜の釈放が満たされるまで、すべての軍事作戦と戦線は即時停止される。
* イスラエルの受諾後72時間以内に、生存者・死亡者を問わず、イスラエル軍捕虜全員が帰還する。
* 2023年10月7日以降に拉致された終身刑囚250名とガザ地区住民1,700名の釈放。
* 「平和共存」を約束し、武器の廃棄を約束するハマス構成員には恩赦と安全な通行を認める。
* 国連機関、赤新月社、その他の機関を通じ、干渉なく国際援助物資を入国させる。
* 「平和委員会」の監督の下、パレスチナのテクノクラート委員会による暫定統治を行う。(統治は、トランプ大統領が議長を務め、トニー・ブレア元英首相をはじめとする西側諸国の要人を含む暫定的な国際機関「平和委員会」が担当する。)
* 特別経済区を設置する。
* ガザからの出国または帰還を希望する住民の自由な移動を認める。
* 独立監視団の監視の下、ハマスおよびその他の抵抗勢力の武装解除を行い、武器の買い戻しと社会復帰プログラムを実施する。
* ガザが「近隣諸国」に脅威を与えないことを地域パートナーが保証する。
* パレスチナ警察の訓練・支援、国境警備、援助の円滑化を目的とした国際安定化部隊の派遣。
* イスラエルの撤退は、非軍事化と安全保障枠組みの確立、そして暫定政権への段階的な移譲を条件とする。
この「和平計画」で注目すべき点として、1.ガザの住民は誰もガザ地区を離れる必要がなく、住民の自由な移動を認める、2.ハマスはガザの行政に直接的・間接的に関与しない、3.さらに、アラブ諸国と非アラブ諸国で構成される国際安定化部隊(ISF)の創設が提案され、エジプトとイスラエルはISFと協力してガザの平和維持にあたる、4.イスラエルはガザの併合や占領ではなく、イスラエル軍はガザから段階的に撤退する、としていることである。
この「和平」案は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区を現在のイスラエル領と見なす地域から分離し、パレスチナ主権国家を樹立するという二国家提案を、トランプ政権やネタニヤフ政権が受け入れるという保証を一切与えてはいない。ましてや、ハマスとパレスチナ自治政府によってそれぞれ統治されているガザ地区とヨルダン川西岸地区の現状承認とは程遠いものである。
しかし、ガザ地区のホロコーストの実態が今や全世界から糾弾され、イスラエル支援の西側諸国からさえ孤立し、米・イスラエルの「ガザ完全制圧」など不可能な事態に追い込まれた、衰退の象徴、「岐路」の象徴が、この「和平計画」だと言えよう。
ガザ地区住民に対するジェノサイド・戦争犯罪者であるイスラエルのネタニヤフ首相とその政権を全面支援してきたアメリカのバイデン前政権、それを引き継ぎ、「ハマスの根絶やし」まで要求してきたトランプ大統領が、たとえ眉唾であったとしても、このような「和平計画」に追い込まれたことは画期的な事態の進展であろう。もちろん、この提案は、トランプ大統領が、パレスチナ人をガザ地区からエジプトなど他の地域に強制的に移住させて、ガザ地区を「美しい場所」、観光リゾートに変えるなどといった夢想提案を完全に撤回させるものでもある。
<<「ネタニヤフ氏が望んだものではない」>>
10/3、この「和平計画」の提案をハマスが部分的に受け入れることを明らかにしたことで、事態は急速な展開を見せ始めている。
パレスチナ抵抗運動ハマスは、仲介者に回答を提出すると同時に、その声明で「イスラエルの侵略を阻止したいという強い思いから、この計画について、責任ある立場を確立するために広範な協議」を行ってきたことを明らかにし、「トランプ大統領の提案に従い、生存者と死亡者を含むすべての囚人を釈放する用意がある」こと、詳細について協議するための仲介交渉に「直ちに」応じる意向を表明したのであった。
ハマスはまた、アラブ諸国とイスラム諸国の支持を得た国民的合意に基づき、ガザ地区の行政を独立派で構成されるパレスチナ人組織に移譲することを受け入れる、「ガザ地区の政権をパレスチナの独立者(テクノクラート)に引き渡すことをいとわない」との立場も明らかにしたのである。
トランプ大統領は直ちにこれに反応し、「ハマスが発表した声明に基づくと、彼らは永続的な平和の準備ができていると信じています。イスラエルはガザへの爆撃を直ちに停止する必要があります。そうすれば、人質を安全かつ迅速に解放することができます…これは中東での長年求められてきた平和に関するものです。」 と発表している。
トランプ政権はCBSニュースに、米国はハマスの反応を肯定的であると見なしていると述べると同時に、武器の廃止措置など、まだ進行が妨げられる詳細があるが、双方が取引を受け入れた場合、イスラエルの軍隊が「合意されたライン」に撤退し、戦闘の即時終了、ハマスが2023年10月7日に72時間以内に撮影されたすべての人質を解放し、イスラエルは紛争の開始後に拘留された終身刑と1,700人のパレスチナ人を解放することを求めている、と表明している。
問題は、あるいは障害は、実はハマスではなく、イスラエルのネタニヤフ政権の動向にかかってきていること、トランプ政権がそれにどのように対処できるかどうかにかかってきていることであろう。
ネタニヤフ政権にとっては、この「和平計画」は、当初、ハマスが拒否することを前提に、ガザ、西岸地区、パレスチナ全土を併合せんとしていた野望を打ち砕くものと化してしまったのである。
10/4付けニューヨークタイムズ紙は、「これは、.ネタニヤフ首相が望んだ方法ではなかった。ネタニヤフ氏は、現在、国内の政治的懸念と、中東のイスラム教徒とアラブ諸国からのトランプ氏からの地政学的圧力、そして平和がすでに勃発したかのように金曜日の夜の発展を迎えた国からの地政学的な圧力の両方によって、自分自身を縛ってきていることに気づいたのです。」「ネタニヤフは、これがすべてイスラエルの軍事的圧力の下で行われることを望んでいました。」「これらの交渉は、停戦の条件の下で行われます。これは、ネタニヤフの設計に反しています」。 トランプ氏から、「イスラエルはガザへの爆撃を直ちに停止する必要があります。」と告げられたのである。
事態の思いもよらぬ逆転にいら立つネタニヤフ政権は、この「ガザ和平計画」の頓挫に一番期待している、と言えよう。
トランプ氏が、イスラエルは「ガザ爆撃を停止した」と成果を誇っている、その日に、実はイスラエル軍は「ガザ地区のパレスチナ人の人々に対して恐ろしい犯罪と虐殺を続けている。」「10/4の朝から70人がイスラエルの攻撃で虐殺されている」と、ハマスは声明で「ネタニヤフの嘘」を明らかにしている。
「ガザ和平計画」で、戦争の継続か平和かで、もっともその責任が問われているのは、トランプ、ネタニヤフ両氏であり、岐路に立たされているのは両氏なのである。
(生駒 敬)