<<「石油、石油、石油、石油、石油だ」>>
12/17、トランプ米大統領は、自らのソーシャルメディア・Truth Socialで「ベネズエラに出入りするすべての制裁対象石油タンカーの全面封鎖」を発表し、「ベネズエラは南米史上最大の艦隊に完全に包囲されている。この包囲は今後さらに拡大し、彼らにはかつて見たことのないような衝撃が降りかかるだろう。彼らがかつて我々から奪った石油、土地、その他の資産をすべてアメリカ合衆国に返還するまでは」と述べ、「私は本日、ベネズエラに出入りするすべての認可済み石油タンカーの完全かつ完全な封鎖を命令します。」と宣言した。
「以前我々から奪った石油、土地、その他の資産の全て」を米国に返還するまで継続する、と表明して恥じない、あからさまな帝国主義戦争開始宣言である。
トランプ氏は、記者会見で、「彼らは我々の石油権を奪った。我々はそこに豊富な石油を持っていた」、「彼らは我々の企業を追い出した。我々はそれを取り戻したい」と述べ、ベネズエラがかつてアメリカ企業が保有していた資産を掌握することを可能にした、過去の米政権の弱腰をも非難したのであった。トランプ氏は、前日12/16の投稿で、石油、石油、石油、石油、石油、と5回も石油利権を繰り返していたのである。
この宣言で決定的に重要なことは、国際法に違反してまで、これまでカリブ海域でベネズエラの麻薬密輸船とされる船舶への爆撃で100人近くも殺害してきたのであるが、真の目的は、麻薬密売とは何の関係もない、「石油利権を取り戻す」という、対ベネズエラ戦争の真の自国帝国主義の目的を露骨に表明したことである。これまでの対麻薬戦争は、単なる口実で、ウソとでっち上げに過ぎないことを自ら認め、その空虚さ、アメリカの外交・戦争政策の本質的目的とその欠陥を自らさらけ出したことである。
20年以上も前、ベネズエラの故ウゴ・チャベス大統領の下で行われた大規模な石油産業の国有化、これによってエクソンモービル、コノコフィリップス、BP、トタル、シェブロンといった石油エネルギー大手の国有化、2000年代初頭のボリバル革命による国有化、これを絶対に忘れることも、許すこともできない、とトランプ氏は宣言したのである。
ベネズエラは、世界最大の確認済み原油埋蔵量を保有し、2024年時点で約3030億バレルと推定されており、なおかつ、中国、ロシア、インド、BRICS諸国と緊密な経済関係を維持しており、これも許しがたい、というわけである。
歴史を20年以上も前に逆転させ、1999年以来、米国の支配から独立した道を歩んできたベネズエラ政府を打倒し、ベネズエラ政府を米国企業の支配に友好的な傀儡国家に置き換える、それこそがこの戦争開始宣言の真の目的であることを明らかにしたのである。
ベネズエラどころか、ラテンアメリカを含む南半球の資源は自分たちの所有物だと本気で信じ、行動してきたトランプ政権のあきれ返るほどの時代錯誤であるが、それがまかり通っているのが、トランプ政権である。トランプ氏はベネズエラ以外のラテンアメリカ諸国への攻撃も否定してはいない。「必ずしもベネズエラである必要はない」とまでのべている。
<<「今や誰もが真実を目の当たりにしている」>>
12/17、ベネズエラのマドゥロ大統領は、首都カラカスでの演説で、「これは単なる好戦的で植民地主義的な見せかけに過ぎない。我々は何度もそう言ってきたが、今や誰もが真実を目の当たりにしている。真実は明らかにされたのだ」、「トランプ政権の目的はベネズエラの政権交代であり、傀儡政権を樹立し、憲法、主権、そしてすべての富を手放し、ベネズエラを植民地化することにある。そんなことは決して起こらない」と強調。
同じく、ベネズエラのロペス国防相は、ベネズエラが米国から石油、土地、その他の資産を奪ったという「錯乱した」主張を強く非難し、ロドリゲス副大統領は「我々はエネルギー関係において自由かつ独立した立場を維持する。マドゥロ大統領と共に、祖国を守り続ける」と述べている。
12/17現在、ベネズエラ産原油の輸送経歴がある石油タンカーは、少なくとも34隻が現在カリブ海を航行している。国際貿易情報会社Kplerの船舶位置情報データによると、これらのタンカーのうち少なくとも12隻はベネズエラ産原油を積載している、とされる。ロシアのタンカー「ハイペリオン」は12/17、カリブ海に入ったところである。
なおかつ、2025年には、中国はベネズエラが輸出する原油の約76%を購入しており、中国政府は、ベネズエラによる国連安全保障理事会会合の要請を支持し、一方的な圧力戦術に反対することを明確にし、カラカスが主権と正当な利益を守る姿勢を支持すると述べ、王毅外相は、ベネズエラ外相に対し、中国は米政権の「国際的な脅迫」を拒否すると伝えている。
12/17、トランプ政権与党のトーマス・マシー下院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は、トランプ大統領が米国議会の承認なしにベネズエラに対していかなる軍事行動も取るべきではないと主張し、「(合衆国憲法の)起草者たちは、戦争遂行権限が一人の人間に集中するほど、自由は消滅するという単純な真理を理解していた」と述べ、 イラクやリビアといった政権転覆戦争におけるアメリカの過去の失敗を例に挙げ、南米で同様の事態を起こすべきではないと警告し、「歴代大統領は、存在しない大量破壊兵器のために戦争をしろと命じてきた」と大量破壊兵器について述べ、「今は同じやり方だ。ただ、麻薬が大量破壊兵器だと教えられているだけだ。もし麻薬が問題なら、メキシコや中国、コロンビアを爆撃するだろう」、もしトランプ大統領が本当に米国への違法薬物の流入を懸念しているのであれば、2024年に400トンのコカインを米国に密輸した罪で有罪判決を受けたホンジュラスの元大統領、フアン・オルランド・エルナンデス氏を恩赦しなかったはずであると、トランプ氏の最も痛いところを明確にし、「これは石油と政権転覆の問題だ」とマッシー氏はトランプ氏を痛烈に批判している。
トランプ氏は、明らかに孤立しており、歴代大統領で最低の支持率への転落という事態で、その孤立はより一層鮮明になりつつある。その孤立を挽回するために、この時期に緊張を激化させ、戦争事態に突入させれば、関税や国内経済政策の失敗や、社会保障費削減に伴う差し迫った医療危機等々から、都合よく目を逸らすことができるだろう、という敗者の論理が透けて見えている。
つまりは、今回の事態は、アメリカの強さの象徴ではなく、アメリカ帝国の疲弊の兆候、政治的経済的危機の象徴である、と言えよう。
問題は、こうした客観的評価とは別に、事態を放置すれば、危険極まりない戦争拡大が現実のものとなる可能性が差し迫っていることであり、そうした事態を食い止める闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)