【投稿】「令和のオイルショック」ーホルムズ海峡封鎖で日本の国家石油備蓄はいつまで持つか
福井 杉本達也
日本の石油備蓄は2025年末で、国内消費の254日分に当たる約4億7千万バレル。内訳は国家備蓄が146日、民間石油精製業者などが義務として保有する備蓄が101日分、産油国との共同備蓄が 7日分となっている。このうち民間備蓄の10日分を3月16日に、その後国家備蓄30日分を放出する。20260315★石油の国家備蓄基地 – 石油備蓄基地、国内に10カ所 九州は福岡・鹿児島・長崎に計4カ所立地 – 写真・画像(1_3)|【西日本新聞me】
しかし、そもそも石油備蓄は254日分もあるのだろうか。民間備蓄については単なる空きタンクの名義替えということもでき、民間在庫の調整弁である。本来的な備蓄は国家備蓄だが、このうちの約1/3の1,259万トンは福井・むつ基地などは、係留ブイ方式(タンカーをブイに係留する方式)の基地であり、「安全面を考慮して普段は陸上に蔵置しているブイを海上に設置する工事を2~3ヶ月かけて行わねばならず、放出の意思決定をしてから放出可能となるまで、相応の期間を要することとなり、固定桟橋に比して放出能力は低い。」(石油備蓄のあり方検討会:2024.3)。また、備蓄原油中には、一部、カフジ原油など超重質油なども含まれ、これらの油種は国内の製油所では対応しておらず、シンガポールなどの製油所で精製しなければならない。とすれば、当面、危機対策として使えるのは100日=3カ月前後の在庫ということになる。
2 ホルムズ海峡封鎖は3カ月以上となるか
ホルムズ海峡を掌握するイラン革命防衛隊の報道官は3月11日。「1バレル200ドルまでの上昇を覚悟せよ」と述べた。11日、WSJは米軍がホルムズ海峡を通過する石油タンカーなど民間船舶の護衛要請を拒否していると報道しており、艦船の護衛なしにホルムズ海峡を通過できるタンカーは1隻もない。また、イランは、米軍が中東に派遣した原子力空母エブラハム・リンカーンの「作戦能力を完全に喪失した」と主張しており、真偽は不明であるが、オマーン湾からインド洋上へ撤退したことは間違いない。さらに、カタールに本部を置く第5艦隊司令部やバチカン市国に匹敵するバグダッドにある米大使館も激しいミサイル攻撃を受け、レーダーなどの監視網が破壊された。さらに、サウジに拠点を置く米軍空中給油機5機が撃墜あるいは損傷を受けたといわれ、ペルシャ湾岸の米軍基地は壊滅状態にある。
イランのホルムズ海峡封鎖を受け、トランプ氏は原油が欲しいなら日本を含む中国、フランス、韓国、英国などに艦船を派遣するよう呼び掛けた。「専門家からは。必要な防空体制を整えるには、タンカー1 隻につき2 隻の艦艇、あるいは5 隻から10 隻のタンカーからなる船団を護衛するには12 隻の艦艇が必要になると推定している。距離が短いため、ミサイルやドローンを撃墜するのは非常に困難だ。」と指摘している(WSJ=孫崎享2026.11.16)。万が一、海上自衛隊をホルムズ海峡に派遣するようなことがあれば、イランとの戦争状態に入ることを意味し、日本には原油は一滴も入ってこなくなる。究極の自殺行為である。
3 原油輸入停止による生活への影響はガソリン価格だけではない
3月8日の日経記事によれば、出光興産が基礎化学品エチレンの生産設備を止める可能性があることを取引先に通知したという。エチレンの原料となるナフサが中東から輸入できないためという。ナフサは原油を精製する過程で得られる。ナフサの在庫は原油に比べて極端ん位少なく20日程度とみられる。ナフサを熱分解して、基礎化学品のエチレンやポリプロピレンなどが生成される。プラスチックの原料となり、自動車や家電、食品の包装材など幅広い製品の原材料となっている。原油の精製でもナフサは得られるが1割程度でしかない。いくら国家石油備蓄を放出しても限界は間近に迫っている。日本は6割を輸入に頼っており、そのうち中東は7割を占める。三井化学や三菱ケミカルも減産に動いており、このままではスーパーの食品トレイから洗剤、車部品、タイヤ、医療機器まで、幅広い分野が影響を受ける。
4 農業肥料も輸入ストップ
イラン攻撃を受け、カタールなどの肥料工場が生産を停止した。中東は世界有数の肥料原料の生産国で、ホルムズ海峡は重要な輸出海路だ。英査会社アーガス・メディアによると、世界の尿素輸出の約34%は中東産リン酸系肥料の原料である硫黄の世界輸出シェアの50%もある。中東の混乱が1カ月続けは、インドやパキスタンなどの一部地域では肥料不足に陥るという。日本はマレーシアからの輸入が多いものの、国際価格が上昇すれば、肥料高の影響はまぬかれない(日経:2026.3.12)。
5 半導体の製造に不可欠なヘリウムも手に入らない
ホルムズ海峡の封鎖が長期化すると、半導体の製造に欠かせないヘリウムなどの素材の調達が難しくなる。ヘリウムはウエハーの冷却なとに不可欠な重要素材であり、カタールが有数の輸出国となっている。半導体の回路を形成する際に使う臭素についても、イスラエルやヨルダンに生産が集中しているため安定調達への懸念が深まる。韓国は臭素の98%をイスラエルから輸入している。半導体の生産は日韓台だけで世界のおよそ半分を占める。材料やエネルギーの供給が滞れば、世界の半導体の供給にも影響が及ぷ(日経:2026.3.12)。しかし、政府は、こうしたことはほとんど蚊帳の外である。高市首相はただただ、ガソリン価格を補助金を使ってでも170円台にしたいと考えているだけである。
6 ロシア産原油の購入を
米財務省は12日、ウクライナ侵攻亭返る対ロシア制裁を緩和して、各国がロシア産原油を購入することを一時的に認めると発表した。期間は約1カ月で、米・イスラエルとイランの交戦で高騰する原油価格の高騰を抑えるのが狙いである。トランプ政権が原油価格対策に躍起になる背景には、物価高に対する国民の不満が根強いことがある(福井=共同:2026.3.14)。
赤沢経産相は14日、「ロシア産原油を含め、海外からの原油確保は我が国エネルギー安全保障上極めて重要なものだと発言した。日本は既に2025年6月にロシア産原油の輸入を再開したものの、サハリンブレンド7万トンのみで、日本の輸入量のわずか0.7%に過ぎない(Sputnik日本:2026.3.15)。この量を大幅に拡大すべきである。ロシア制裁に参加せず、ウクライナ侵攻以前の8%~10%程度の輸入実績があれば、これほどドタバタすることはなかったははずである。ロシア産LNGもしかりである。
2022年、ロシアのウクライナ侵攻の直後に、リベラル派といわれる立教大学特任教授の金子勝氏は「ロシアのウクライナ侵攻を止めるにはロシアへの経済制裁しかないとし、プーチンの戦費の根源である資源輸出に対して、日本はサハリン1、2やアーク2などからすぐ撤退すべきだ。」と煽った。理由は安倍元首相らが開発を主導したからだという。これが、日本のリベラル派や野党の実態である。長年にわたり米国の属国として生きていると、後先を考えずに、その場の感情のみで、数年後に何が起こるかも見通せない。このままでは、ホルムズ海峡でタンカーが沈没する前に日本沈没である。