【投稿】中東からも東アジアからも撤退する「米国第一主義」のトランプ
福井 杉本達也
1 シリア攻撃は失敗
4月14日(日本時間)、米英仏の3か国は国連の決議もなく、各国の議会の承認も得ないままシリアに対し、100発以上の巡航ミサイルによる違法な攻撃を行った。しかし、イランラジオ『Pars Today』は、イスラエルの新聞『イディオト・アハロノト』のインターネットサイトを引用して、「モサドの関係者の一人は西側の3ヶ国による今回のシリア攻撃はプロガンダを目的とした見せ掛けのものであることを認めると共に、『この攻撃におけるアメリカのトランプ大統領の目的は、シリアの化学兵器の面での力を消滅させることではなかった』」(2018.4.18)として、米国の同盟国・イスラエルさえも攻撃が失敗であったと認めたことを報道している。
また、米軍産複合体の雑誌『フォーリン・アフェアーズ』のコメンテーター: ギデオン・ラックマンは『FINANCIAL TIMES』紙上において、「ロシアがアサド政権の後ろ盾になっていることも、米軍とロシア軍が衝突する危険性を高めている。…米国の介入は核戦争につながりかねない…米仏英による今回のシリア攻撃では、ロシア兵が死亡する可能性を極力抑えるよう慎重に計画された。」とし、「13日のミサイル攻撃でシリア内戦の趨勢がほぼ変わらないことが明らかになるに従い、今回の攻撃の重要性も薄れていくだろう。…中東で米国の覇権が衰えているという印象も変えることはできない。」(日経:2018.4.19)と結んだ。米欧べったり報道を常とする日経新聞でさえ「シリア、アサド政権優位動かず 首都近郊制圧を宣言」(2018.4.15)と報道せざるを得なくなっている。
2 シリア・アサド政権が化学兵器を使用というフェイクニュース
今回の攻撃の大義名分は4月7日にシリア首都ダマスカス近郊の東グータ地区・ドゥーマへのシリア軍の攻撃で猛毒の化学物質が使用され、43人が死亡したというもので(福井=共同:2018.4.12)、被害者とされる住民の映像を米日欧のマスコミは連日報道した。しかし、シリア・ロシアは、こうした報道をフェイクニュースとして否定し、化学兵器禁止機関(OPCW)に調査チームの派遣を要請したが、調査チームが現地入りする直前に米英仏はミサイル攻撃を強行した。
そもそも、アサド政権が化学兵器を使用したという根拠は何もない。陥落寸前の東グータ地区に対し、政権側から化学兵器を使用する動機も利益もない。AFPは「 シリアの首都ダマスカス近郊にある東グータ(Eastern Ghouta)地区で、市民ボランティアでつくる救助隊「ホワイト・ヘルメット(White Helmets)」が化学兵器攻撃を捏造(ねつぞう)したことを示す証拠だとされた一連の写真が、実際には映画の撮影現場を写したものだったことが分かった。AFPの事実検証ブログ「ファクチュエル(Factuel)」が明らかにした。」と報道した(2018.4.18)。また、共同通信は「シリア反体制派の人権団体幹部は12日、共同通信に対し、首都ダマスカス近郊東グータ地区での化学兵器攻撃について『アサド政権に抵抗する反体制派への支持を結集するため、でっち上げられた』と主張し、政権側が使用したとの見方に強い疑念を表明した。」(福井=共同:2018.4.14)と報道している。さらに、戦争プロパガンダ機関として有名なCNNさえもが「米軍などが13日に行ったシリア攻撃について、シリア政権が市民に対して神経剤のサリンを使用したという確証がないまま、米英仏がシリア攻撃に踏み切っていたことが、複数の関係者への取材で明らかになった。」(CNN:2018.4.18)と報道せざるを得なくなっている。
3 中東から撤退する米国
もともと、トランプ大統領はシリアから撤退するとツイートしながらなぜ今回の攻撃に至ったのか。ロシアのラブロフ外相は「ドゥーマ市で演出された化学兵器攻撃には英国が関与していることを示す証拠をロシアは山ほど握っている。「ホワイト・ヘルメット」は英国、米国他一連の諸国から資金を得ている」と指摘した(Sputnik日本:2018.4.20)。東グータ地区で最後まで降伏・撤退に抵抗したのはジャイシュ・アル・イスラムであり、指揮していたのはイギリスの特殊部隊SASやフランスの情報機関DGSEのメンバーで、MSF(国境なき医師団)が隠れ蓑として使われてきたとも報告されている(「櫻井ジャーナル」:2018.4.13)。ようするに東グータ陥落によって英仏の特殊部隊員が拘束されることを恐れて、米国をそそのかして攻撃に及んだといえる。したがって、米国の攻撃も恐る恐る、ロシアの「許す」範囲内に限定されたものとならざるを得なかったのである。20日、ラブロフ外相は「シリア攻撃に関連して米ロの軍当局者間で事前交渉があり、攻撃が及んだ場合に反撃する『レッドライン(越えてはならない一線)』について、ロシアが米側に通知していたことを明らかにした」(福井=共同:2018.4.21)。これが米英仏の巡航ミサイルがロシア対空防衛の守備範囲には1基も入らなかった理由である。しかも、ロシア軍の発表ではシリア軍がS-200などの旧式の防空システムとロシアによるジャミング(jamming)などを駆使して、ミサイル103発のうち、実に2/3にあたる71発を撃墜してしまったのである。米英仏軍の完敗である。シリア軍の防空圏内には米英仏軍機は恐ろしくて飛行できないことが明らかとなった。
「こうした中、ホワイトハウスのサンダース報道官は15日声明を出し、シリアに展開するアメリカ軍について、『トランプ大統領はできるだけ速やかに帰国させたいと明確にしている』として、早期の撤退を目指す方針を改めて示しました。」NHK:2018.4.16)と報道しており、米軍産複合体や旧宗主国である英仏の画策があり、ギクシャクした道をたどるものの、大筋において「米国第一主義」・中東からの撤退の流れは変わらない。
4 朝鮮半島からも撤退する米国
4月21日、朝鮮中央通信は核実験と大陸間弾道弾(ICBM)の発射を中止し、北部の核実験場を廃棄すると伝えた。これを日本の各TV局は朝番組の途中、緊急速報のテロップで流した。この間、安倍政権が「ミサイルが飛んでくる」と煽りに煽ってきた事態とは全く逆の事実ではあるが、まさしく、日本の一大事である。
津田慶治氏は、米朝首脳会談を「北朝鮮が核を放棄して、その代わりに、米軍は核弾頭とともに韓国から引き上げるということである。その裏で、トランプ大統領は、韓国が北朝鮮と対話する条件として米韓FTAの見直しを要求し、そこで米国が有利になる米国生産車輸入を無条件にすることと通貨介入を禁止することになった。韓国との経済交渉を韓国と北朝鮮の安全保障対話を条件にして取ったようなものである。経済と安全保障をリンクして取引化することが鮮明になった。韓国も北朝鮮の安い労働力を使えるので、このような経済取引でも有利になる。今後、朝鮮半島の南北は連邦制などの国家体系に移行することになるかもしれない。その一歩を見ているように感じる。そして、韓国は米国の同盟国から離れることになる。もう1つが、米国の鎖国化の一環と見るべきである。アジアからの米軍撤退をみることになる。大きく、時代が動いている。」(「国際戦略コラム」2018.4.1)といち早く分析したが、「朝鮮戦争の終結宣言」と「朝鮮半島の非核化」とは、まさにこのような状態をいうのである。米軍が朝鮮半島から撤退した場合、日本はどうするのか。
5 孤立を深める日本
元レバノン大使の天木直人氏は「驚いた。ここまで一方的で、不毛な日米首脳会談になるとは思わなかった。どんなに「日米同盟関係の結束」が強調されようとも、今度の安倍訪米は完全な失敗である。なにしろ安倍首相の訪米中に、ポンペイCIA長官が極秘訪朝していた事が明らかになったのだ。もはや圧力一辺倒の安倍首相より、はるか先をトランプ大統領は歩き始めていたということだ。私の予想通り、朝鮮戦争の終結まで視野に入れている。その一方でトランプ大統領は、TPPを否定して日米二国間協定を優先する事を明言した。不公正な日米貿易関係は容認できないと明言した。安倍首相は毎日、トランプ大統領のツイッターを見てから仕事を始めるべきだ。そうすれば、わざわざワシントンまで飛んで恥をかかなくてもよかった。」(天木:2018.4.19)と書いた。
在韓米軍が撤退する場合、日本に米軍が駐留している意味はない。遅かれ早かれ日本からも撤退することになろう。まして、孤島というロジスティックに問題のある沖縄に多数の軍隊を置いておく必然性はない。その肩代わりを自衛隊が担うというのは妄想に過ぎない。河野太郎外相は昨秋以降、「自由で開かれたインド太平洋戦略」と称して、オーストラリアやインド、スリランカなどを相次いで訪問し、中国の「一帯一路」戦略を包囲しようと画策し、カナダのバンクーバーで開催された21か国外相会合では、北朝鮮との国交断絶や北朝鮮人労働者の国外送還を呼びかけるなど極限の妄想外交を繰り広げたが、トランプ政権に鉄鋼の輸入制限の対象国とされるなど袖にされたことで、ようやく8年ぶりに「日中ハイレベル経済対話」を開いた。
軍産複合体の必死の抵抗もあろうが、トランプ政権の筋書きでは、衰退する覇権国家・米国は中東からも東アジアからも撤退していく。これは日本にとって第二の「ニクソンショック」である。しかし、属国の地位になれきった日本人にはその意味さえはっきり捉えられてはいない。白井聡氏はニーチェ・魯迅の言葉を要約して「本物の奴隷とは、奴隷である状態をこの上もなく素晴らしいものと考え、自らが奴隷であることを否認する奴隷である。さらにはこの奴隷が完璧な奴隷である所以は、どれほど否認しようが、奴隷は奴隷にすぎないという不愉快な事実を思い起こさせる自由人を非難し誹謗中傷する点にある。本物の奴隷は、自分自身が哀れな存在にとどまり続けるだけでなく、その惨めな境涯を他者に対しても強要するのである。」(白井『国体論 菊と星条旗』と書いているが、立憲民主党の枝野幸男代表が「シリア攻撃やむなし」(日経:2018.4.15)とインタビューに答えていることを見る限り自覚なき「奴隷」の闇は深いと言わざるを得ない。
【出典】 アサート No.485 2018年4月