【投稿】領土問題に蠢く魑魅魍魎
明治維新が始まり
この間、東アジアに於いて領土問題にかかわり、緊張が高まっている。日本は韓国とは竹島(独島)を巡り、中国とは尖閣諸島を巡って対立が続いている。これに加えロシアとの北方領土問題もあるが、今回は竹島、尖閣問題を巡る状況について見ていきたい。
問題の発端であるが竹島、尖閣諸島とも明治維新以降の大日本帝国版図の拡大過程に起因する。竹島は江華島事件-日朝修好条規締結から始まる日韓関係の中で、尖閣諸島については明治以降の日中関係を見なければならないが、第1次、第2次の琉球処分から、今日に至るまでの沖縄問題と切り離して考えることはできない。
第2次世界大戦終結で日本の帝国主義的膨張がリセットされ、サンフランシスコ講和条約締結後、日韓基本条約、日中平和条約締結時にこれらの問題の解決を図る機会があったが、冷戦下の反共、反ソ同盟構築が優先され棚上げされてきた。その責任は言うまでもなく歴代自民党政権にある。
いずれにしても各国とも帝国主義以前の状況に立ち戻って論議を進めることが肝要だと考えるが、日中韓、それぞれの政権とも内政に困難を抱えるが故、政権の延命のためにも振り上げた拳を下せないままでいるのが現状だ。
領土問題で政権延命
日本は民主党が消費税増税を口実とした小沢派の大量離党を発端として、その後も「日本維新の会」への逃避など脱落者が相次ぎ、瓦解への道を転がり落ちている。
野田総理は出来レースともいうべき民主党代表選挙で再選されたが、今後の政局、国会運営の展望は描けていない。そこで「近いうち」の総選挙に向けての起死回生の策として打ち出したのが、内政に於ける「原発ゼロ」であり、外交での「領土問題」である。しかし威勢よく打ち上げたにもかかわらず、9月初旬のNHK世論調査では野田内閣の支持率は31%と8月に比べ3%の微増に止まっている。
韓国では政権末期の李明博大統領が、支持率回復=大統領選挙での与党・セヌリ党勝利への起爆剤として、「従軍慰安婦」問題へ対応が不十分との理由で独島上陸を決行した。さらに独立運動の犠牲者等、日本の植民地支配にかかわり天皇への謝罪を要求するなど、左派と言われた故蘆武鉉前大統領よりも大幅に踏み込んだ対日強硬姿勢を示した。ただ、独島や独立運動についてはともかく、「従軍慰安婦」に関しては李大統領にどこまで思いがあるか、これまでの対応から疑問に感じる点もある。
しかしこれにより、李大統領の支持率は17%から25%に増加、次期大統領有力候補と言われる朴槿恵元同党委員長も同様の対応を継承している。
中国では経済減速に伴い貧困層の不満が拡大しつつある。中国共産党指導部は、胡錦濤主席から近習平副主席への権力移譲をスムーズに進めようとしている。
しかし重慶市で惹起した権力闘争に加え、当局は否定するものの近副主席の「健康不安」(暗殺未遂説も飛び交っていた)が明らかになり、暗雲がたちこみ始めた。このタイミングでの領土問題の惹起は願ってもないチャンスである。
政権と市民との落差
このように各国権力が三者三様の思惑でチキンレースを繰り広げられる領土問題であるが、各国民衆の対応にはかなりの温度差がある。
韓国ではロンドンオリンピック男子サッカー三位決定戦におけるパフォーマンスがとりわけ注目を集めたが、独島領有に関してや、「従軍慰安婦」問題の解決については以前から継続して主張されており、国論として定着している。
この間ソウルなどでは大規模な反日デモは発生しておらず、独島領有は前提としつつ、李大統領の過剰なパフォーマンスに対する冷ややかな目があるのも事実だ。
中国では主要都市を中心に連日のように反日デモが繰り広げられている。こうした組織的な動きは、一部が暴徒化しているが概ね当局によりコントロールされている。
今後の動きは予断を許さないものがあるが、全体的には、小泉元総理の靖国参拝に端を発した2005年の反日行動に比べ、極端に突出はしてないのが現状である。靖国参拝よりは今回の尖閣国有化のほうが挑発的で中国人の「愛国心」を刺激すると考えられるが、その意味では以外に冷静であるといえよう。
象徴的な動きとして、9月8日、8月に抗議船を送り出したおひざ元の香港で、「中南海のお目付け役」である香港政府行政長官が緊急記者会見を開き、学校での「愛国心教育」導入を撤回した。中国共産党一党支配を正当化する内容が市民から批判されたためと見られている。
さらに翌日の香港立法会選挙では、尖閣上陸を果たし「愛国心」を鼓舞、「英雄」となったはずの元議員が返り咲きならず落選した。元議員は以前、民主化を叫び「五星紅旗」を燃やしながら、今回は同じ旗と「青天白日旗」を掲げるという胡散臭さが見透かされたのだろう。
元議員が所属する「保釣行動委員会」は10月にも再度尖閣上陸を呼号しているが、現在のところスポンサーは資金援助を拒否し、香港当局も許可しない方針である。
新たな維新では事態悪化
日本では石原東京都知事さらには、自民党の山谷えり子参議院議員や田母神俊雄元空幕議長ら札付きの人物が参画する「頑張れ日本!全国行動委員会」が跳梁跋扈している。
山谷議員らは、竹島問題をアピールするため鬱陵島渡航を企て韓国から拒否された前歴が記憶に新しい。それが今回は「戦没者の慰霊」を口実に尖閣上陸を強行した。当初は海上からの慰霊に止めるとしていたが、魚釣島に接近した際、地方議員らが海に飛び込んだという。
また、今回の尖閣問題の発端となった、東京都による購入計画にしても多額の債務を抱える地権者が、結局は提示金額の高い政府に売却を決めたという「愛国心」とは無関係の話であり、これも胡散臭さが漂っている。
北京やソウルと比べ東京は全く平穏と言ってよい。右翼・排外主義者が散発的な行動を繰り広げているが、たとえば脱原発やオスプレイ配備反対の圧倒的な動きの前には微塵もないものである。
愚かしいことに野田政権は、脱原発の声は形式的な対応で済ませたのに対し、極論に乗っかり9月11日尖閣諸島の国有化を強行した。竹島に関しては国際司法裁判所への単独提訴というパフォーマンスを進めているが、これらは政府の姿勢を示す以外のものではない。
野田政権は国際的な理解=アメリカの支援を当て込んでいたが、その目論見は見事に外れている。アメリカは製作者不明の映像がもとで自国大使が殺害される事態に比べれば、日の丸が捕られたくらいなんでもないと思っているだろう。北京のデモがどうより、沖縄の集会を何とかしろ、というのがアメリカ本音だろう。
領土問題の着地点が見いだせないままアメリカも含めた各国では、この秋以降政権が交代していく。この中で次期政権の枠組みを巡り、最も混沌とするのは日本であることは間違いない。来る総選挙で民主党が政権を失うのは確実であるが、自民党とて領土問題の棚上げ、先送りを繰り返してきた経過を見れば解決策があるとは思えない。
こうしたなか、この間「集団的自衛権の行使は認めるべき(橋下大阪市長)」などと対外強硬路線を公然化させてきている「日本維新の会」が政権に参画すれば、まさしく先の維新以降の不幸な歴史が繰り返される恐れがあると言えよう。(大阪O)
【出典】 アサート No.418 2012年9月22日