【投稿】米国の内乱への恐れとペロシ米下院議長の訪台―日本はどう振舞うべきか

【投稿】米国の内乱への恐れとペロシ米下院議長の訪台―日本はどう振舞うべきか

                                福井 杉本達也

1 FBIによるトランプ邸の捜索と米国の分裂

FINANCIALTIMES紙上でコラムニストのラナ・フォルーハーは「社会や政府の不安定さ、政治を巡って暴力が発生するリスク、さらには民主主義を脅かすリスクなどだが、米国の場合、これらの数値の推移と蜜動ぷりからすると、先進国というより途上国のようにみえる」「武力闘争はどこか外国で起きるものとされてきた。だが、もはやそうではない。銃を持っか否かにかかわらず、米国は自らとの戦争を始めてしまったのだ。」と書いている(日経:2022.7.22)

FBIは8月8日、フロリダ州に所有するトランプ氏邸宅を捜索した。「大統領在任中に扱った機密を合む文書をホワイトハウスから持ち出した疑い」からである。「トランプ前大統領の邸宅を家宅捜索したことに野党・共和党が反発している。11月に迫る中間選挙を前にした『政治利用』(下院共和党トップのマッカーシー院内総務)などと批判した」(日経:2022.8.11)。「大統種選を控えている時に次期大統領になる可能性がある人物を被告人席に座らせるなど『前代未聞』だ。内乱が起きる危険もある。…今も熱狂的支持者が数百万人」いる。「トランプ氏が起訴されれば、その罪状は極めて深刻なものになる。19世紀の米国人哲学者ラルフ・ウォルドー・ェマソンが言ったように『王を討っときは殺さなければならない』」(エドワード・ルース FINANCIALTIMES2022,8,5)。「トランプが2024年に再び勝利するにせよ、あるいは選挙が行われる前でさえも、彼は起訴され有罪判決を受け、大統領の座に就くことを禁じられ、おそらく数年間刑務所で過ごさなければならなくなる」。「ソーシャルメディア上の一部の人々や一部のジャーナリストは、米国が今、内戦の衝突危機にいる可能性があると正確に言っている。この国はすでに政治的に分裂している」(Bradley Blankenship「FBIのトランプ邸襲撃は、彼が2024年に立候補できないことを意味する可能性があり、彼の過激派信者は立ち上がるだろう」(RT:2022.8.7)。

 

2 ペロシ米下院議長の台湾訪問と中国の台湾封鎖の可能性

こうした、米国内の大混乱の中、ペロシ米下院議長が8月2日、台湾を訪問した。日経ワシントン支局長の大越匡洋は「米政権が与党内の一政治家の『信念』に基づく行動を持て余していることだ。パイデン大統領はペロシ氏の訪台計画について『米軍は今は良くないと考えている』と記者団に漏らした」「パイデン政権は『ペ口シ訪台後』のシナリオを描けていない。」と書いた(日経:2022.8.5)。米国の外交は危険な大混乱状態にあるといえる。米中の歴史的な和解は1971年のキッシンジャーが画策した「ニクソン・ショック」に始まる。米国はソ連の封じ込めと中国市場を得るために、中国はソ連への対抗と、経済発展のために、歴史的な妥協を行った。その後45年間、台湾問題をめぐっては、米中関係に影響を与えたが、「一つの中国」という一連の妥協を相互で理解していた。中国にとって、1895年の日清戦争で“戦利品”として日本に奪われ、その後、1949年に蒋介石が本土で敗退して米軍の占領する台湾に逃げ込んだが、失われた領土を取り返すことは、100年以上にわたる中国の悲願である。しかし、米占領下の台湾が独立を宣言しなければ、中国は忍耐強く対応することを明言していた。

しかし、こうした米中関係の相対的安定性が終わりを告げた。「非常に危険な状況である。両国の関係はすべての予測可能性を失った。以前は、米中関係は、互いの立場に対する確立された深い相互理解と尊敬に基づいていたが、今はほとんどなく、時には全くないように見えることもある。」(Martin Jacques「ナンシー・ペロシ、米国を無秩序と不安の時代へ導く」『耕助のブログ』2022.8.11より)。米軍は台湾近海に空母2隻を派遣し、ペロシの飛行機はフィリピンの東海上、マリアナ沖に迂回させるなど、衝突のシナリオを想定していた。しかし中国政府は冷静であった。台湾の中国への再統合は緊急の問題ではない。台湾の独立派政府を服従させるための長期的な対策を練っていた。台湾をめぐる軍事衝突の危険性は、1970年代以降、かつてないほど高まっている。中国は今や米国と対等であり、はるかに手強い軍事的敵対者であるため、そのような紛争が起きれば、以前よりもはるかに深刻な事態となる。

台湾の定める接続水域に中国軍の艦船が侵入した。台湾軍は「排除」に動けず、安全保障の大穴を開けられてしまった。空と海の封鎖は台湾に大きな打撃を与える。電力の約40%は天然ガスで賄われており、そのすべてが輸入されなければならない。もう一つの大きな部分は、輸入している石炭で賄われている。石油製品についても同じことが言える。ペロシが訪台する前は、島のガス貯蔵量はわずか11日間であった。石炭と石油は貯蔵が容易だが、封鎖が解除される前に枯渇する。2018年の台湾の食料自給率はわずか35%である。台湾の全面封鎖では、数週間か数ヶ月以内に中国にひざまずく可能性が高い(参照:Moon of Alabama 「China’s Reaction To Pelosi’s Visit Reveals Its Taiwan Conflict Plans」2022.8.6)。

『前USA海兵隊情報将校・国連兵器査察官スコット・リッターのアップデート/台湾戦争勃発の瞬間が近づいている』において、スコットは「毎年、ペンタゴンは「戦争ゲーム」を通して、台湾をめぐる米中戦争のシミレーションをやっています。結果は毎年同じで、それはアメリカが負けるという結果です。あらゆる条件でシミュレーションしても出てくる結果はいつも同じです。つまりアメリカは負けるのです。」「現在、台湾にあるアメリカ軍兵備はほとんどゼロに等しいので、アメリカは一から上陸を開始する必要があります。非常に重量のある大型の兵器も必要ですが、それらを空輸することはできませんから、全て船で運ばなければなりません。」「中国は台湾に向かうすべてのアメリカ艦艇を海に沈めるでしょう」「そして、私たち(軍関係者)はみんなそのことを知っているのです。任務を帯びた航空母艦の提督でその事を知らないものはいないからです。中国に近づけば近づくほど生きて帰れる可能性は少なくなるということをみんな知っています。」(2022.8.11)と答えている。

 

3 ペロシ訪台への韓国の対応と日本:中国は岸田政権を見限ったか?

尹錫悦韓国大統領は夏休みのためにペロシとの会談の予定はないと、ペロシを鼻であしらった。一応、電話会談を行ったものの台湾には一切触れなかった。韓国は「大人」の外交を演じた

一方の日本は中国軍の4日の軍事演習中に中国軍が撃った5発のミサイルが日本のいわゆる「排他的経済水域」(EEZ)に落下したと主張した。しかし、関連海域では中日間で境界線についての合意はなく、いわゆる「日本の排他的経済水域」なるものの主張はもともと存在しない。日本側は中国の軍事演習の報道に熱を入れたが、アジア・アフリカのその他の国々は何らかの形で中国の「一つの中国」への支持を打ち出していた。

バイデン政権は先進7カ国(G7)と中国の軍事演習を非難する共同声明を発した。日本もメンバーとして名を連ねた。そのため、8月4日、ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国と、日本やアメリカ、中国などが参加する東アジアサミット外相会議で予定されていた林芳正と王毅の外相会談が突然キャンセルされた。台湾問題は中国にとってのレッドラインである。日本は、中国の警告を無視して台湾に言及し続けた。結果、中国は「自分の外交を持たない国」として日本を見切った(参照:富坂聰:『ペロシ訪台があぶりだした日本外交とアジア各国との埋めがたい距離』2022.8.11)。鳩山由紀夫元首相は3日、自身のツイッターを更新。「ペロシ米下院議長が台湾を訪問した。ウクライナのNATO加盟を巡って、米国はロシアの不安を無視して突っ走り、戦争を招く大きな原因となった」とし、その上で「米国はウクライナ戦争から教訓を学ぶどころか、台湾でも同じ間違いを繰り返そうとしている。愚かだ」とし、「その米国に唯々諾々とついて行けば、日本もまた愚かだ」とツイートした(東スポ:2022.8.3)。米国の内政・外交が大混乱する中、いつまでも金魚のフンのような属国外交を続けるようではアジアにおいては誰も相手をしなくなる。

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