【投稿】インフレから不況への移行--経済危機論(99)

<<パウエル氏の逆立ちした論理>>
12/14 米連邦公開市場委員会(FOMC)は、3か月ごとに開かれる同委員会で政策金利の0.5%引き上げを発表した。今年の3月以降、4回連続で0.75%引き上げてきたことからすれば、金利引き上げ幅の減速に転じたとも言えよう。追随してきた欧州中銀(ECB)も0.5%に減速した。
急速な金利引き上げによる不況促進政策が、全世界的な景気後退と経済危機を招き、重大な岐路にさしかかっている証左でもある。
米中銀FRBのパウエル議長は同日、「物価の安定なくして堅調な労働市場は維持できない」、しかし「金融引き締めの完全な効果はまだ感じられない」、したがって「十分なインフレ抑制に向け、利上げ継続が適切」と述べ、現

赤=公式インフレ率に対して、青=1980年代と同じ計算方法による

状は、「米国経済は昨年に比べ大幅に減速」し、「住宅市場の活動が大幅に低下」し、「金利上昇は企業の設備投資にも重し」となっているが、「10、11月のインフレ率がき鈍化を示している」が、依然として「インフレリスクは上向き」であり、「現状に甘んじている余裕はない」と断言。「インフレが持続的に下向くと確信できるまで金利をピーク水準で維持する必要があるというのがFOMCの確固たる見解」であり、「インフレが持続的に下向いているとFOMCが確信するまで利下げを検討することはない」と述べ、まだまだ金利引き上げ・引き締め政策を継続することを明らかにしたのであった。

実質賃金の低下

パウエル氏がとりわけ問題視しているのが、「強い労働市場」である。「平均時給はほとんど下向いていない」と不平を公然と言い募り、「賃金がより正常な水準に落ち着くことを期待する」と賃下げを主張しているのである。インフレの犠牲者(名目賃金上昇にもかかわらず、実質賃金の低下)がインフレの原因であると主張する逆立ちした論理である。賃金とインフレの因果関係を逆転させて、これが大手マスコミではほとんど取り上げられず、平然とまかり通っているわけである。

民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員は、FRBの決定は、「数百万人を失業させる」リスクがあると警告している。
パウエル氏は、毎月何十万もの雇用が創出され、米労働省の雇用調査による「強い労働市場」がその証拠であると言及し続けている。しかしこの言及も天に唾するものである。この労働省の雇用調査は、直近2回行われたのであるが、2回目の調査は、1回目より200万人以上少なくなっている。この200万人以上の減少は、最初の調査ではパートタイムとフルタイムの雇用を区別していなかったのに対し、2回目の調査では区別した結果であった。そこで明らかになっていることは、ほとんどの雇用はパートタイムで、フルタイムの雇用は逆に減少していたのである。ここまで現実をウソで塗り固めてでも、もっと失業者を増やし、賃下げを実現したいのである。

<<異なる二つの変動要因>>
当然、人員削減が正当化され、拡大するのは必至である。
すでに11月は、米テック業界では人員削減が最多となっている。11月までに8万人削減され、過去20年での最多を記録している。株価は、年初から、実に4割の下落である。アマゾン=1万人規模、メタ=1万1千人(全従業員の13%)、ツイッター=5000人(同、50%超)、オンライン決済大手ストライプ=1100人(同、14%)、配車大手リフト=1割削減、等々、人員削減が拡大している。
金融部門でも、モルガン・スタンレー=1600人(このほど実施)、ゴールドマン・サックス(GS)=すでに数百人削減しているが、202

赤=公表失業率と青=実際の失業率

3年1月に4000人削減実施予定である。GSは、22/7~9月期の純利益43%減で、ボーナス40%カットである。
フォード・モーター、ウォルマート、ペプシコなど、数千人規模の人員削減が他の業界にも波及している。
2022年11月の人員削減数は、 2021年11月よりも417%増加している。

こうしたFRBの不況促進政策に照応して、米株式市場は乱高下を繰り返しているが、今や傾向的に下落方向が鮮明になっている。
12/19の米国株式市場は続落。ダウ平均は162.92ドル安の32757.54ドル、ナスダックは159.38ポイント安の10546.03で取引を終了、4日連続の下落である。いくらかの反転はあれども、年間で2008年の金融危機以降最大の下げを記録する見通しとなっている。

そしてついにこれまで利上げを否定してきた日銀が、12/20、長期金利を「0・25%程度」から「0・5%程度」への引き上げを決定。この日銀の決定を受けた12/20の東京株式市場は、国内景気減速懸念が一気に広がり、一時800円超下落し、全面安の展開となっている。ここでも4営業日連続の値下がりである。

インフレは相も変わらず根強いが、不況が進化すれば当然、経済は収縮し、インフレ傾向が弱まらざるを得ないであろう。市場の主な懸念が、インフレから不況へ移行するのは当然でもある。
しかし今回の経済危機には、これまでとは明らかに異なった、しかも重大な変動要因が経済危機を複雑化、深刻化させている。
一つは、新型コロナウイルスによるパンデミック危機であり、もう一つは、ウクライナをめぐる世界戦争への危機の拡大である。パンデミック撃退には、ワクチン特許権放棄をめぐる国際協力が欠かせないが、製薬会社と特許権保有国の強欲が阻害して、一向に進展しておらず、新たな変異株の蔓延が幾派にもわたって、世界を席巻している。感染の再拡大さえ、懸念される。
ウクライナ危機も、即時停戦し、和平交渉に即刻着手すべきであるのに、制裁が先行し、それがブーメランとして跳ね返り、エネルギー価格の急上昇、サプライチェーンの混乱をもたらし、インフレをより一層激化させ、それどころか核戦争への危機にまで進まんとしている。
いずれも、一国規模では制御できないものであり、国際的交渉と協力が不可欠である。インフレ制御さえも不可能であり、より深く根付いたインフレ問題が再燃する可能性さえ大である。
バイデン政権、EU、NATO、日本を含むG7諸国は、相も変わらず、対ロシア・対中国緊張激化政策にのみ傾斜し、軍事的緊張激化を追い求め、政治的・経済的危機をより一層深刻なものにさせているのである。こうした政策を、各国においてストップさせる闘い、孤立化させる闘いは、経済危機・不況政策に対する闘いと密接不可分に連動している、と言えよう。
(生駒 敬)

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