【投稿】関電美浜3号機運転差し止めを認めず「原発60年超運転」を決定
福井 杉本達也
1 稼働40年超運転の関電美浜3号機の運転差し止め認めず
運転開始から40年を超えて稼働する国内唯一の関西電力美浜原発3号機について、大阪地裁(井上直哉裁判長)は12月20日、「安全性に問題なし」として運転の差し止めを認めない仮処分決定を出した。美浜3号は1976年に運転を開始した。2004年8月9日にはタービン建屋において、運転開始から1度も点検していなかった復水配管(二次系の大口径配管)が破断し、作業員5人が死亡、6人が負傷するという国内原発では当時としては最大規模の事故を引き起こした原発である。破損した配管は、点検リストから欠落し、中を流れる水の作用により徐々に薄くなって破損、約140℃の熱水と蒸気が噴出したものである(関西電力)。
このいわくつきの原発に対し、福島第一原発事故後の新規制基準にのっとり、関電は補強工事を実施し余裕を持って安全性を評価しているとして、耐震安全性は問題ないと判断した。また、40年を超える高経年化に対しては、規制蚕が運転延畏を認可しており「審査にも問題があるとは認められない」と指摘。基準で定める対策以上に「安全性を厳格、慎重に判断しなければならない事情はない」とした。避難計画についても「不備は認められない」と結論付けた。(福井:2022.12.21)。
2 原発の安全に関する「樋口ドクトリン」
原発の安全性については。2014年5月に関電大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じる判決を下した樋口英明元福井地裁裁判長の「樋口ドクトリン」がある。(1)原発事故のもたらす被害は極めて甚大。(2)それ故に原発には高度の安全性が求められる。(3)地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということに他ならない。(4)わが国の原発の耐震性は極めて低い。(5)よって、原発の運転は許されないというものである(樋口英明『私が原発を止めた理由』(旬報社))。
樋口氏は「地震大国の日本で原発の高い安全性を担保するのは、信頼できる強度な耐震性に尽きます。原発の耐震設計基準を「基準地震動」と呼び、施設に大きな影響を及ぼす恐れがある揺れを意味します。美浜3号機の基準地震動は993ガル(揺れの強さを示す加速度の単位)。しかし、この国では1000ガル以上の地震が過去20年間で17回も起きているのです。」とし、「美浜3号機の基準地震動は建設当時の405ガルからカサ上げされています。建物の耐震性は老朽化すれば衰えるのに、原発だけは時を経るにつれて耐震性が上がるとは不可思議です。電力会社は『コンピューターシミュレーションで確認できた』と言い張りますが、計算式や入力する数値でどうにでも変わる。」「日本の原発の基準地震動は、ほぼ600ガルから1000ガル程度です」。「改正後の建築基準法は一般住宅も震度6強から震度7にかけての地震に耐えられるよう義務づけています。ガルで言うと1500ガル程度の地震には耐えられます」。「つまり、原発の耐震性は信頼度も基準値も一般住宅より、はるかに劣るのです。『1000ガルを超える地震はいくらでも来ます』という動かしがたい事実に基づく判断こそが合理的であり、『真の科学』と言えます。」と述べている(樋口英明「耐震性に着目すれば全ての原発を止められる」『日刊ゲンダイ』2021.6.14)。
3 美浜3号が立地する若狭湾は地震の巣
美浜3号が立地するのは沈降海岸の若狭湾である。この辺りでは、日本列島は若狭湾と伊勢湾の存在で大きく括れ、日本最大の湖=琵琶湖が存在する「若狭湾-琵琶湖-伊勢湾沈降帯」が形成されている。この辺りはフィリピン海プレートの沈み込み角度が緩く、プレートに引きずられて深部へ持ち込まれるマントル 物質を補う「補償流」がコーナー奥まで入り込めない。結果質量欠損が生じて上盤の地殻が沈降する。フィリピン海プレートによる地殻変動で隆起域と沈降域が繰り返される。当然その境には断層が存在する。未確認なだけである。若狭湾での直下型地震は必ず起こる(巽好幸 Twitter 2022.12.2~22)。
地震学は観察不可、実験不可、資料なしの“三重苦”と言われており、予測はできない。「地震予知というのは、地震の場所、時期、規模を予想することであるが、電力会社の主張は、『強い地震が来ないことを予知できる』と言っていることにほかならない。わが国で地震の予知に成功したことは、一度もない(樋口:上記)。
原発の主要設備は放射能の影響が大きく、交換できない設備が多い。「45年前の家電を今も使いますか? 大量生産の家電は壊れても最新技術の製品に買い替えればいいけど、原発」は壊れたら終わりである(樋口:上記)。最重要設備の圧力容器は交換はできない。核燃料から発生した熱を取り出し蒸気を発生させ、タービンを回し、再び水にして圧力容器に戻す配管のほとんども交換できない。美浜3号の技術は50年以上前の技術である。設計も材料も部品も50年前の技術で作られている。主要設備は阪神大震災前の耐震評価で作られている。まして東日本大震災のような大規模地震の知見による評価は受けていない。単にコンピュータシミュレーションしただけである。しかも、金属もコンクリートも錆びたり、劣化したりする。新しい地震の知見に基づいて全部交換すれば莫大な費用がかかり原発の採算はとれない。劣化した設備の交換もできない40年超の原発を動かし続けるなど狂気の沙汰である。
美浜原発に入るには全長455mの丹生大橋を利用するが、地震で崩落した場合には、丹生湾を大きく迂回する必要があり、原発に重大事故が発生した場合の資材・人員の搬入に極めて大きな支障を伴う。しかも、半島ということもあり敷地内は狭く、美浜1・2号機の廃炉作業も行われており、下請け会社の作業棟や工事用仮設道路などでごった返しており、福島第一原発のような大規模な処理水や放射能汚染物質の置き場も確保できない、事故に対してはきわめて脆弱な施設である。2022年9月に、テロ対策となる「特定重大事故等対処施設」(特重施設)を完成したとしているが、万一、このような場所で重大事故がおきるならば、原発の制御は全くできず、福島第一原発事故のように運よく8割の放射能が太平洋に落下したというわけにはいかず、放射能のほとんどが中京・関西方面に落下し、日本列島が寸断されるという恐ろしい状況が出現することは目に見えている。
4 原発ムラと米国の要求で無理やり「原発60年超運転」を決定
福井新聞によると、政府は12月22日、「次世代型原発への建て替えや、運転期間60年超への延長を盛り込んだ脱炭素化に向げた基本方針を決定した。東京電力福島第一原発事故後、原発の依存度低減を掲げてきたが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機などを背景に原発の最大限活用に政策を大きく転換する」と書いた(福井:2022.12.23)。
しかも、規制する側の原子力規制委と推進側の経産省との関係は、「軌を一にして規制委の変質が進む。3月、発足からのメンバーで、続投の見方もあった更田氏が9月に委員長を退き、山中伸介委員に交代する人事案が国会に示された。事務局の原子力規制庁も長官、次長、原子力規制技監のトップ3を初めて経産省出身者が占めた。」「独立性の確保を掲げて発足した制委が、経産省と二人三脚で制度改正を推し進める構図。規制委内からも『完全に失敗だった。推進と両輪でやっていると言われて仕方ない』との声が漏れる」「“重し”が取れた」と福井新聞も書かざるを得ないほどひどい状況である(福井:2022.12.22)。
米国はこの「60年超運転」の決定を歓迎している。エネルギー資源にない日本にとって、サハリン1.2などのロシア産の石油・ガスは生命線である。何としても、日本をロシアから離脱させるには、どんなに古い原発でも再稼働させる必要があると踏んでいる。GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で決定したというが、脱炭素とは何の関連もない。