【投稿】より一層深化する経済恐慌--経済危機論(100)

<<インフレ率6.5%を祝う?>>
1/12、米労働統計局(BLS)は新たな物価上昇率のデータを発表、12月の消費者物価指数(CPI)インフレ率は前年同月比6.5%上昇であった。早速、官庁エコノミストやバイデン政権当局者や大手マスコミは、昨夏のピーク時の8.5%から約2%ダウンしていることから、「インフレ率6.5%を祝う」かの報道である。バイデン政権は物価上昇を表現するのに、”fall “あるいは “falling “という言葉を繰り返し使って、あたかもインフレ率が下落”fall “し、コントロールに成功しているかの如く強弁している。
FRB・中央銀行の度重なる金利の上昇政策は、新たな住宅暴落を引き起こし、テクノロジー産業を押しつぶし、大不況以来最大のレイオフの波を引き起こし、経済不況をを深化させれば、物価が抑えられるのは当然なのである。
 しかもこのインフレの実態は、かつての安倍政権の原発「アンダー・コンロール」=虚言と同じく、「制御下」とは程遠いものである。FRBが任意に設定したインフレ目標値2%を、20ヶ月連続上回っており、なおかつ物価上昇率6.0%を上回るのは15ヶ月連続なのである。まったく「制御」できていないのである。前月比のインフレ率は5ヶ月ぶりに低下し、CPIは11月から12月にかけて0.1%低下したのであるが、その12月の前年比伸び率は、1990年代、2000年代、2010年代のどの月の物価上昇率をも上回っている。
 さらに、いわゆるコア・インフレ(CPIから食品とエネルギーを除いたもの)は、9月に記録した40年ぶりの高水準からほとんど低下していない。12月のコア・インフレ率は前年比5.7%であった。これは、11月の5.9%からわずかに低下しているにすぎない。この指標の前月比上昇率は、11月から12月にかけてもプラスで、前月比の伸びは、2020年5月以降、すべての月でプラスとなっている。つまりは、衣食住とエネルギーを含めて、すべて、まだ勢いよく上昇しているのが実態なのである。
実質インフレ率は、公表インフレ率よりもはるかに高く、インフレ率の計算方法が 1980年以降、20回以上も変更され、変更されるたびに、実際よりも低く見せており、インフレ率が 1980年当時と同じように計算されれば、現在の実質インフレ率は15%近くになり、この数字こそがインフレの実態なのである(上図)。不況進行下で、下がるはずが、依然として高インフレ環境にあることは間違いない。

<<「世界同時不況の可能性」>>
この高インフレを相殺すべき、実質賃金の低下は、実に21ヶ月間連続の減少である。それでも、パウエルFRB議長はさらに賃金引き下げを公言しており、米下院議会多数派となった共和党に便乗して、バイデン政権と米国議会は「超党派で」、社会保障とその他の給付をさらに削減する緊縮政策が目白押しとなっている。
 実質賃金は、1982年以降、年平均4%以上の下落を記録している。1982年以降のインフレ率208.8%の上昇に対し、1982年以降の名目賃金は、米国の下位90%の世帯で29%しか上昇していないが、一方、1982年以降、上位1%の世帯の所得は206%、上位0.1%の世帯の所得は465%上昇している。まさにこの格差拡大は、弱肉強食、自由競争原理主義、強欲資本主義・新自由主義政策の結果がもたらしてきた、惨憺たる経済実態の象徴である。

1/12 ニューヨークの7000人の看護師が3日間のストライキの後、暫定的な合意で「歴史的勝利」を獲得。実質賃金の低下と過労と疲弊で

、2019年以降、50万人が離職している看護師たちの闘いは、これから起こるであろう多くのストライキの最初の一歩に過ぎない、と言えよう。

この実質賃金の低下は、限度額一杯のクレジットカード、度重なる金利上昇で、焦げ付きが増大し始めたことが明らかになっている。

1/13、米銀大手(JPモルガン、バンカメ、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ)4行が2022年12月期決算を発表、その中で、住宅ローンや自動車ローンの需要は急速に鈍化、バンカメでは10~12月期の住宅ローンの新規組成が前年同期比8割減少、ウェルズ・ファーゴの自動車ローン組成も半減、各行とも貸倒引当金を積み増し、回収困難な与信費用の計上が、22年12月期に4行合計で157億ドル(約2兆円)となったのである。景気後退入りに、各行とも貸倒引当金を積み増したのであるが、それでも、FRBの利上げによる利ザヤ拡大・純金利収入の増加によりJPモルガンやバンカメは最終増益を確保している。踏みにじられるのは庶民なのである。

1/12付け日経新聞「世界同時不況の可能性」で、ハーバード大教授のカーメン・ラインハート氏は、「世界同時不況が来ると予想しますか」との問いに対し、「可能性は非常に高い。家計負債は80年代前半のほぼ2倍、あらゆる種類のリスクが顕在化している。リスクを過小評価するのはあまりいい考えではない。」と語っている。

こうした事態は、より一層深化する政治的経済的危機・経済恐慌の反映と言えよう。
米、英、EU、日本などG7諸国の危険な対ロシア・対中国緊張激化・挑発政策が、経済恐慌をより一層深化させているのである。先ずは一刻も早く、ウクライナ危機の解決に向けた外交交渉こそが優先されるべきである。
(生駒 敬)

 

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