<<「どうしてこのレベルの無能が可能なのか」>>
5/3、米中央銀行・連邦制度準備理事会(FRB)パウエル議長は、連邦公開市場委員会(FOMC)の決定として、22年3月以来、10会合連続の利上げ、0・25%引き上げで政策金利の誘導目標は5~5・25%になることを明らかにした。
その際、同議長は、「依然としてインフレ率が高すぎる」、「利上げサイクルが終わったと考えるのは早すぎる」としながら、だが次回6月会合では利上げを停止する可能性を示唆し、なおかつ、米経済についてはなお「ソフトランディング(軟着陸)に期待している」、「リセッション(景気後退)に陥るよりもリセッションを回避する可能性が高い」と表明しながら、「リセッションを排除するつもりはない」と述べ、「緩やかなリセッションの可能性はある」と、景気後退を認めざるを得ない自らの動揺をそのままさらけ出す記者会見となった。
その動揺の最大の原因となっている銀行危機について、パウエル氏は、米国の銀行システムは「健全で回復力がある」と、何の皮肉も込めずに述べたのであったが、直近5/1に、3月のシリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー銀行(SB)、シルバーゲート(SGB)の連鎖的な破綻に続いて、次なる標的となったファースト・リパブリック銀行(First Republic Bank)の破綻、JPモルガンによる買収が発表されたばかりである。この経緯のどこに「健全」さがあるというのか。結果としてパウエル氏は「米国民に公然と嘘をついた」と非難される事態を招いているのである。
この会見の1日前、5/2のニューヨーク株式市場では、ダウ工業株平均が一時、前日より600ドル超も下落、米銀最大手JPモルガン・チェースによるファースト・リパブリック買収が決まったにもかかわらず、預金流出不安は収まらず、地方銀行株価は軒並み大きく下落し、地方銀行の株価指数は2008年以来最大の下落を記録していたのである。FRBの連続利上げによる含み損の拡大が追い打ちをかけているのである。
さらに問題は、この会見のちょうど2時間前、カリフォルニア州のさらに別の最大の銀行が危機に瀕していたのである。そして会見終了直後、ブルームバーグは、カリフォルニアに本拠を置くパックウェストバンコープ(PacWest Bancorp. )が売却を含むさまざまな戦略的オプションを検討していると報じたのであった。パウエル議長は、このパックウェストバンコープが危機に瀕していることに気づいていない、あるいは報告がない、把握していなかったのか。しかしこの銀行はすでに株価が60%以上急落していたのである。どうしてこのレベルの認識の低さ、対処の無能さが可能なのか、と問われているわけである。よくもぬけぬけと米国の銀行システムは「健全で回復力がある」と語ったものである。しかし、こうした発言は、バイデン大統領、イエレン財務長官も同罪で、臆面もなく同様の発言を繰り返している。
銀行システムは健全ではないどころか、いつ倒れて
もおかしくない脆弱さを露呈しだしたのである。中小規模の銀行にとどまらず、チャールズ・シュワブ(Charles Schwab)やその他の大手銀行も破産する可能性が指摘され出している。事実上の破産に近い可能性のある銀行として、ハワイ銀行(Bank of Hawaii)とプエルトリコ人民銀行 (BPPR) 、フェニックスに拠点を置くウェスタン・アライアンス(Western Alliance Bancorp)が挙げられている。ハワイ銀行、BPPR、チャールズ シュワブの 3 つの銀行はすべて、先月で時価総額の 3 分の 1 から 2 分の 1 を失っている。
株価が年初から大幅に下落し、空売りの対象となっている他の銀行には、コメリカ、ザイオンズバンク、リパブリックファーストバンコープが挙げられており、これらの株は年初来で 45 ~ 60% 下落している。ハワイ銀行、BPPR、チャールズシュワブの 3 つの銀行はすべて、先月で時価総額の 3 分の 1 から 2 分の 1 を失っている事態である。
<<「利益を民営化し、損失を社会化する」>>
5/1のファースト・リパブリック銀行の破綻は、米国史上2番目の大きな銀行破綻であった(1番目は、2008年のワシントン・ミューチュアルの破綻、3番目は、今年/310のシリコンバレー銀行の破綻)。
すでにこの時点で、今年、2023年の金融危機は、2008年の金融危機よりも公式に危機が拡大していることが明らかになっている。この2023年に破綻した3つの銀行は、2008年に破綻した25の銀行すべてよりも多くの資産を保有していたのである。この3つの銀行の合計資産は 5,320 億ドルになり、2008年に破綻したすべての米国の銀行が保有する 5,260 億ドルをすでに超えていたのである。
2008年の金融危機の際、JPモルガン・チェースがワシントン・ミューチュアル(WaMu )を買収した時点で、WaMuは米国史上最大の銀行破綻であった。今回、JPモルガン・チェースはまたもや、米国史上2番目に大きな銀行破綻であるファースト・リパブリック・バンクの買収を許可されたわけである。エリザベス・ウォレン上院議員が指摘する通り
、「監督不行き届きの銀行が、さらに大きな銀行に買収され、最終的には納税者が負担することになる」のである。
問題は、JPモルガン・チェースがファースト・リパブリック銀行を買収する取引の際、連邦預金保険公社(FDIC)は、JPモルガンが取得している住宅ローンと商業ローンの損失のほとんどを吸収することに同意し、500 億ドルの与信枠も提供、FDICがこの取引で約130億ドルの損失引き受けていることである。FDIC は、一戸建て住宅ローンの損失の 80%を7年間カバーし、商業用不動産 (CRE) ローンを含む商業ローンの損失の 80% を5年間カバーするのである。これぞ、まさにFDIC・マッカーナン理事が「わが国の救済文化」への嘆きとして語った「利益を民営化し、損失を社会化する」典型である。
JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、買収発表後の声明で、「わが政府はわれわれと他の人々にステップアップを呼びかけた。われわれはそうした」と述べ、バイデン政権の働きかけに応えたもので、「自分は愛国者だ」とまで発言、JPモルガンはニュースリリースで、「(この取引は)わが社全体に適度な利益をもたらす」と胸を張っている。
JPモルガンによると、この買収には次のようなメリットがあるという。
・2023 年に 26 億ドルの一時的な「バーゲン購入利益」。
・年間純利益の増加は「5億ドル以上」。
・20% を超える「IRR」 (内部収益率) を生み出す。
・JPMの米国資産戦略における「成長イニシアチブの加速」。
・「米国の富裕層のクライアントへの浸透率の向上
・「裕福な市場に一等地を追加」(サンフランシスコのベイエリア、ロサンゼルス、ポートランド、シアトル、ニューヨーク市、ボストン、ジャクソン(ワイオミング州)など)…
・「一株当たりの有形の帳簿価額を増加させる。
JPモルガンは、こうしてファースト・リパブリック「救済」劇を演じながら、実は同行をむさぼり食ったのだと言えよう。
しかし皮肉なことに、この「救済」劇を発表した5/1、JPモルガン・チェースが規制当局によって米国で最もリスクの高い銀行としてランク付けされていることが明らかにされている。金融資本の寡占支配のリスクである。
ここで問題なのは、2022年12月31日現在で、JPモルガン・チェースは国内オフィスに2兆1,000 億ドル、海外オフィスに4,260億ドルの預金を保有しており、合計で2兆4,000億ドル、米国内の総預金の 11.36% を保有しており、上限の 10% をはるかに超えており、さらに別の銀行を買収する資格などあってはならないことなのである。
しかもこの買収は、2021年7月9日のバイデン大統領の大統領令に反するものでもある。バイデン大統領は、「過度の市場支配力から守り」、反トラスト法を施行すると約束し、「アメリカ人が金融機関の中から選択できるようにし、過剰な市場支配力から守るために、司法長官は、連邦準備制度理事会の議長、連邦預金保険公社の理事会の議長と協議しておよび通貨監督官は、銀行合併法および 1956 年銀行持株会社法に基づく合併監視の活性化のために、この命令の日から 180 日以内に現在の慣行を見直し、計画を採用することが奨励されます。」としていたことから、大きく背反していることが明らかなのである。明らかな、バイデン政権の自らの大統領令に対する裏切り行為なのである。
しかも、JPモルガン・チェースが競合他社を食い物にしてきた歴史は誰もが知ることであり、市場を不正操作し、マネーロンダリングを行い、5 つの重罪を認めてきた悪名高き、巨大金融独占資本なのである。バイデン政権にとって、この事態は、実は、裏切りではなくて、結託なのであろう。
バイデン政権はこんな事態に触れられたくないのであろう、ウクライナ危機、対ロシア・対中国緊張激化策動、世界大戦化に懸命である。金融危機打開への根本的な反独占・ニューディール政策への転換とともに、一刻も早く、即時停戦、緊張緩和、平和外交への転換が、巨大な圧力として提起されるべきであろう。
(生駒 敬)