The New York Times International Edition、July 24, 2023
Opinion
“ The risks of global sanctions, the tool America loves to use”
The Editorial Board
[ The Editorial Board is a group of opinion journalists whose views are informed by expertise, research, debate and certain longstanding values. It is separate from the newsroom.]
「米国が好んで行使する手段:世界的制裁の危険性」
国際法や規範への、目に余る違反行為は、力強い一致した反響を呼び起こすことは、ほとんど世界的な合意である。考えてみよう、例えばロシアのウクライナへの侵攻、イランと北朝鮮における核兵器開発、これらへの対応として厳しい経済的制裁が長らく考えられてきている。
しかしながら、永遠の疑問は、その次に何が来るのか?何時、制裁は働きを止めるのか?
又は、さらに悪い方向へ、何時、米国の利害に反して、それら制裁は働き始めるのか?
これらは重要な質問である。
何故ならば、過去20数年に渡り経済制裁は、米国の政策立案者にとって、執るべき最初の手段となって来ている。例えば、テロリストのネットワークの粉砕、核兵器開発の阻止の試みや独裁者への罰則として行使されてきている。米国財務省の海外統括の制裁リスト上の氏名の数は、着実に増加していて、個人に対する銀行利用の制裁によって、2000年の912名より2021年の9,421名へと増加している。トランプ政権時には、一日に約3名のペースでリストに追加した。昨年のロシアのウクライナ侵攻後のバイデン大統領の声明により、その増加率は急増していて、昨年を上回っている。したがってその行使が増加していることを考えると、制裁がどのように成功する外交の手段になりえるか、のみならず、うまく作用しないときでも、世界を巡る平和や人権、さらに民主的規範を推進する米国の努力を、いかに蝕み得るかを理解することは、有益である。
The invisible costs of sanctions. [制裁の目に見えない費用]
一部には、制裁は、特に軍事行動に比べて低コストと見られることで、政治家はしばしば制裁に立ち帰る。Drexel University’s Global Sanction Data Base によると、1950年以来、米国は、世界で課せられた制裁の 42 % を占めている。事実、費用は実在する。それら費用は、銀行、企業、市民や人道主義者のグループによって負担されている。そして彼らは、制裁を実行に移す負担を負い、それらを適応し、その影響を軽減している。制裁は又、弱い立場にある人々に損害を与える可能性があります— しばしば貧しい人々や抑圧的政権の下での住人に対して。それらの事実を、学者たちが文書化しています。当局者が、そのような費用を考慮することはほとんどない。他方、制裁は容易に課せられる。自治体の連邦機関によって執行される多くの制裁計画がある。そして、一旦実行されれば、政策的、官僚機構的に中止、解除することが難しい。たとえ、それらの制裁が、もはや米国の利益に役立たなくなっていたとしても。さらに悪いことには、制裁は又、重要な公的審査を逃れている。
ある特定の制裁が、不必要に、罪のない潔白な人々を傷つけ、外交政策の目標を台無しにしているか、よりも、意図したように働いているか否かに、責任を持つ当局者/役人は、ほとんどいない。
Mr. Biden は、それら制裁の説明責任の欠如を改正することを約束して、大統領に就任した。財務省は、2021年に、実施された制裁の広範囲な再調査を指導し、その年の10月に7 page の要約を公表した。再調査のプロセスは、重要な一歩であった。それは、とりわけ、次のように結論付けている。
まず、制裁は状況、環境に合わせて正しい手段であるということを確証すべく、体系的に精査されねばならない。又、制裁は明確で具体的な成果に結びつき、その場で可能な、同盟国を含んでいること。さらに、制裁が米国の労働者や企業、同盟国や潔白な人々に与える「意図しなかった経済的、政治的衝撃」を和らげるための注意や努力がなされるべきであると。財務省は、検証の推奨を実行することで、いくらかの前進を見せているが、同省は、制裁を成し遂げるための責任ある多くの政府の機関の一つに過ぎない。政府のすべての機関は、制裁の利点は、それに要する費用に勝っていること、そして、制裁は正しい手段であり、目的を成し遂げるための最も安易な手段ではない、ということを確証するために、定期的にdata を使った分析を指導すべきである。又、そのような分析の結果が議会や国民に伝えられることが重要である。
Sanctions need clear achievable outcomes.
[制裁には、明白で達成可能な成果が必要である]
すでに知られていることは、制裁は、実現可能な目的を有していて、それら目的が達成された場合の救済の約束と対をなしている時に最も効果的である。
おそらく、最良の例は、Apartheid (アパルトヘイト、人種隔離制度) 時代の南アフリカを対象とした 1986 年の法律である。この法律は、制裁緩和のための Nelson Mandela の釈放を含む五つの条件を示していた。米国や他の国々による、その制裁は、南アフリカの白人だけの政府 (white-only Government) を説得して、人種差別を維持できないよう指示することに助力した。
「連帯」運動の抑圧に応じての、1981年における共産主義国家ポーランドへの制裁は、これが如何に作用するかのもう一つの事例である。米国とその同盟国は、ポーランドや、その他東ヨーロッパでの政治的自由における新時代の先導役を手助けすることで、投獄/収監されている多くの活動家達が、釈放されることで徐々に制裁を解除した。
南アフリカやポーランドに対する制裁は、自由と公正な選挙をもたらすことを意図し、政権交代 (regime change) を意図したものでないことは明らかである。政権交代を意図した制裁は、しばしば改革ではなく反抗を奨励する。それらは、Cuba, Syria や Venezuela の事例が明らかにしているように、ひどい実績を残している。 Venezuela においては、野心を持った無制限の制裁 — 独裁者 Nicolas Maduro を追い出すための制裁 — は、これまでのところ、その逆を達成している。2017年に、彼は民主的に選ばれた国会を解散して、2018年の、インチキな大統領選挙で、彼は勝者と宣告された。その後で、トランプ政権は、Maduro独裁政権の資金の重要な源泉である Venezuela 国有石油会社に最大限の制裁を科した。Mr. Maduro への厳しい個人制裁は必要である一方で、Venezuela の石油部門をBlack List に載せることは、人道主義の危機を悪化させてきている。
この NY Times の Editorial Board が警告したように、石油収益を切り取ることは、ここ10数年、ラテンアメリカでの一番の経済悪化をもたらしている状況を、さらに深化させた。
Francisco Rodriguez, a Venezuelan economist at the Josef Korbel School of International Studies at the University of Denver の昨年の研究によれば、この国の輸出の約 90 % を占める石油産業への制裁は、政府収入の劇的削減と著しい貧困の増加をもたらすと。この制裁は、同時に、Mr. Maduro の政権の座より追い落とすことに失敗した。
翻って、彼は、支配力を強化し、この経済的苦悩は米国の責任であるとして、この国をロシアや中国に近づけた。多くの世論調査では、制裁は深く不人気である。米国における Venezuelaの野党の代表者や、かって広範囲な制裁を支持したあるグループでさえも、最近になって Mr. Biden に、石油制裁の解除を呼び掛けた。
就任以来、Mr. Bidenは、Venezuelaに対して、制裁を修正して、特定の達成可能な目的を追加する措置を講じて来た。Biden政権は、ロシアのウクライナ侵攻後の石油価格の高騰に促されて、Chevron に Venezuela での限られた仕事に許可を与えることによって、いくつかの石油制裁を解除した。White House は、もし Mr. Maduro が来年行われる選挙で、自由、公正な選挙の実施に向けた措置を講じるならば、制裁の追加軽減を行うことを約束した。
Francisco Palmieri, the State Department’s chief of mission of the Venezuelan affairs unit in Bogota, Colombia は、制裁が解除されるためには、何がなされるべきかの詳しいリストを公表した。そのリストには、来年の大統領選挙の日付を決めること、独断で逮捕された候補者の復権、そして政治的にとらわれた囚人の釈放が含まれている。
Mr. Maduro は、これまで、この提言には、従ってきていない。それどころか、6/30 さらに、別のよく知られている野党議員の公職就任を阻止した。それにも関わらす、性急な政権交代よりも、民主主義への緩やかな復帰を支持する Biden 政権の穏健な政策は、良い approach である。Biden 政権は、Venezuela でどの制裁を解除するのか、又とりわけ国営石油会社への制裁をいつ解除するのか、より明確であるべきである。 このことは、米国の約束をより信頼あるものにするであろう。昨年 11月に、Mr. Maduro と野党の間で Venezuelaの凍結されている資産を人道目的に使おう、という協定は、もう一つの約束事だった。しかしその資産は未だ凍結されているので、協定は不確実のままである。
この遅れは Venezuela に、危機に至る事態を解決する希望を失わせている、と Feliciano Reyna, the president and founder of Accion Solidaria, a nonprofit organization that procures supplies for public hospitals in Venezuela は述べている。彼は、物品を輸入できる特殊なライセンスを持ってはいるけれども、必要としている物品の取得に困難を抱えている、と言っている。いくつかの企業は、それら物品が法律に適合しているか否かを確かめる煩雑さ — 過剰適合 (overcompliance) として知られている現象 — よりも、むしろ Venezuela と取引しない方を好んでいた、と彼は述べている。また「この状況は、内政的には悲惨である。」と。
希望の喪失は、ある程度は、2015年以来、700万以上のVenezuela人が国外に逃れていること、さらに過去二年に、米国南部国境に、240,000以上の人々が押し寄せていることの、一つの証であろうか。多くの専門家が、Venezuelaからの人々の移動の推進役として制裁がある、と評している。 というのも、制裁が経済状態を悪化させ人々を、押し出したのであるからと。これに応じて民主党のあるグループ — including Representative Veronica Escobar of Texas, who co-chairs Mr. Biden’s re-election campaign — は、Mr. Biden に、Venezuela と Cuba への制裁を解除するよう嘆願した。
Biden 政権は、Venezuela で、より人道的にする為に制裁政策を変えているということを、明示することが出来る。最初の一歩は、2021年の再調査の勧告に従って、制裁が科せられる前に、いかなる制裁でも公式に人道コストを考慮する。 財務省は5月になって、その任務、職務を果たすために、二人のエコノミストを雇った。その任務とは、制裁を成し遂げる責任を持ついかなる部局に対しての標準慣行(standard practice)となるべき職務、任務である。
Sanctions need to be reversible.
[制裁は、可逆的である必要である。(元の状態に戻れることが必要である)]
一度、政府が現行の制裁事項の組織的再評価を指導し始めれば、課せられたいかなる制裁も破棄されることが出来るということを、確実にすることが最重要である。
この一番の失敗例を考えてみてください。それは、Cubaに対する無制限の貿易禁止(trade embargo)である。 1962年、John F. Kennedy 大統領は、明言された目標「現在のCuba政権を孤立させ、共産主義勢力との連携によってもたらされる脅威を減少させる。」にて、通商禁止措置(embargo)を講じた。それ以来、米国の大統領達は、すっと何年も、制裁を解除するには何が必要かについての、激しく異なったメッセージを発信して来ている。Barack Obama は、2014年に、それらの多くを解除すべく動議を提出した。それは一つの努力の成果であったが、3年後 Donald Trump がひっくり返した。昨年Mr. Bidenは、Trump時代の制裁のいくつかを解除した。 しかし、通商禁止を終わらせることが出来るのは、議会の法律だけである。
Peter Harrell, served on the National Security Council staff under Mr. Biden,は、論じている。もし議会がそれらの延長に賛同しないなら、制裁は、一定の年数後には、自動的に期限が切れて無効となるべきである。そうすれば、米国の議員達が、それら制裁の達成目標を諦めてしまった後も、何十年も存続している無気力になったゾンビ(zombie)のような制裁の件数は、減少するだろうと。
制裁を、過去における単なる行為を罰するものより、変化を動機付ける制裁とする為には、米国は、たとえ憎むべき行為者、関係者であっても、指定された基準が満たされている場合には、制裁の解除に備えるべきである。
制裁は、たとえ魅力的であっても、解除される為の基準と組み合わされている特定の目標なしに機能することは、ほとんどありません。これは、現在および将来の制裁に適用される。
目標や救済の基準なくしては、米国の外交政策の中でも、比重の大きいこれら制裁という手段、措置は、長い目で見れば、米国の利害や行動基準に反する危険性がある。
[ 完 ] (訳:芋森)