【投稿】海自艦の中国領海侵犯と福島第一核汚染水で完全白旗:日中外相会談の内実

【投稿】海自艦の中国領海侵犯と福島第一核汚染水で完全白旗:日中外相会談の内実

                            福井 杉本達也

1 深圳・日本人児童刺殺事件で反中意識を煽るマスコミ

9月24日のニューヨークでの中国・王毅外相との日中外相会談で上川外相は「中国で日本人学校の児童が襲われ死亡した事件について、一刻も早い事実解明や再発防止を求めました。」とTBSは報道している。23日のテレビ朝日の羽鳥モーニングショーでは児童刺殺事件を取り上げ、日本財団の柯隆研究員は盛んに中国の脅威と中国からの日本人の撤退を煽っていた。また、中国の反日教育が今回の事件の背景にあると叫んでいた。同様の報道は各TV局でも行われ、24日も1日中同様の反中国扇動が行われていた。れいわ新選組の長谷川ういこ氏もXにおいて「深圳の事件、襲われ亡くなった男の子は上の子と同い年。胸が締め付けられます。心からご冥福をお祈りします。国家が極端なナショナリズムと他国への敵対感情を煽ることは、悲惨なヘイトクライムを引き起こします。中国政府には、相次いでいるヘイトクライムへの対応を強く求めるべきです。」と述べている(長谷川ういこX: 2024.9.20)。マスコミ・野党を含めての自民党総裁選での電波ジャック以上の反中扇動の過熱ぶりである。

しかし、中国は反日教育などをしているわけではない。日本軍がいかに中国を侵略したかという史実を教えているだけである。事実無根のことを教えているなら問題であるが、侵略した事実を変えることはできない。それをやめろというのは他国への内政干渉も甚だしい。

では、いまなぜ大々的な反中扇動が行われているのかが問われる。

2 7月の海自艦の中国領海侵犯で艦長を更迭

9月23日の共同通信(福井新聞)の報道は「中国領海航行は誤侵入、海自艦艦長更迭、位置把握せず」という恐るべき見出しが飾った。北京発共同の記事は「海上自衛隊の護衛艦『すずつき』が7月に中国領海を一時航行したことについて、艦長が正確な位置を把握せず誤って領海侵入したと日本政府が中国側に伝達したことが22日分かった。海自は重大なミスがあったとして艦長を事実上更迭した」と書いた。領海侵犯したのは7月4日・台湾の北・浙江省沖であり、「すずつきは中国軍が新型ミサイル発射実験を行うとの情報を受け、警戒監視に当たる任務を負っていた」としており、「中国軍艦が繰り返した退去警告を無視」している。すずつきは、「自艦位置を把握できず誤って中国領海に侵入していた」とするが、そのような言い訳が通用するはずもない。

そもそも、海自艦が浙江省沖まで接近することは日本の防衛とは全く関係ない。米軍の指示による中国の軍事訓練の偵察行為であり、領海侵犯による挑発行為である。これが、自衛隊と在日米軍による『統合作戦司令部』と『統合軍司令部』を軸に、部隊間の指揮統制の連携を深め」ていくことの(日経:2024.9.22)中身である。米軍が直接行えば、米軍の能力が知られてしまい、米中間が極度に緊張することを恐れたからであり、その役割を海自艦にやらせたのである。結果、日本側は艦長を更迭することにより、中国側に詫びを入れたのであり、当分は『統合軍司令部』などというものは動かさないことを約束させられたのであろう。

3 福島第一原発放射能汚染水の海洋放出は国際的監視の下で

岸田首相は、「日中両政府は20日、東京電力福島第一原発の処理水海洋放出を巡り、中国が全面停止してきた日本産水産物の輸入を再開する方針で合意したと発表した。しかし、その中身は、国際原子力機関(IAEA)のモニタリング(監視)の下で、中国が海水などの試料採取を実施後、規制を段階的に緩和する)(福井:2024.9.21)というものであるが、中国の水産物輸入禁止措置について、昨年8月24日の最初の放射能汚染水海洋放出時に岸田首相は禁輸の即時撤廃を求め、『料学的根拠に基づき専門家同士が議論していくよう強く働きかけていく』と述べ(日経:2023.8.25)、その科学的根拠の裏付けとして、IAEAは「海水と混ぜて国の安全基準の40分の1未満の濃度に薄める日本の放出計画を『国際的な安全基準に合致している』と評価」したとしていた(日経:同上)。しかし、それは強引な我田引水の「科学的根拠」であり、それが、今回の合意で根本的に崩れ去ったことを意味する。日中間で発表された合意はIAEAの「枠組みの下、国際的モニタリングに参加し、独立サンプリング活動を実施した後、科学的な根拠に基づき『一歩一歩』という意味である」(日経:2024.8.23)。中国は当初より、国際的モニタリングに参加させるよう要求しており、誰がサンプリング調査しても同じ結果がでるならば、「科学的」であるが、日本だけが都合の良いデータを出しても国際的安全基準に合致しているかどうかは定かではないことは当然である。「科学的」とはだれがやっても同じ結果が出るという再現性が重要である。

「日本語と中国語の対比確認が十分だったのか疑問も残る」(日経:同上)と公的媒体としての新聞にあるまじき愚痴を書いているがお粗末である。IAEAの監視下で国際的モニタリングを行うことが正式決定であり、日本の一方的な放射能汚染水の海洋放出策は完全に行き詰ったといえる。外交的完敗である。

マスコミによる深圳事件を利用した反中扇動は、この日本の重大な外交的敗北を国民の目から誤魔化すことと、日本側がこれを機に「日米統合軍司令部」構想から離脱するのではないかという、米金融寡頭制・軍産複合体=米民主党側の焦りと圧力を代弁している。「もしトラ」が囁かれる中、このまま米国に従って行けば自滅への道しかないとして、日中の水面下での外交修復が始まったのかもしれない。

カテゴリー: 原発・原子力, 政治, 杉本執筆 パーマリンク

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