【投稿】“歴史の教訓に学ばぬ”「エネルギー基本計画」改定案という作文

【投稿】“歴史の教訓に学ばぬ”「エネルギー基本計画」改定案という作文

                           福井 杉本達也

経済産業省は2024年12月17日に、新しいエネルギー基本計画の原案を示した。2040年度の発電量に占める原子力発電の割合を2割程度とし、再生可能エネルギーは4~5割程度に上げる。生成AI(人工知能)の普及による電力需要への対応と脱炭素の両立を図るために、原発を再生エネとともに「最大限活用」するという。さらに問題なのは、東日本太震災の大被害を受けて、原発を制限しようとしていた動きを大きく変えようとしている。原案ではこれまでエネルギー基本計画にうたわれていた「可挺な限り原発依存度を低減する」との文言を削除した。生成AIなどによるデーターセンターや半導体工場の新設による電力需要の大幅な増加により、2040年度には今日の発電電力量よりも1~2割程度多くなると見込み(大風呂敷を拡げ)、そのため、古くなった原発の建て替えを進め、次世代革新炉も建設するというのである(日経:2024.12.18)。

2 歴史から教訓を学ばぬ者は、過ちを繰り返して滅びる
2011年3月11日、福島第一原発は人類史上最悪レベルの原発事故を引き起こし、東日本が滅亡の危機に直面したが、幸いにも奇跡が重なり、東日本の滅亡は免れた。しかし、放出された放射性物質による被曝線量が年1ミリシーベルト以上の地域は、8都県で約1万3千平方キロ(日本の面積の約3%)に及んだ(朝日:2011.10.11)。原発事故を引き起こした原因は地震と津波であるが、日本の原発は巨大地震に耐える設計で建造されていない。しかも、2010年には巨大津波によって福島原発が壊滅的な打撃を受けることが予想され、対策が提言されていたにもかかわらず、東電は何の対策も講じなかった。
『原発を止めた裁判官』・樋口英明氏は、(1)原発事故のもたらす被害は極めて甚大、(2)それゆえに原発には高度の安全性が求められる、(3)地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということにほかならない、(4)わが国の原発の耐震性は極めて低い、(5)よって、原発の運転は許されないと単純明快に述べている。「歴史から教訓を学ばぬ者は、過ちを繰り返して滅びる」。いま日本は滅びる寸前にある(植草一秀2024.12.22)。しかも、世界のすべての国に取り返しのつかない損害を与えながら。

3 AIによる電力需要という欺瞞
AIが電力需要の1~2割を占めるようになるというなら、そのような産業は存続できない。AIが電力需要が大幅に削減するとか、発電にかかる経費を大幅に下げることができるというなら、産業としての意味はあるが、単にエネルギー需要を増加させるというならば産業としての存続する意味はない。
AIのデーターセンターは膨大な電力を消費する。IEAは2026年の世界の電力消費量がAIの普及などを受けて、2022年の2倍に膨らむと試算する。日本でも、電力中央研究所は2021年に9240億キロワット時だった日本の電力消費は2050年に最大で37%増えると予想する。生成AIは大量のデータを学習しながら文章や画像を自動的に作るが、そのため膨大なデータ計算が必要である。AIのディープラーニングでは、大量のデータを機械に読み込ませることで、機械が自らそのデータから規則性や特徴を導き出し学習する。この際、CPU (Central Processing Unit:中央演算処理装置)よりはるかに高い演算性能をもつGPU(Graphics Processing Unit:画像処理演算装置)サーバーは、比較的安価にディープラーニングを実行できる。しかし、膨大なデータのほとんどはゴミである。AIはそのゴミの中から膨大な計算処理によって目的物を探し出す。その処理をGPUサーバーが行うが、この情報処理はエントロピーの増大であり、情報というエントロピーは熱エネルギーという物理的な形態で増加したエントロピーをコンピューターから外部に排出することによって,内部を低エントロピー状態に持っていく。したがって、データーセンターの電力消費のほとんどは、この空調や水冷などの冷却工程に使われる。
工業生産を支える本質的な技術はエネルギー供給技術である。算出エネルギー量/投入エネルギー量=エネルギー算出比>1.0 つまり、投入エネルギー量より算出エネルギー量が大きいことが条件である。(参照:近藤邦明HP:「工業化社会システムの脱炭素化は不可能」2021.3.25)AIはデープランニングによって、省エネや生産性の向上に寄与するかもしれないが、とても、その投入電力消費量に見合うだけの算出エネルギーを生み出す(省エネを含めて)とは思えない。データセンターが増えれば増えるほど、生産力が落ちると考えられる。経産省官僚のAIによる電力消費量の増加という理屈付けは、物理的にも技術的にも経済的にも全く整合性のとれない作文にすぎない。

4 GXという欺瞞
2023年にグリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針を閣議決定したが、原発は発電時に温暖化ガスを排出しない脱炭素電源であると主張している。50年の温暖化ガス排出実質ゼロの達成に向け、原発と再生エネを最大限活用する。政府は、原子力の2割程度の目標達成には、国内に現存する36基の原発ほぼすべてに相当する稼働が欠かせないとみる。さらには、廃炉原発の建て替えや再稼働を推進とする(日経:同上)。
原発はゼロエミッションだというが、それは発電時に二酸化炭素を排出しないというだけであり、建設時や維持管理には膨大な二酸化炭素を排出している。また、放射性廃棄物も、セシウム137の半減期は30年であり、30年たたないと半分にはならない。100年たっても1/10は残る。プルトニウム239の半減期は2万4千年で安全な水準には10万年以上かかる。その間、放射性廃棄物を管理するために膨大な石油・天然ガス・石炭などの化石エネルギーが投入されねばならない。10万年後に人類が生存しているかどうかもわからない。
政府・経団連など、日本の支配層はまともに原発の危険性について考えようとしていない。ばかげた「エネルギー基本計画」という作文から目を覚まさねばならない。

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