【投稿】「一番困っている」国民の生活を守るには消費税減税しかない、財源は「外為特会」だ
福井 杉本達也
1 消費税減税に否定的な石破首相
石破首相は5月12日、衆議院予算委員会で、消費税の減税について、財政状況、基本税率の低さ、高齢化を理由に挙げ否定的な考えを強調した。首相は「あまねく裨益するということも大事だが、そのことによって一番困っている方々に手厚い支援がいかないというのは政策のあり方として正しいと思っていない」、「次の時代に責任を持つということが政治のあるべき姿」だと述べた(FNN:2025.5.12)。しかし、消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は28%と42年ぶりの水準となり、当然ながら、年収200万円未満の世帯は33.7%と、低所得世帯ほど影響は大きい。国民の生活水準が低下していることは明らかである。
2 消費税は消費抑圧税
租税と社会保障費は1980年には所得の30.5%であった。それが、2025年には46.2%にもなった。財政赤字2.6%を入れた潜在国民負担は、48.8%となっている。消費税は、国民の消費を抑圧して、GDPに対してマイナスの乗数効果をもつものである。本質は消費抑圧税である。現在。米価が高騰しているが、5キロ3000円だった米価には240円の消費税がかかっていた。それが、5キロ・6000円となれば、消費税は480円かかる。消費抑圧的なのは明らかである。逆に国の消費税は240円だったものが480円と2倍の税収となる。インフレになればなるほど、政府の税収が増える。雇用者世帯平均所得金額は3700万世帯あるが、1997年の最高726万円から2018年には633万円とマイナス13%にもなっている。消費税は、消費懲罰税としての性格がある。消費せずに預金すれば当然ながら消費税はかからない(吉田繁治:『失われた1000兆円を奪還せよ』)。
3 非関税障壁としての消費税
米国は日本の消費税を非関税障壁ととらえている。①米国製品を海外へと輸出すれば、それが輸入された国でその国の付加価値税(消費税)が課税される、②海外から米国へと輸出されてくる製品に対しては、原産地で課税免除されるために還付金が与えられる。付加価値税(消費税)を採用している国では輸出国は免税・ゼロ税率による関税非課税となり、その分国際的な価格競争力を増すことになる・一方米国では還付金なしで、海外の付加価値税が課税されるため競争力が低下する。日本国内では消費税増税はひたする社会保障費捻出、あるいは財政再建のためと喧伝されるが、むしろ非関税障壁として認識されている(『アメリカは日本の消費税を許さない』:岩本沙弓)。
「損益計算曹には出てこないが、輸出企業に見られる『消費税還付金』が巨額なのも同社の特徴だ。実際に消費される場所が海外でも、輸出車を造る際は国内の部品、資材、設備のメーカーに日本の消費税を上乗せして代金を支払っている。その税金部分が戻ってくる。SBI証券の遠藤功治チーフエグゼクティプアナリストは『(還付が)トヨタで年間7千億円程度、ホンダで3千億円程度に上っている』と試算する。」。これは「トヨタの2025年3月期営業利益と比べて15%に相当する」巨額の還付金である(日経:2025.5.17)。こうした輸出企業の還付金は、他の輸出に依存しな企業から徴収した消費税から還付され、消費税収入の1/4を占める。
4 日本を米国に売り渡したアベノミクス
2013年4月からのアベノミクスで円を600兆円も増刷したが、GDPへの効果がなかった。それは消費税を5%から8%、8%から10%への増税をしたため、ゼロ金利マネーは、2%から5%金利のつく米国債とドル株の買いになった。推計400兆円のドル買い・円売りで、1ドル80円台(2012年)が120円、140円、160円の円安になって海外に流出した。10年に及ぶ大実験によっても日本の経済成長率は低いままであり、異次元緩和が引き起こした超円安による輸入インフレにより日本の家計はひどく苦しめられている。原油など資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、賃金は上がらず、物価上昇が続くため、実質賃金は3年連続の減となり、家計の実質購買力を大きく悪化させている(『日本経済の死角』 河野龍太郎)。
5 消費税減税の財源は「外為特会」
消費を撤廃し、財源は1995年の外貨購入の自由化以降は無駄になった財務省管理の「外貨準備(1.3兆ドル:188兆円)を毎年25兆円、3年間売ることを、乗数効果の回復(=国民所得の継続的な増加)のため、実行することである。消費税を10%減税すれば、10%の消費数量が上がる。それは企業の売上の増加になり、企業の売上の増加は世帯所得の増加にもある。企業所得・世帯所得が増加して、乗数効果で4%の経済成長に回帰することとなる。消費税は実際は消費抑圧税である。その重しの蓋が外れることを意味する。消費税を撤廃すれば、10%の物価の低下が生まれる。実質所得は10%増えることとなる。そこで期待企業利益は10%=24兆円増えることとなる。人的な生産性の上昇が起こる。付加価値は5%上がる。そこで企業が賃金を4%上げられる。また、企業の経費も消費税分の10%が減る。それは企業利益の増加になる。企業利益が増えれば、企業は国内設備投資をしようかということになる。そこで、税収は24兆円の増加となる。乗数効果によって、24兆円の減収部分を回収することができるようになる。2~3年で、外貨準備を売って政府税収の穴を埋める必要がなくなる。自立型成長に入る(吉田繁治:『失われた1000兆円を奪還せよ』)。
6 米国は8.1兆ドルの対外債務を踏み倒す
米国は8.1兆ドルの対外債務を抱えている。これが、支払えないのでゼロクーポン債に切り替えると言っている。既発の米国債は37兆ドルに達し、GDPの137%となっている。2025年度の米国財政は、税収が5兆ドル、財政の支出が7兆ドルであって、2兆ドルの赤字である。これが、2025年・2026年と続く。このうち軍事費が約9000億ドル、既発国債の利払いが1 兆ドルもある(既発の⾧短国債の平均金利は2.7%:37兆ドル×0.027=1兆ドル)。国は既発国債の利払いが財政赤字を増やして国債の増発になる「財政のワニの口」にはいった(『ビジネス知識源』2025.4.18)。米運用大手アライアンス・パーンスタイン(AB)の運用戦略部長である荒磯亘氏は「利払い費が軍事費を超える水準まで高まっており、警戒ゾーンにある。」と述べる(日経:2025.5.22)。2025年度の財政赤字分の国債を2兆ドル新規に発行して、内外の金融市場に「現在のドル⾧期金利4.5%付近を上げないように」売らなければければならない。しかし、これは至難である(同上『ビジネス知識源」)。 要するに借金の利子を払えない状況に入りつつある。借金の踏み倒ししかない。いわゆる「マール・アラーゴ合意」である。これで、ドルは1/2に切り下げられる。日本の188兆円の外貨準備は90兆円にまで値切られる。そうなれば、日本は債権国から債務国に転落する。その前に、米国債を売却し消費税減税の財源とすべきである。5月21日の加藤財務大臣とベッセント米財務長官の日米財務相会談では「為替の水準に関する議論は出なかった。。米国の公表文には両国の主張が食い違っていると受け取れる部分があり、日本側が急きょ補足説明」したと報道された。「現在ののドル円レー トはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映しているという共通の考え方を再確認した」と米国が公表しただけで3円もの円高となった(日経:2025.5.23)。わざわざ「為替の水準に関する議論は出なかった」ということは、日米交渉の焦点は「関税」ではなく「為替の水準」であるということを意味している。それをいつ言い出すかだけが大事である。
5月12日・米中は「100%超の高関税を一時停止することで合意した。」(日経:2025.5.13)と報道された。これまで、中国は外貨準備をドルから本来の通貨である金に替え徐々にドル比率を減らしてきたが、世界3位の米国債保有国に米国債の売却をしないように頼み、何らかの合意が成立したということである。また、同様に世界2位の米国債保有国である英国とも合意が成立した(日経:20250510)。さらにトランプ氏は、大産油国であるサウジ・UAE・カタールを歴訪した。空手形で歴訪したとは思えない。当然に、保有米国債を売却しないように頼んだと思われる。いよいよ、日本とEU(ドイツ)への包囲網が狭まってきている。トランプ関税による税収増・USAIDなどの省庁解体・ウクライナなどの国防費削減・薬価などの医療費削減だけでは年1兆ドルの利払費を賄えないであろう。支払期限は迫っている。