<<南ア「白人ジェノサイド」の大ウソ>>
5/21、トランプ米大統領は、訪米中の南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領に対し、南アフリカにおける「白人虐殺」などというとんでもない陰謀論、デマゴーグを突きつけるに至った。ホワイトハウス・大統領執務室での会談の最中に、トランプ氏はあらかじめ入念に準備し、南アフリカを「白人虐殺」と不当な土地接収で非難した後、予告もなしに、「照明を消して、(動画を)再生して」とスタッフに指示、突如として約4分間のビデオ映像と新聞記事の束を誇示し、南アフリカの白人に対する人種差別的迫害の証拠として提示したのであった。トランプ氏はラマポーザ大統領に対し、「ここに埋葬地がある。埋葬地だ。1000人以上の白人農家の埋葬地だ」とまくしたてたが、ラマポーザ大統領はこれを断固として否定した。英BBCは「ラマポーザ氏はトランプ氏の待ち伏せ攻撃に遭ったが、巻き込まれることなくエレガントに自国の現状を説明した」と報じている。
ところが、トランプ氏にとっては、たくらみ通り、証拠を突き付けてやったつもりが、この映像、実はとんでもないでっち上げで、そもそも南アで撮影されたものではないことが確認される事態となってしまったのである。
CNNニュースは、「本日、トランプ氏と南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領との会談で提示された数々の陰謀論のうち、ほぼ全てが誤りであることが証明された。一部の南アフリカ人は、この情報は白人至上主義団体として批判されている白人アフリカーナー系ロビー団体『アフリフォーラム』のプロパガンダだと考えている」と直ちに報道されてしまった。
トランプ氏がラマポーザ氏に見せたのは、保守系オンラインマガジン「アメリカン・シンカー」が投稿した映像であった。アメリカン・シンカーのマネジングエディターで投稿記事を作成したアンドレア・ウィッドバーグ氏はロイターの問い合わせに対して、トランプ氏が「映像を誤認した」ことを認めたのである。
さらに翌5/22、実際にこの映像を撮影したロイター通信が、トランプ氏が南アの白人農民が虐殺された墓だと主張して流した映像は、ロイターがコンゴ民主共和国で撮影した全く関係がない動画だったことを明らかにした。この映像は今年の2/3に、ロイターが配信したもので、コンゴの都市ゴマで隣国ルワンダが支援する反政府武装勢力M23による襲撃で殺害された人々の遺体を運ぶ人道支援団体の関係者の映像だと確認された。実際に映像を撮影したロイターの動画記者は「全世界が見守る中で、トランプ氏は私がコンゴ民主共和国で撮影した映像を使い、ラマポーザ氏に南アで黒人が白人を殺害していると説得しようとした」と語り、「ショックを受けた」と報じている。
<<イーロン・マスク氏の意趣返し>>
トランプ氏にとっては、政治的大失態だと言えよう。ウソ、でたらめが、白日の下に晒されてしまったのである。
問題は、トランプ政権の、ホワイトハウスの誰一人として、こうした暴走、現実の歪曲を止められなかったことである。おべっか使いのラトニック商務長官を初め、閣僚は、ほとんどが卑屈なまでのお追従者ばかり。まともな意見など言って飛ばされるより、彼をお世辞で取り囲み、トランプ氏の権威主義と独裁主義を助長し、彼にひれ伏し、気に入られる、おこぼれをかすめ取る、腐敗と復讐に明け暮れる、パム・ボンディ司法長官に至っては、「大統領、あなたの就任100日間は、この国の歴代大統領のどれをもはるかに凌駕しています。(私は)このようなことは見たことがありません。ありがとうございます」 などと歯の浮くような熱弁をふるっている、トランプ氏はそれを聞いてご満悦。最近は本人自身が、ニッキー・ヘイリーとナンシー・ペロシを混同したり、ジョー・バイデンを「オバマ」と呼び、バイデンが「ステージ9」の癌だと騒ぎ立てて、認知能力の低下では、バイデン氏に負けず劣らずの症状を示している。すでに第二次トランプ政権発足4カ月にして、本人ならびに政権自体が末期的症状に突き進んでいるのだとも言えよう。
そもそも、 南アフリカには「白人虐殺」など存在しない、白人のアフリカーナ農民でさえ、トランプ氏の「白人虐殺」という非難は馬鹿げていると考えている。南アフリカの国際関係・協力省は、すでに今年2月の声明で、「我々は、我が国の偉大な国を誤って表現することを目的とした、偽情報とプロパガンダのキャンペーンと思われるものに懸念を抱いています。このような言説がアメリカ合衆国の意思決定者の間で支持されているように見えるのは残念です」と重大な懸念を表明していたことであった。
ところが、南アフリカ出身で、トランプ氏の2期目に首席顧問を務め、公務員の大量解雇と社会保障削減の先頭に立ち、同時に「白人虐殺」という虚偽の主張を煽ってきたイーロン・マスク氏が登場し、闊歩すると、トランプ氏を先頭にすべて右へ倣えである。
この「白人虐殺」の主張は、マスク氏が自身の衛星インターネット企業スターリンクの南アフリカ政府との契約締結にあたって、南アフリカの規制当局が、アパルトヘイトの痛ましい経済的遺産に対処するために制定された積極的差別是正措置法への一環として、黒人株主の参加が認められるまで、同社の事業開始を承認しない姿勢を貫いていることへの、逆襲、意趣返しであることが明らかである。
マスク氏は、ラマポーザ大統領のホワイトハウス訪問にも同席してソファの後ろに立っていたが、あまりにも現実離れのトランプ氏の主張に同調することもできず、発言できなかったのが実態である。
トランプ氏に同調するマルコ・ルビオ米国務長官は、5/21、「南アフリカが主催する今年のG20には、外務省レベルでも大統領レベルでも参加しないことを決定しました。」と表明し、南アが議長国を務める主要20カ国・地域G20にさえ出席できない、孤立化する事態を自ら招いてしまっている。
(生駒 敬)