【投稿】置き去りにされる安倍政権 アサート No.482 2018年1月
~日本抜きに進む東アジアの緊張緩和~
緊張激化と民主主義否定の5年間
昨年12月26日、政権発足5年を迎えた安倍は経団連の会合で「本年は私にとって騒がしい1年だった」と述べ、自らに対する批判をあたかも騒音であったかのように切り捨てた。森友、加計事件で窮地にたたされ、衆議院選挙の勝利も敵失の賜物であったことを忘れたかのような物言いである。
また安倍は12月に韓国の野党党首、外相が相次いで訪日した際、会談の場に於いて来客を低い椅子に座らせ優越感を示した。これはチャップリンの名作「独裁者」で「ヒンケル」が相手を低い椅子に座らせ見下すシーンそのものである。(外国では例えばプーチンが、クレムリンを訪れた仏国民戦線のルペンと会談した時は同じ椅子で対応した)
こうした傲岸不遜な対応は、御用芸人との会食は寸暇を惜しんでセットするにも関わらず、ICAN事務局長の表敬要請を拒絶するなど、この間益々増長している。
韓国からの平昌オリンピックの開会式への出席要請も、文政権による慰安婦問題日韓合意の見直しに立腹し、1月中旬現在で「国会日程」を理由に拒否しようとしており、山口や二階など与党幹部をも困惑させている。一方で自らの国会出席、答弁時間については党首討論と引き換えに大幅削減を目論んでおり、子供じみた対応と言うほかない。
年明けの1月4日には、伊勢神宮での年頭記者会見で「今年こそ憲法改正に向けた議論を深めていく」と表明、スケジュールありきではない、自民党内の議論に委ねると言いつつ、あくまでも改憲を目指す姿勢を示した。
今年9月の自民党総裁選への立候補については明言しなかったが、3選を既定方針として、2021年9月の総裁任期までの「改正憲法」施行を念頭に置いているのは明らかである。
安倍はこの5年の間に、経済優先と言いながら実際は日銀に丸投げし、断固実行したのは国民の反対を封じ込め、憲法の平和主義、民主主義を否定する戦争法や共謀罪を強引に成立させるという実質改憲である。この一環として12月15日には防衛大綱について、抜本的な見直しを進める考えを示した。
空洞化する「専守防衛」
防衛政策転換の先取りとして、19日の閣議でイージス・アショア2基の導入を決定、さらに22日に決定された2018年度予算案には、空中発射型巡航ミサイル導入に向け22億円の関連予算が計上された。これらを含む来年度軍事費全体は5兆2千億円と過去最高となり、ミサイル防衛関連費も累計2兆円を突破する。
巡航ミサイルはあたかも「北朝鮮のミサイル基地攻撃」に使われるような説明がなされているが、北朝鮮のミサイルはICBMも含めて移動式が主であり、いわゆる「ミサイル基地」は存在しない。
これまでのアメリカ、ロシアによる巡航ミサイル実戦使用例からすれば、標的は航空基地、兵站施設そして軍事中枢(首都)という固定目標である。湾岸戦争では約300発の巡航ミサイルが使用されたが、イラクの移動式弾道ミサイルを発見、破壊したのは特殊部隊、航空機であった。
また、再来年度からの超音速空対艦ミサイルの配備が決定し、F35戦闘機の追加取得の検討、さらには「いずも型護衛艦」の空母への改装案も飛び出した。
安倍は専守防衛については維持するとしているが、これまでは射程や航続距離などの兵器の性能でそれを担保していたのを、今後の導入予定の装備品ではそうした制約は撤廃されることになる。
「北朝鮮の脅威」は限界
安倍政権は、こうした軍拡を正当化するために「北朝鮮の脅威」を持ち出してきているが、そうした理由では説明がつかないところまで来ている。
イージス・アショアについては弾道弾防衛との弁明が国内的には通じるかもしれないが、ロシアはこれをアメリカのミサイル防衛システムに連動するものと見なしている。12月29日にはロシア外務省情報局長が懸念を表明、1月15日にはラブロフ外相が重ねて憂慮を示し、日露関係への悪影響を指摘した。中国は公式な反応を見せていないが同様の見解であろう。
1月10日ハワイのイージス・アショア訓練施設を視察した小野寺は、日本に導入した場合、今後巡航ミサイルへの対処も考えていく旨の発言を行った。これは最新型の弾道弾専用のミサイル「SM3」シリーズに加え、巡航ミサイルにも対応できる次世代型の「SM6」の配備を示唆したものである。
このミサイルは、アメリカで開発中の「海軍統合対空火器管制(NIFC-CAニフカ)システム」でも運用可能で、はるか遠方を飛ぶ早期警戒機の情報をもとに、イージスシステムのSPYレーダーの探査圏外の標的も迎撃が可能となる。
ところが、肝心の北朝鮮は巡航ミサイルを保有しておらず、その対象は必然的に中国、ロシアということになる。空中発射型巡航ミサイル、超音速対艦ミサイルも主要な攻撃対象は空母などの大型水上戦闘艦であり、(SM6も対艦攻撃が可能)これも中露を対象としたものに他ならない。ラブロフ外相が「イージス・アショアは攻撃も可能だ」と非難したのはこのためである。
「島嶼防衛」の本質
安倍政権はこれらを「島嶼防衛」の為と合理化しようとしているが、巡航ミサイルについては、過度な中国への刺激になりかねないと公明党が難色を示した。これに対し防衛省は巡航ミサイルの導入は「北朝鮮の脅威からイージス艦を守るもの」と説得したという(12/22毎日)。
しかしすでに海自は「イージス艦防御用」として「あきづき型護衛艦」4隻を約3千億円かけて配備しており、屋上屋を重ねるものであろう。
そして、そもそも北朝鮮は先述の巡航ミサイルはもちろん、日本海上のイージス艦を攻撃できる有効な装備を保有していないのであるから、防衛省の説明は詭弁である。今後これらの装備が取得されれば、東シナ海や南シナ海に於いて早期警戒機を運用し、F35Bからの巡航ミサイル、イージス艦からのSM6をもって遠距離から中国艦隊を攻撃するという構想が浮かびあがる。
「島嶼防衛」としては、超音速空対艦ミサイル、新型地対艦ミサイルの配備、開発が進められているが、これらを上回る遠距離交戦能力獲得の意図するものは明らかであろう。
中国海軍の増強は著しいものがあり、2020年代前半には空母2、駆逐艦約40の他、フリゲートなど水上戦闘艦約90隻を保有すると見積もられ、海自の護衛艦約50隻(「空母2」を含むとして)とは圧倒的戦力差となる。
安倍政権はアメリカに加え、英、豪を軍事同盟に巻き込もうとしているが、見通しは立っていない。そこでこの劣勢を各種ミサイル増強でカバーすることを目論み、南西諸島を含む「第1列島線」を槍衾とし、さらに海自艦隊の機動運用で実現しようとしているのである。
「黄海海戦」?
実際の部隊運用でも安倍は任務拡大を進めている。これまでは南シナ海を囲むフィリピンやベトナムに艦艇や航空機を派遣してきたが、昨年末からは「北朝鮮の密輸監視」をするとして、黄海に護衛艦や哨戒機を派遣していることが明らかになった。
日本政府はこの行動は国連決議に基づく措置であり、臨検などの実力行使はしないとしているが、この海域での監視は本来中国、韓国の役割であり、両国は信用できないと言っているのと同じである。さらに密輸船を発見した場合、米軍に連絡するとしているが、これは米海軍の露払い、呼び水であり一層中国を刺激するものとなる。
もっとも中国は同国船籍の商船が、北朝鮮船と禁輸製品の受け渡しを行ったことが明らかになっており苦しいものがあるが、海自としては黄海での活動を既成事実化することが狙いであろう。
安倍政権はこの間、「一帯一路」構想に賛同を示し、中国指導部の訪日を要請するなど表では友好ムードの演出に腐心してきたが、裏では耽々と刃を研いでいることが明らかとなり「偽装降伏」の化けの皮がはがれてきたのである。
こうしたなか1月11日、尖閣諸島の接続水域に中国海軍のフリゲート艦と原子力潜水艦が入った。安倍政権はこれを中国の一方的な挑発行為として大々的な批判を繰り広げたが、実は海自の黄海進出に対応した行動であった可能性が強くなった。
安倍の軽挙妄動で中国、韓国との関係が再び緊張し、日本での日中韓首脳会談、日中首脳の相互往来の実現は再び遠のいた。当の本人は東アジアの緊張緩和を脇に置き、1月12日からバルト3国および東欧3カ国の歴訪に出発した。
安倍は置き去り
安倍は先々で北朝鮮の脅威を吹聴したが、本当の理解は得られなかったであろう。バルト3国では「北朝鮮の脅威は、皆さんにとってのロシア以上です」と言えば分ってもらえたかも知れないが。
安倍が留守の間に、朝鮮半島をめぐる情勢は急展開を見せた。南北会談で北朝鮮の平昌オリンピック参加が決定し、米韓軍事演習も延期されることとなった。オリンピック開催まで予断を許さないが、こうした動きに安倍政権は蚊帳の外であるばかりか、国際社会が歓迎する中で一人不満を露わにしている。
カナダでの20か国外相会議で河野は「北朝鮮の微笑みに騙されてはいけない」と敵意をあらわにし、安倍は「対話のための対話は意味がない」と一つ覚えの様に繰り返すのみである。過日中国に対し「前提条件なしでの対話を」と「対話のための対話」を呼びかけていたのは誰であったのか。
安倍は核放棄まで圧力を高めると言っているが、肝心のアメリカ軍の練度は低下が著しい。昨年民間船との衝突事故を起こしたイージス駆逐艦艦長2人は、軍法会議にかけられることとなった。沖縄では米軍ヘリの事故が相次いでおり、日本政府も苦言を呈せざるを得なくなっている。
トランプ政権は国家防衛戦略でロシア、中国を現状変更を試みる修正主義と非難、イラン、北朝鮮は「ならずもの国家」とし軍拡を表明しているが、これらとの軍事的対峙、多方面作戦は不可能であり、個々への対応は中途半端なものになるだろう。
安倍政権としては対中東、ロシア政策では微妙な立ち位置で動くに動けない中、東アジアでは完全に置き去りにされている。通常国会で野党6党は可能な限り協調し、新たに浮上した「スパコン疑惑」を含め、安倍政権の矛盾を追及すべきであろう。(大阪O)
【出典】 アサート No.482 2018年1月