【投稿】16年夏・参院選をめぐって 統一戦線論(19) 

【投稿】16年夏・参院選をめぐって 統一戦線論(19) 

<<なりふりかまわず>>
 安倍政権はいよいよ来年7月の参議院選挙、あわよくば衆参ダブル選挙、そして憲法改悪をも射程に入れた政策展開、予算対策、野党切り崩し、政治的策動にしゃにむに突き進みだしている。
 この間の安倍政権の一連の動きは、政策の整合性や一貫性などはどうでもよい、たとえその場しのぎであっても、直面する選挙対策に役立てば、乗り切りさえすればそれで結構、そんな姿勢がむきだしである。
 消費税引き上げ時の軽減税率はその典型といえよう。自民党税調、財務省、麻生副総理、谷垣幹事長らの抑制案、抵抗姿勢、党内の不満を排して、最後は首相・官邸側が公明党、創価学会の選挙協力を優先して、「軽減税率」で妥協、押し切った。対象品目をめぐる押し問答は、公明党の「手柄」を“演出”する茶番劇であった。しかし、その「財源」を確保するためとして、「4000億円の低所得者対策」をとりやめるという。さらに「子育て世帯臨時特例給付金」についても、財源捻出のため来年度から廃止する方針を決めた。子育て給付金は中学生までの子供約1600万人を対象として、2014年度は1人1万円、15年度は1人3000円を支給していた。これまで廃止してなにが「新3本の矢」だ。財源が足りないというなら、緊張激化政策をやめ、軍拡をストップし、危険極まりないオスプレイ購入をやめ、米軍への思いやり予算を減額するのが最善であり、これこそが究極の選挙対策と言えよう。
 いったい何のための「軽減税率」なのか。たとえ「軽減税率」を実施したとしても、10%への増税は4兆円を超える大増税であり、1家族あたり年4万円以上の負担増を強いる。空前の利益を計上する大企業・独占資本には減税を度重ね、庶民にはさらなる負担を強いる。そもそも景気回復・成長政策を唱えるならば、10%増税は取りやめるべきであり、それこそが最大の選挙対策となりうるものをみすみす逃したのである。あえてそこまでしたのは、単純に公明・創価学会の面子を配慮した取り込み策であり、彼らを手玉に乗せ、改憲を含むもろもろの裏取引をした結果なのであろう。
 さらに補正予算案は、その場限りの継続性のない、まるで選挙対策そのものである。「1億総活躍」の目玉政策として、年金額が少ない高齢者に1人あたり3万円、総額3300億円。TPPへの農林漁業者の不満や怒りを抑えるために、農水省所管の約4千億円の4分の3強、3千億円余りをTPP関連対策と「農業農村整備事業」へ。自民党内からでさえ、「バラマキのイメージが先行してしまう」と、疑問が噴き出すしろものである。「後は野となれ山となれ」である。
 あげくの果てが、沖縄選挙対策。「『宜野湾にディズニーリゾート誘致って? 選挙前の話くわっちーさー』(那覇市・もうだまされない)。普天間と牧港補給地区の一部先行返還の日米発表を、翁長雄志知事が「話くわっちー」、つまり話だけで何もないと批判した発言を念頭に、テーマパーク誘致も似たようなものだ、と。実体はテーマパーク関連のホテル建設だという。運営会社は「事実はない」と否定。政府は誘致支援を打ち出したが、一民間企業の事業に政府が口を出していいのか。」「選挙を意識した露骨な政策があまりにも多すぎる」(沖縄タイムス 12/13)。同紙の指摘の通りである。

<<安倍の別働隊「おおさか維新」>>
 しかしその一方で、安倍政権は2016年度予算案の防衛費を5兆5000億円超とする方針を固めている。防衛費の増額は第2次安倍政権になって4年連続、5兆円を突破するのは史上初の事態である。自らが仕込んだ対中国軍事的緊張激化の軍拡、オスプレイの購入や、辺野古新基地建設工事の本格化、米軍への思いやり予算など、安倍政権の軍事化が着々と推し進められている。
 そして改憲への目論見である。安倍首相は12/19、橋下徹・前大阪市長と東京都内のホテルで約3時間半会談、菅義偉官房長官、「おおさか維新の会」代表の松井・大阪府知事も同席、憲法改正など政策面の連携や来年の通常国会での協力について意見交換をしている。橋下氏は12/12「おおさか維新の会」の臨時党大会、その後の懇親会で「憲法改正の最大のチャンスがやってきた。参院選が勝負。」「参院選では自民、公明、おおさか維新で3分の2の議席を目指そう」と述べ、さらに大阪選挙区(改選数4)について「3人を取るくらいのことをしないと大阪の本気度は全国に伝わらない」と述べ、複数擁立までぶち上げ、松井氏も大会後の記者会見で「憲法改正は党の大きな考え方の一つだ。改正に必要な3分の2勢力に入る」と明言している。現在衆院(定数475)は、与党だけで326議席と3分の2(317議席)を超えているが、参院(定数242)は、与党の133議席におおさか維新(6議席)を加えても、3分の2(162議席)に達していない。
 安倍政権にとっては、裏で橋下氏らを支援してきた大阪ダブル選以来の目論見どおりの展開である。「おおさか維新」が民主党など野党の支持層を奪い、「参院選で十数議席は取る」と官邸側は期待する。おおさか維新の実質与党入りで、公明を天秤にかけ、さらに改憲でも同調させる効果も期待できる。
 さらに橋下氏に媚びを売る民主党・前原氏らを利用、民主党を分解させ、野党連合に楔を打ち込み、野党候補一本化の動きを阻止する効果も期待できる。「おおさか維新」は、安倍政権のあくどい画策を実行する別働隊となったといえよう。

<<統一候補擁立へ連携 「市民連合」>>
 しかし、これらはあくまでも安倍政権の虫のよい策謀、一方的な期待でしかないし、それはチャンスは今しかないという焦りの表れでもある。
 こうした動きに対し、橋下氏とたもとを分かった維新の党の江田憲司前代表は12/19、「大阪の皆さんは大阪都構想とかリニアモーターカー、カジノ誘致のため、大手を振って安倍官邸と協力し、与党化の道を進んでいっていただきたい。我々は自民党のライバル政党づくりに邁進していく」と皮肉っている。
 さらに 民主党の岡田代表も12/14、「戦後の平和主義が変わるかどうかの分岐点だ。結果次第では憲法改正までいってしまう」と強調し、参院選について、与党やおおさか維新など9条改憲をめざす勢力を、改正発議に必要な3分の2未満に抑えることが「第一目標」と明言、民主公認に加え、無所属の野党統一候補も積極支援する方針を明確にしている。同党の枝野幹事長も12/15、おおさか維新の会が来年夏の参院選に全国規模で候補者を擁立することを「邪魔」と断じ、「奈良、滋賀、三重に(候補者を)立てても邪魔するだけの選挙区に立てる政党は野党じゃない」と述べ、「1人区では一番勝てそうな候補以外は降りる。それがまさに安倍政治と戦うということだ」と述べている。
 そして12/15、熊本で初の野党統一候補が具体化している。民主、共産、維新、社民、新社会の5党の各県組織が、熊本市内で会合を開き、戦争法(安保法制)に反対する県内の市民グループ50団体でつくる「戦争させない・9条壊すな!くまもとネット」からの野党統一候補の擁立を求める要望を受けて、来夏の参院選熊本選挙区で無所属の統一候補を擁立することを確認、来夏の参院選熊本選挙区(改選定数1)に野党統一候補を擁立する方針を決めた。「くまもとネット」の要望する、▽集団的自衛権行使容認の「閣議決定の撤回」▽先の国会で採決された「11の安全保障関連法の廃止」▽日本の政治に「立憲主義と民主主義をとりもどす」―の3点で一致する候補を擁立する、として県弁護士会所属の女性弁護士を無所属で擁立することを前提に、すでに公認候補を発表済みの共産党は擁立を取り下げる。同選挙区では、自民党が現職の松村氏の擁立をすでに決めている。
 参院選の帰趨は地方の一人区の勝敗が決めると言っても過言ではない。全国32の1人区のうち、民主が公認候補を立てたのは9選挙区だけ。野党統一候補を擁立できる余地は、十分に残っており、むしろこれからが勝負である。「10増10減」で統合される鳥取・島根選挙区では、民主・社民の両県連などが無所属候補の支援組織を結成し、元消費者庁長官の福島浩彦氏に出馬を求めている。こうした地方発の野党共闘は鹿児島、石川、新潟、三重や岐阜の各選挙区でも動きだしている。複数区でも選挙協力が拡大されるべきであろう。
 12/9、こうした動きを下から強力に支え、推進し、統一候補擁立へ連携するための、安全保障関連法に反対する学生・市民団体と野党の意見交換会が、国会内で開かれ、民主、共産、維新、社民の各党と、「立憲デモクラシーの会」「安全保障関連法に反対する学者の会」「安保関連法に反対するママの会」「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、シールズ)」「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の各団体が出席、来年夏の参院選の改選一人区などで非自民系統一候補の擁立を促し、支援する枠組みとして「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の設立を表明、12/20に正式結成された市民連合は、野党に参院選1人区での候補絞り込みを求め、安保法廃止などを公約とする協定を候補と結ぶ方針であり、参院選で野党による過半数議席の獲得を目指すほか、来年4月に実施される衆院北海道5区補欠選挙でも、安保法に反対する野党候補を応援する、としている。これについて、民主党の枝野幹事長は「幅広い市民に応援していただける候補を立てる動きを、さらに加速していきたい」と歓迎。共産党の山下書記局長も「安保法廃止に向けた協働が、強固なものとして進むステップになった」と述べている。市民連合が、統一候補擁立への重要な結節点、結集軸となる可能性が高まったといえよう。
 安倍政権に対する支持は、安保法制強行採決後の一転した経済政策への転換によって、ある程度回復しているものの、不安定極まりないものである。消費税増税政策は彼らの致命的弱点でもある。そしてなによりも安保法制廃止に向けた裾野の広い、広範な闘いがその後も粘り強く展開され、拡大している。しかも、原発再稼働、アベノミクス、「一億層活躍社会」の功罪などに関して、多くの有権者は安倍政権の推し進める路線に反対していることが、各種世論調査で示されている。
 安倍政権を退陣させる政策的な要、決定的な対立軸は、野党側の幅広い強固な統一戦線であり、「安保法制の廃止と立憲主義の回復」を、緊張激化・軍拡経済から善隣友好・平和経済への転換といかに結びつけ、力強く押し出せるか、にかかっているといえよう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

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