【投稿】「イスラム国」(IS)とは何か

【投稿】「イスラム国」(IS)とは何か
                       福井 杉本達也 

1 CUI BONO(得をするのは誰か)
「イスラム国」(Islamic State in Iraq and the Levant=ISIL 又はIslamic State =IS以下ISと略)とは何か。池上彰は「パリから日本を思う」と題して、「フランスで生まれ育ったのに、貧しい生活で十分な教育が受けられず、仕事が得られない。…そんな若者たちが『聖戦』を呼びかける宣伝に惹(ひ)かれ『死に場所を見つけたと』思い込む。こんな負の連鎖を断ち切らないと」(日経:2015.12.7)と書いている。これが日本の多くの知識人・マスコミの論調であるが果たしてそうなのか。 物理化学者で現在カナダ在住の藤永茂アルバータ大学理学部名誉教授(著書に『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』(朝日選書 1996年)等)はブログ『私の闇の奥』で「米国の支配権力にその気があれば、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルにIS扼殺の意向を伝えれば済むことです。ISを絞め殺すことが不可能な理由は、米国がそうしないから、そうする気がないからであって、ISが石油を掌握しているとか、シリアの市民に重税を課しているからではありません。しかし、本当の問題は、パリの虐殺の現場を花と蝋燭の灯りで満たしているパリの大衆たちが、誰を本当の悪と考えているか、CUI BONO(得をするのは誰か)の問いを、マスメディアの洗脳に抗って、正しく厳しく投げかけているか、にあります。」と書いている。

2 中東の混乱は欧米に責任
 日経はFinancial Timesを買収して少しは記事が変わったのであろうか。ジェフェリー・サックス米コロンビア大学教授(皇太子妃雅子のハーバード大学の指導教官であり、ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』においては、エリツィン時代のロシア経済を粗暴な市場経済に投げ込んだ張本人として批判されている)は『中東の混乱、欧米の責任』という記事の中で「1979年以降、米中央情報局(CIA)は旧ソ連をアフガニスタンから追放するため多国籍のイスラム教スンニ派戦闘部隊「ムジャヒディン」(イスラム聖戦士)を組織した。この戦闘部隊とそのイデオロギーが、今でもISを含むスンニ派の過激派武装勢力の基盤になっている。」とし、「まず、オバマ米大統領はCIAの秘密作戦を打ち切るべきだ。CIAに起因する混乱に終止符を打つことが、テロを増幅している今の不安定、暴力、欧米に対する憎悪に歯止めをかけるために有効だろう。」(日経:2015.12.7 原文Ending Blowback Terrorism 2015.11.19)と述べている。ここまでISの正体と米国との関係を暴露した記事が日本の商業紙に掲載されるのは初めてである。無論、サックスは左派の経済学者ではなく、いわゆる「主流派」経済学者である。

3 ISはいつ現れたのか
 ISが発足したのは2013年4月といわれるが、急激に勢力を拡大したのは2014年6月のイラク・モスル占領前後からである。イラク軍はモスルに約3万人を配備していた。しかもイラク軍には大量のタンクや戦闘機、軍用車両、さらには米軍やイランから提供された武器・弾薬があったが、その全てがISの手に落ちた。イラク軍の将軍の一部がISに通じていたといわれる。結果、米軍の指示に従わなかったマリキ首相は政権から追い落とされたのである。その後、約1年半にわたって米国を中心とする「有志連合」はシリア政府の抗議を無視してシリア領内で空爆を繰り返し、特殊部隊も潜入させている。ISを攻撃することが目的だとしているが、その間、ISは勢力を拡大してきた。何百回となく空爆を行い、地上10㎝の物体も識別できる能力のある偵察衛星や偵察機による偵察も行ったが、ISの基地や軍用車のかけらも発見できなかったのであろうか。「テロとの戦争」は失敗しているが、その本来の目的はアサド政権転覆とシリアの破壊・シリア民衆の殺戮である。その意味で米軍産複合体の目的は達成されつつあった。

4 トルコによるISの石油密売とロシア軍機の撃墜
 11月24日、トルコによりISを空爆していたロシア空軍機が撃墜された。トルコが公開したロシア軍機の飛行経路を見たとしても、ロシア軍機の領空侵犯はわずか数秒に過ぎない。数秒の侵犯の航空機を撃墜するには、あらかじめ飛行経路が分かっており、待ち構えていなければならない。ロシア軍はあらかじめ飛行経路を米軍に伝え、米軍との衝突を避けようとしていたのであるが、この情報をトルコに伝えたのである。米軍の指示なしに、エルドアン政権がロシア軍機を撃墜することはありえない。なぜ、トルコはロシア軍機を撃墜したのか。答えは、12月2日発表の『Russian military reveals new details of ISIS funding(ロシア軍部がISISの資金調達の新しい詳細を明らかにする)』にある。
 https://www.rt.com/news/324252-russian-military-news-briefing/ 「ISの大型石油輸送トラックの大集団がシリアの油田とイラクの油田から盗みとった石油をトルコ内へ運び込む有様が詳細明瞭な動画像、静止画像で示され、画面上を動くポインターで適切な説明が行われます。具体的な数字としては、32の精油コンビナート、11の精油工場、23の石油輸送基地、1080台の石油タンカートラックがロシア空軍機によって破壊されたと報告されています。巨大な石油タンカートラックの大集団が蝟集し、蠢き、長蛇の列をなして、シリア、イラクからトルコ国内に流れ込み、逆方向に、武器や物資を運ぶと思われるトラックの大行列を見る」ことができる。「シリアとイラクから石油を泥棒して軍資金を調達し、その金で世界中の死の商人からたんまりと武器弾薬を購入し、世界中の若者たちを駆り集めて洗脳し、アサド政権打倒の米欧地上軍の代理傭兵軍隊としてアサド政権の打倒を目指す。この独立採算システム」(藤永茂『私の闇の奥』2015.12.9)こそISと呼ばれているものの正体であり、エルドアン政権にとってロシア軍機による空爆は実に都合の悪いものだったのである。

5 ケリー米国務長官のモスクワ訪問と今後の展開
 ロシアにより具体的証拠を突き付けられたことで、米財務省高官のアダム・ズービンはロンドンで、「石油の『いくらかの量は国境を越えてトルコにも入っている』と語り、ISへの資金流入を止めるため、トルコに対して国境管理を徹底するよう求めた。また、ISは石油の闇取引によって、これまでに少なくとも5億ドルを手にしたほか、シリアやイラクの支配地域にある銀行から最大で10億ドルを略奪したと説明した。」(日経:2015.12.12)。として、渋々ながらISを通じて石油がトルコに入っていることを認めざるを得なくなった。12月15日、ケリー国務長官はモスクワを訪問し、ラブロフ外相・ショイグ国防相と会談し、プーチン大統領とも会談した。ケリー国務長官は、会談後、「我々は、シリアのことを基本的には極めて近い見方をしており、同じ結果を望んでいる。アメリカは、ロシアと協力する用意がある。ロシアとアメリカ合州国は、シリア国内の戦闘も鎮めない限りは、ダーイシュ(ISIL)を打ち負かせないことに同意した。シリアの将来については、シリア国民が決める。政策として、ロシアを孤立化させようとは思っていない。」とし、アサド政権打倒の方針を変更することを明らかにした。米国もついに条件付きながらアサド政権の存続を容認したといえる。政権を支援し、シリア政府軍にISを駆逐させ、欧米ロの援助により戦乱でズタズタとなったシリアを復興させ難民が戻れるようにする以外に、現実的な解決策はない。しかし、この解決策は米軍産複合体の望む方向ではない。

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

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