【投稿】高浜原発再稼働の動きと使用済み核燃料の「中間貯蔵」
福井 杉本達也
1 高浜原発再稼働にあたっての地元同意に福井県の5条件
10月15日、九州電力川内原発2号機も再稼働した。また、10月末には四国電力伊方原発3号機について林愛媛県知事も再稼働の地元同意をする見通しとなってきた。
先行する2原発に対し、福井県の関西電力高浜3・4号機の再稼働は遅れている。高浜原発の再稼働にあたっては、運転差し止めを命じた福井地裁での異議審で決定が覆えらない限り不可能であるが、もう一点、福井県は再稼働の地元同意にあたって5項目の条件を掲げている。①原発の重要性に対する国民理解の促進、②使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外立地に右向けた国の積極的な関与、③電源構成比率の明確化、④事故制圧体制の強化、⑤立地地域の経済・雇用対策の充実であるが、③については、資源エネルギー調査会で結論が出た(原発比率20~22%)、④も規制委の新規制基準でクリアしたとしており、⑤も北陸新幹線の敦賀駅までの延伸のめどがついたと評価している。政府は10月6日に②について、使用済み核燃料の「乾式貯蔵」(使用済み核燃料を巨大な金属やコンクリートなどの円筒容器に入れて水冷ではなく空冷により貯蔵するという方法)の増加を目指すとともに、受け入れる自治体には交付金を交付するとした。福井県はこの国の姿勢を一定評価するとしており、再稼働同意に向けてそろりと動き出した(福井:2015.10.7)。
2 立地地域が核の「最終処分場化」されることへの福井県の懸念
使用済み核燃料のプールでの「湿式貯蔵」は非常に危険なものである。福島第一3号機プールは全電源喪失により熱交換ができずプールの水が蒸発し使用済み核燃料の上部がむき出しとなり水蒸気爆発を引き起こした。大量の使用済み核燃料を保管していた4号機プールも危険な状態に陥った。使用済み燃料プールは蓋のない原子炉のようなものである。しかし、西川福井県知事は「湿式貯蔵」の危険性をほとんど理解していないのか、使用済み核燃料の「中間貯蔵」は県外に設置すべきとの持論である。福井県は原子力による発電は認めるが、核廃棄物は県外にということである。使用済み核燃料が立地地域になし崩し的に「永久貯蔵」され「最終処分場」とされることへの懸念でもある。広瀬隆の『東京に原発を!』を多少ねじ曲げ『東京に放射性廃棄物最終処分場を!』という論理でもある。しかも、この意見は一人知事の意見ではなく、原子力発電に反対する福井県民会議の事務局長でもあった故小木曽美和子氏を含めた、福井県の推進・脱原発派の “大枠の合意”でもある(福井:2014.6.23コラム「越山若水」:2015.3.23)。しかし、3.11以前ならまだしも、3号機プールの水蒸気爆発を経験した後では、いかなる地域でも「湿式貯蔵」の引き受け手などあるはずはない。唯一、再処理するというストーリーで引き受けてきた六ヶ所村の施設も満杯である。ここに西川知事が伊藤鹿児島県知事や中村愛媛県知事のように“軽く”再稼働に同意できない背景がある。今回、県の同意のハードルを低くしようと国が持ち出してきたのが「乾式貯蔵」と立地自治体への交付金である。
3 「乾式貯蔵」の選択による核燃料サイクルの中止を
日本は、使用済み核燃料は全て六ヶ所村の再処理工場で再処理する方針の一方で、「利用目的のないプルトニウムを持たない」ことを国際公約としている。この再処理したプルトニウムを高速増殖炉もんじゅで使用するとしてきたが、もんじゅは止まったままであり、保安規定違反を原子力規制委から指摘されており、再稼働の見込みは全く立たない。日本がため込んだプルトニウムは2014年末で47.8トンもあり、核兵器の量にすると6,000発分にも相当する。来日したホルドレン米大統領補佐官からも「プルトニウムの備蓄がこれ以上増えないことが望ましい」とくぎを刺されている(朝日:2015.10.12)。このため、付け焼刃的にこのプルトニウムを少しでも減らそうと普通の原発(軽水炉)で燃やす「プルサーマル計画」(通常のウラン燃料にMOX燃料(二酸化プルトニウム(PuO2)と二酸化ウラン(UO2)とを混ぜた)を加えて)を立てている。関電は再稼働予定の高浜3,4号炉にもMOX燃料を装荷するとしている。
「乾式貯蔵」を原発敷地内に限るならば、「核燃料貯蔵プールの容量オーバー」→「原発敷地外への移送」(「県外への移送」)→「六ヶ所村での再処理」→「プルトニウムの蓄積」という圧力を止めることが可能となる。しかも、「湿式貯蔵」というあまりにも危険性の高い状態を改善することにつながる。もちろん、東電と日本原電が青森県むつ市で建設中の六ヶ所村での再処理を前提とした「乾式貯蔵」方式をとる大規模「中間貯蔵」(リサイクル燃料貯蔵株式会社)の構想は論外ではある。
「乾式貯蔵」の利点を整理するならば、①使用済み燃料の貯蔵方法として―これまでの水冷による燃料プールでの貯蔵での、燃料集合体を非常に稠密に詰め込み、炉心のような状態になっており核分裂連鎖反応(臨界)の危険性があり、壊滅的な事故を生じる恐れを減らすことができる。②再処理における事故の危険性を少なくできる。特に高レベル放射性廃液は崩壊熱により高温化する恐れがあり、絶えず冷却し続ける必要があり爆発の危険が高い。最短で12時間で沸騰すると言われる。また、ガラス固化も容易ではない。③核兵器に利用可能なプルトニウムをこれ以上増やさないことができる(参考:フランク・フォンヒッペル「増殖炉開発・再処理から『乾式貯蔵』に進む世界」『世界』2012.8)。そして④「核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘をうけないように配慮する」(「わが国の外交政策大綱」1969年9月25日)という、わが国官僚機構に根強く巣食う独自核武装の考え方も最終的に放棄させることが可能となる。
さらには、実施段階を逆戻りさせる「可逆性」を技術的に確保することができる。使用済み核燃料の「全量再処理」及び放射性廃棄物の不可逆的深地層処分という既存路線ではなく、すなわち技術的選択肢として、放射性廃棄物の「処分」と「貯蔵」とに明確に区分せず、「モニタリング付き地層処分」「可逆可能地下貯蔵」「超長期中間貯蔵」といった、「段階的方式」「可逆性」「回収可能性」という政策決定プロセスの柔軟性が生まれる(勝田忠広・尾内隆之「使用済核燃料問題に『乾式中間貯蔵』による転回を」『科学』2009.11)。
4 日本の核政策を左右する高浜原発の地元同意
10月16日、福井県は同意への地ならしとして高浜原発において行政・電力事業者等関係者のみの参加による防災訓練を行った。IAEAは3.11以前から原子力緊急事態における防護対策として、「『緊急防護対策』は、有効であるためには速やかに(通常は数時間以内に)講じられなければならない対策である。原子力緊急事態における最も一般的な緊急防護対策は、避難、屋内退避、ヨウ素剤による甲状腺ブロック、汚染されている可能性のある食品の摂取制限及び個人の除染である」とし、このため、「(14)訓練、実地訓練及び演習を計画し、実施する」ことを要求している(「東京電力福島第一原子力発電所事故最終報告書」)。今回の訓練には住民が参加しておらず、国際的要件を満たすものではない。川内2号機の再稼働を認めた鹿児島県の伊藤知事は九月県議会で、「(福島第一原発事故より)放射性物質の放出は低く抑えられ、避難する事態は発生しない」(中日:2015.10.16)と答弁したが、訓練どころか「深層防護」の概念を全く理解しない住民切り捨てのとんでもない考えである。
高浜原発の再稼働には上記のような様々な問題が絡み合っている。もちろん11月13日にも福井地裁で審理される差し止め処分の異議審も絡んでいる。福井県内の脱原発派においても元美浜町議の松下照幸氏などは使用済み核燃料の中間貯蔵施設の町内受け入れを提言している。建設から40年を超える原発を多数抱え廃炉が避けられないが、再処理が物理的にも行き詰っている中、そこに保管された使用済み核燃料を他県に搬出するというのは論理的に考えても、倫理的に考えても不可能である。福井県において住民の安全を確保するには原発敷地内における「乾式貯蔵」は避けて通れない。西川知事は民主党:野田政権時代の2012年には北陸新幹線敦賀延伸確約と引き換えに全く安全対策の取られていない大飯原発3,4号機の再稼働を認めた前歴があるだけに無原則な妥協もありうるが、今回は電力の需給が逼迫しているというプロパガンダを使えないことや北陸新幹線の敦賀以西のルートを決めるには、原発から5キロあるいは30キロ圏内にかかる京都・滋賀の意向を全く無視することもできないという事情もある。県の地元同意は知事本人の意思とは無関係に今後の日本の核政策を左右する要素を含んでいる。
【出典】 アサート No.455 2015年10月24日