【投稿】大敗北の安倍外交 政権の失策追及する取り組みを
<国連で存在感無し>
9月下旬、国連総会に合わせ主要国首脳は精力的な外交活動を繰り広げた。25日の米中首脳会談は、南シナ海問題では平行線で終わったものの、サイバー攻撃に関しては、これを禁止することで両国は合意し、今後年2回、同問題に係わる閣僚級会議を開くことでも確認された。
さらに、南シナ海空域での両軍の偶発的衝突を回避するための行動規範策定や、地球温暖化対策、人民元の為替操作など経済問題でも米中の協力が確認された。
28日には米露首脳会談が行われ、シリア情勢、ウクライナ問題等について突っ込んだ協議が行われた。このなかでオバマ大統領はロシア軍のIS攻撃には反対しないことを表明、これを受けてプーチン大統領は、即刻ISを含む反アサド勢力への空爆を開始した。
米露中の首脳が存在感を示す中、意気込んでニューヨークに乗り込んだ安倍は完全に埋没した。オバマとは話もできずバイデン副大統領と会うのが精いっぱいだった。NHKなどマスコミは「大統領選挙に出馬が期待されているバイデン氏」などと、箔をつけるのに苦心していたが格落ちは明らかであろう。来年の大統領選挙を意識したのなら、ヒラリー・クリントンにも会えばよかったのではないか。
29日午前(日本時間)には日露首脳会談が行われた。遅刻した安倍は小走りにプーチンに駆け寄り握手を求めた。その卑屈な姿勢は、国内、とりわけ国会における傲慢さと全くかけ離れたものであり、相手によって態度を変える賤しい姿勢があからさまになった。
安倍、プーチン会談は第2次安倍政権発足以降、8回にもなるが毎回話し合いを継続することが確認されるだけであった。今回も同様で具体的成果は無かったどころか、これまで「年内」と明言されてきたプーチンの訪日について、「ベストなタイミング」と曖昧な表現に変わり、年内訪日は事実上断念された。
その日の午後、国連総会での一般討論に臨んだ安倍は、空席が目立つ議場に向かって、拳を振り上げながら積極的平和主義と安保理改革をアピールした。
安保理改革については、NY入り直後の26日、常任理事国入りを目指す独、伯、印首脳との共同会見というパフォーマンスを演出したが、支持率一桁のルセフ伯大統領、難民支援とVW社の排ガス不正の直撃を受けているメルケル独首相は、気もそぞろであり迫力のかけるものとなった。
そのシリア難民支援に関しては、国際社会が最も注目しているところであるが、安倍は国連演説で「難民を生み出す土壌を変えるために貢献したい」と一般論を述べ、財政支援として昨年比3倍の8.1億ドルの拠出と難民通過国への追加支援を表明するにとどまった。
現実問題として、日本が大量のシリア難民を受け入れることは不可能ではあるが、難民認定基準を排除の方向へ改悪したばかりの日本の首相の言説は空虚に響くばかりであった。
問題なのは安倍の認識である。安倍は「日本は難民を受け入れるのか」との海外メディアの質問に「難民を受け入れる前に女性、高齢者を活用し、出生率を上げることだ」と難民と移民を混同し「一億総活躍社会」に牽強付会するという頓珍漢な回答を行った。
これ以前に政府はシリア難民のうち、若者や有技能者の受け入れを検討中と伝えられたが、これも外国人を労働者と観光客としか見ていない安倍政権の限界を示すものであろう。
<アジアでも地歩後退>
こうしたなか、これまでの安倍外交の無意味さを象徴するかのような出来事が連続した。9月29日インドネシアは建設予定の高速鉄道について、中国方式を採用することを決定し、日本の新幹線方式は脱落した。
同高速鉄道計画は、8月に計画そのものを白紙に戻すこととなったが、一転して建設が決定した。ジョコ大統領はこの3月に来日し安倍と会談、4月にもパンドン会議の際にジャカルタで会談するなど、「親密な友好関係」を築き上げてきたはずであったのが、この有様である。
高速鉄道を巡っては、ロスアンゼルス―ラスベガス間での中国方式採用を目指した米中合弁企業が先の習近平訪米直前に設立されており、安倍政権にとっては手痛い連敗となった。
インドネシア政府の決定を同国担当閣僚から伝えられた菅官房長官は「日本は最良の提案をしてきた」「極めて遺憾だと大統領に伝えてほしい」と苦情を申し立てるなど、友好国の大臣に対して異例の対応を行った。
その後の記者会見でも菅は「(資金計画は)常識的には考えられない」「うまくいくかどうか極めて厳しい」とやり場のない怒りをぶちまけたが、負け惜しみにしか聞こえなかった。
追い打ちをかけるように、10月10日ユネスコは世界記憶遺産として「南京大虐殺」関連資料の登録を決定した。日本政府はこれを「ユネスコの政治利用」だとして抗議を行った。政府・自民党内からも不満が噴出し、ユネスコへの分担金停止や脱退という極論が飛び出している。
国連安保理の常任理事国入りを目指す国が、国連機関の決定に不満だからと言って、恫喝や脱退をチラつかせるのは支離滅裂としか言いようがない。安倍は、首脳会談調整のため来日した中国の楊潔チ(よう・けつち)国務委員に直接苦言を呈するなど、動揺を隠せないでいる。
さらに今回、記憶遺産にはシベリア抑留者に関する資料も登録されたが、これに関してロシアから早速「政治利用である」とのクレームがついた。安倍政権の大ブーメランであり、「歴史戦」の敗北は明らかである。
今後、今回は認定されなかった従軍慰安婦関連資料の登録も現実味を帯びてきており、10月末以降、日中韓首脳会談や日中、日韓首脳会談が実現すれば安倍は苦しい立場に追い込まれるだろう。
<軍拡で対抗の愚>
この様な地歩後退を安倍は軍事活動拡大と緊張激化で挽回しようとしている。9月30日戦争法案が公布され、半年以内に施行されることが決定した。焦点の一つであった「駆けつけ警護」に関しては、来春から南スーダンでの発令をめざし準備が進められようとしている。
この「駆けつけ警護」の危険性を端的に示す事件がアフガニスタンで発生した。10月3日、同国北部のクンドゥズ市で「国境なき医師団」が運営する病院が、米軍機の攻撃を受け多数の犠牲者が出た。
同市でタリバンと交戦中のアフガン政府軍から支援要請を受けた米軍攻撃機が「駆けつけ」たものの、目標が誤って伝えられたために発生した悲劇である。
原因は情報が、アフガン軍→米軍特殊部隊→攻撃機と伝わる中で誤ったと考えられるが、多国籍の部隊が展開する戦場ではいつでも起こりうる問題である。
オバマ政権はアフガンからの戦闘部隊の完全撤退を断念し、当面駐留を続けることを決定したが、これにより自衛隊の派兵可能性が浮上することも考えられる。
安倍政権は、戦場の危険性に関して自衛隊のリスクさえ高まらないとしており、民間人を犠牲にする可能性など顧みずに、権益確保のための活動を推し進めようとするであろう。
10月14日、インド東方海上で米、日、印3か国による「マラバール演習」が開始された。1992年に始まった同演習は米、印2国間演習を基本とするものであったが、近年日本は積極的に関与し、海上自衛隊は2年連続4回目の参加となった。
日本の参加により演習の性格は、より中国を意識したものとなり、アジア地域の緊張を高めるのに一役を買っている。この演習さなかの10月18日には東京湾で海自観艦式が開催され、安倍は護衛艦艦上で訓示を行った。
安倍は「自衛隊は心無い多くの批判にさらされてきた」と平和を願う国民の声を誹謗、さらに「積極的平和主義で世界に貢献」することを表明し「日本を取り巻く環境は厳しくなっている」と暗に中国を牽制した。
そして「一国のみでは平和を維持できない」と集団的自衛権を解禁した戦争関連法を正当化した。このあと安倍は日本の総理としては初めて米空母を訪れ、日米同盟の強固さをアピールし、対中軍拡を一層進めようとしている。
10月19日からは陸上自衛隊が九州・沖縄地域で西部方面隊基幹の実動演習を、隊員1万5000人、車両3500両、航空機75機などの動員で実施している。これは「対着上陸訓練」など中国の侵攻を想定したものであり極めて挑発的なものである。
中国が、経済・文化で存在力を発揮するのに対し、軍事力で対抗しようというのは、戦わずして負けているのと同様である。
<海外逃亡図る安倍>
相次ぐ外交的失策と裏腹の軍事力強化の下で内政はないがしろにされている。TPP交渉の大筋合意直後の10月7日、第三次安倍改造内閣が発足した。
これに先立ち安倍は9月24日、次期内閣は「経済最優先」として「強い経済=GDP600兆円」「子育て支援=出生率1,8人」「安心の社会保障=介護離職ゼロ」という「新三本の矢」政策を進め、「進め一億火の玉だ」を彷彿とさせる「一億総活躍社会」を目指すことを表明した。
しかし新三本の矢を実現するための具体策は示されず、「一億総活躍社会」に至っては、加藤担当相自身が「これから何をするか考える」などと述べるという無内容ぶりである。
今後、自民党内から「ニートや引きこもりは自衛隊で鍛えなおせ」「生活保護受給を抑制せよ」という声が出てくるだろう。
本来なら戦争関連法の問題点、TPP合意内容の検証と今後の交渉、そして「新三本の矢」の現実性等々の重要案件を審議する臨時国会を直ちに開催しなければならないはずである。
しかし、政府与党は「総理の海外出張が立て込んでいる」という理由にならない理由で、臨時国会の開催を拒否している。まったく成果が見込めないどころか、恥と緊張をばらまきに行くだけの外遊は文字通り海外逃亡であろう。
野党はこのような安倍政権の横暴を許してはならない。そして共産―民主―維新(非橋下)のブリッヂ共闘を展望した選挙挙力を実現すべきである。そして、国会を包囲した大衆運動の力で安倍政権を追い詰めていかねばならない。(大阪O)
【出典】 アサート No.455 2015年10月24日