【報告】中日戦争70年記念展示を見て(台北・中正紀念堂)
「抗日戦争の真相–特別展–」が、台北市の中正紀念堂の1階ロビーで、開催されていた。それを目的に訪れたわけではなく、台北ツアーの中に、蒋介石を紀念する建物の見学があり、この展示会を見ることができた。
主な展示は、盧溝橋事件から始まる日中全面戦争の、歴史絵画が中心であろうか。中国全土の地図の上には、大きな会戦のあった場所が示され、全土に及ぶ日中戦争の規模と経過を示している。抗日戦争を最前線で闘ったのは、蒋介石の中華民国軍である。かつて、私は抗日戦争をテーマにした本の書評を書いている。(アサートNo345「「抗日戦争中、中国共産党は何をしていたか」)国共内戦を経て、台湾に逃れた経過があるとは言え、抗日戦争について語る資格があるのは、中華民国なのである。
盧溝橋事件、上海の攻防、南京大虐殺、重慶無差別爆撃の絵を見ながら、日中戦争の歴史を再度辿ることができた。スタッフの女性に、日本語で書かれた歴史書はありませんかと尋ねたところ、売店にあると言われて探してみた。残念ながら、なかったのであるが、「1937南京真相」というDVDを見つけ、買うことができた。
中々しっかりした内容で、盧溝橋事件から南京陥落、そして大虐殺と、中国軍の元兵士、市民、元日本兵の証言も収録されている。中国語は解せないが、字幕の雰囲気でも、充分に理解することができた。
中華民国では、来年1月が総統選挙である。現総統は国民党の馬英九であるが、支持率は10%に満たず、民進党の蔡英文女史が有利と言われている。2014年中国との貿易協定に反対して、台北の学生が立法院を占拠した事件、そして、香港での「雨傘革命」と言われた学生の座り込み闘争などを経て、習近平の覇権主義に台湾でも批判が強まっており、習近平にすり寄る国民党は評判が悪いようだ。
この展示も、そうした国民党政府の思惑も感じられるが、それを割り引いても、日中戦争の被害者、抗日戦争の当事者からの視点を、感じることは大切であろう。
スタッフがくれた日本語の展示パンフレットには、馬英九総統の文章がある。その中に、英オックスフォード大学のミッター教授の著書から「中国の抗戦は、全く勝算がない中で苦難を耐え抜き、一切を顧みず徹底的に戦った英雄の物語である。外国人記者や外交官は異口同音に、中国はダメだ、中国は終わりだと予言していたが、これが全くの誤りだったことを証明した。この貧しく遅れた国は、四年間孤軍奮闘して日本に対抗し、80万の世界で最も近代化された精鋭部隊を牽制した。真珠湾攻撃後の4年間は連合国がヨーロッパ・アジアの戦場で同時に作戦を遂行し、次々に勝利を収めたが、これは中国が日本に抵抗をつづけたおかげである」を引用し、「中国が戦時中に世界四強となることができた理由はここにあります。」と述べている。
戦後、1952年には中華民国政府と日本は日華平和条約を締結し、1970年代の中華人民共和国との国交正常化まで、正規の友好関係にあった。台湾統治以来の長い歴史の中で、特に本省人と言われる台湾国民は、日本に親しみを感じる方も多いと聞く。東日本大震災に際しては、200億円とも言われる義援金が台湾から送られた事も記憶に新しい。歴史を忘れているのは、日本の方であろう。現在、台湾には多くの日本人旅行者の姿があった。観光と美食が話題だ。しかし、この展示は是非、じっくりと見てほしいと感じた。この展示は、今年7月から始まり、来年6月24日まで開催されているので、もし機会があれば、ゆっくりと見ていただきたいと思う。(佐野)
【出典】 アサート No.456 2015年11月28日