【投稿】15年1月・佐賀県知事選をめぐって 統一戦線論(12) 

【投稿】15年1月・佐賀県知事選をめぐって 統一戦線論(12) 

<<「佐賀の橋下徹」>>
 1月11日投開票の佐賀県知事選挙で、自民・公明両党が推薦する候補が敗れた。
 敗れた樋渡・前武雄市長は最年少市長で「佐賀の橋下徹」と呼ばれるほど、攻撃的、独善的で、武雄市長時代に図書館にTSUTAYAやスタバを入れて子供用スペースを潰して、運営を民間委託したり、地元医師会の反発を押し切って市民病院を民間移譲したり、そうした政治姿勢を批判する新聞記事に文句をつけ、記者を名指しで批判、ブログなどで徹底的に攻撃することでも名を馳せていた。
 そこへ降って湧いた昨年12月の衆院解散・総選挙の直前、前知事の古川康氏が突然、知事職を放り出して衆院選出馬を表明(佐賀2区、当選)。さらに知事職辞任直前に佐賀空港へのオスプレイ受け入れについて、「県は受け入れに向けて作業をしている」と表明。安倍政権に同調した見返りで衆院議員のポストを得る“天下り辞任”をした。その辞任に伴う1月の知事選候補について、自民党佐賀県連の頭越しに菅官房長官が「樋渡氏は古川氏の総務省の後輩です。」として、県連擁立候補(佐々木豊成・元財務省理財局長)に「ノー」を突きつけ、樋渡氏を古川氏の後継に指名、禅譲路線を明示して押し切った。
 樋渡氏は昨年4月の市長選で3度目の当選を果たしたばかりで、まだ任期は3年以上も残っていた。この樋渡氏とその政治手法を高く評価して持ち上げることが安倍政権の狙いでもあった。彼を「地方の改革派の旗手」として、安倍政権はアベノミクスと一体の「改革派」と位置づけて、知事選に引き揚げ、全面支援。知名度も抜群で圧勝、楽勝のはずであった。
 同知事選はアベノミクスが掲げたTPPや農協改革、自衛隊が導入する新型輸送機「オスプレイ」の佐賀空港への配備など日米安保・軍事同盟強化路線、そして玄海原発の再稼働などが争点となりかねないことから、争点隠しに大物議員を次々と送り込み、官邸は異例の支援態勢を敷いて臨んだ。その象徴が首相自ら乗り出す電話作戦であった。安倍首相の肉声=「佐賀県を全国に向けて発展させていくのは樋渡啓祐さんしかいません」と吹き込んだテープによる投票依頼の自動電話作戦が大々的に展開され、電話の最後は女性の声で「突然の録音電話で大変失礼しました。少しでも御不快などございましたらご容赦ください」と断わりが入る念の入れようで、これが逆に不快感を増幅させ、マイナスであったのではと反省の弁も聞かれるほどであった。

<<安倍政権の手痛い敗北>>
 知事選は、投票率は54.61%と、過去最低を更新、相手候補は土壇場の直前立候補で知名度も低いにもかかわらず、通常なら圧勝のはずが、安倍政権が直接推挙した樋渡候補は4万票もの差を付けられて落選したのである。安倍政権にとっては「番狂わせ」であり、厳しくかつ手痛い敗北である。
 当選したのは、元総務官僚で新顔の山口祥義氏である(18万2795票)。地元の多くの首長や県議、農協、有明海漁協などは山口氏の支援を表明、いわゆる「保守の分裂」が明瞭になった。
 山口氏は「佐賀のことを東京で決めていいのか」「中央対地方の戦いだ」と訴え、当選後の会見でも「佐賀のことは佐賀で決める。これが実現できたことは何よりも嬉しい。地方の英知を結集し、共感できる改革をしていきたい」と述べている。そして、原発については「再稼働の方向で考えたいが、安全性を確認し、県民の意見をしっかり聞く」、オスプレイについては「白紙であり、まったく判断していない。検討すべき点はかなり多い。まず国からオスプレイ受け入れ関連の情報を出してもらい、県民のあいだで議論する」と明言している。
 山口陣営の秀島・佐賀市長は、「『古川県政継承』を訴えた樋渡氏が当選したら、”特攻隊”のように佐賀空港軍事空港化を進める恐れがあると危惧」、山口氏の擁立と支援の先頭に立った、という(『週刊金曜日』2015/1/16号)。
 すでに佐賀空港を抱える佐賀1区では、昨年12月の総選挙で、民主党の原口一博元総務大臣が、オスプレイ受入に明確に反対して、病床から選挙運動をし、「奇跡」ともいわれる逆転勝利をしている。
 1/15、菅官房長官は、山口新知事が垂直離着陸機オスプレイの佐賀空港への配備受け入れを白紙にすると表明したことに関し、オスプレイ配備は「安全保障上、極めて重要、早期配備に向けて、知事の理解と協力を得られるよう丁寧に説明していきたい」と、あくまでも計画を見直さず推進するとの姿勢を強調し、2015年度予算案に、オスプレイ5機の購入費516億円を計上。佐賀空港には最終的に計17機を配備する予定で、基地や駐機場などを周辺に整備するための用地取得費として106億円も盛り込んでいる。

<<安倍政権の衝撃と動揺>>
 安倍政権は、昨年12月の自己都合の不意打ち解散であったにもかかわらず、実態は「大勝」などしていないし、自民党は党勢の回復も果たしていない。それでも、自公与党連合が議席の3分の2を確保したことで、年が明けていよいよその露骨な本来の路線を突き進まんとしていた矢先であった。ところがこの第3次安倍政権スタート直後の重要な地方選で、沖縄に続いて、基地拡大とオスプレイ配備に邁進する強権的な安倍政権の出鼻が挫かれ、「NO」を突き付けられたのである。政権に衝撃が走り、自公両党はうろたえているといえよう。総選挙を受けて「安倍総理の求心力が高まる」どころか、逆の事態が生じかねないのである。自民党の二階総務会長は「敗因を徹底分析すべき」と言いだし、高村副総裁も「負けに不思議なし」と言明、安倍首相自身が「敗因分析をしっかりしたい」と述べざるを得ない事態である。
 昨年7月の滋賀県知事選挙では、原発再稼働をひとつの重大な争点として、元民主党衆院議員の三日月大造氏が自公両党推薦の小鑓隆史氏を破って当選した。そして11月の沖縄県知事選挙では、名護市辺野古への米軍新基地建設反対を掲げた前那覇市長の翁長雄志氏が、政府与党の傀儡と化した現職の仲井真弘多氏を大差で破り当選した。そして今回の佐賀県知事選である。安倍政権にとっては、知事選の3連敗である。
3知事選に共通するのは、力ずくで地方をねじ伏せて中央主導の政策、安倍政権が推し進める新自由主義経済路線、原発再稼働、軍事力強化と緊張激化路線をしゃにむに遂行しようとする姿勢に、有権者が明確に反対し、「NO」を突き付けたことである。
 安倍政権を支える基盤が動揺し、脆弱化し、ほころびが出だしたともいえよう。おごれる政権ほど、浮き足立ち、これまでにもまして暴走しかねない。その矛盾と弱点がさらに露呈されざるを得ない。これに対抗するには、その矛盾と弱点をさらに拡大させ、保守勢力まで含めた、より裾野の広い広大で柔軟な統一戦線を構築することこそが求められている。
(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.446 2015年1月24日

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