【投稿】14衆院解散・総選挙をめぐって 統一戦線論(11) 

【投稿】14衆院解散・総選挙をめぐって 統一戦線論(11) 

<<これで「自民圧勝」と言えるか>>
 今回の選挙結果を大手新聞各紙はすべて「自民圧勝」と報道している。果たしてそうであろうか?現実を冷静に見れば、安倍政権にとっては「圧勝」とは程遠い苦々しい現実が横たわっている。
 直前までの各紙世論調査も「自民単独で300台超え」「単独三分の二確保か」などと報道、持ち上げていたが、実際の選挙結果は、自民党の議席は295→291、公明党は31→35、で自民は議席を減らし、公明がその分を埋め、結果として自公与党の議席数は変わらず、民主党は62→73、と意外に善戦、維新の党は42→41、と微減、社民党は現有2議席を死守、共産党は改選前の3倍弱となる21議席を獲得、公明党に代わって自民との連立を目論んでいた次世代の党は19→2に激減、同じく与党入りを狙っていたみんなの党は選挙前に解党という事態であった。「安倍の、安倍による、安倍のため」の、まったくの「自己都合」解散・総選挙であったにもかかわらず、明らかにその目論見は外れてしまったのである。
 これによって、安倍首相執念の九条改憲をめざす自民党と次世代の党を合わせた議席は、単独三分の二確保どころか、解散前の、衆院での改憲発議に必要な定数の三分の二に迫る314から292に逆に減らす結果をもたらした。総じて維新の党も含めた、九条改憲をめざす勢力は明らかに後退したのである。たとえ九条改憲に消極的な公明を説得し、民主党の一部やその他の野党を引きずり込んで、衆議院で3分の2以上の賛成を確保したとしても、憲法改正の発議には、衆参両院で3分の2以上の賛成が必要であり、参議院はいまだ約30議席足りない。安倍首相の執念達成にはまだまだ道遠しなのである。

<<「憲法改正は遠のいた」>>
 投開票日翌日の産経新聞12/15付「衆院選 首相が本気の民主潰し、『大物』狙い撃ちを徹底」と題した記事は、安倍首相にとってのこうした苦々しい現実を次のように報じている。(以下、引用)

 衆院選は自民党が勝利を収めたが、安倍には忸怩(じくじ)たる思いが残る。
安倍が年末の電撃解散で狙ったのは、自民党を勝たせるのはもちろんだが、むしろ自民党を含めた改憲勢力を増やし、護憲勢力を退潮させることに重きを置いていたからだ。
 見据えているのは平成28年夏の参院選だ。参院で自民党単独で3分の2超となるには、改選121議席中97議席以上獲得せねばならず、ほぼ不可能といえる。それならば維新の党や次世代の党など第三極にもっと実力を付けてもらい、参院での「改憲勢力3分の2超」を狙うしかない-。安倍はこう考えていたのだ。
 だが、みんなの党は選挙前に解党してしまい、維新や次世代などはいずれも苦戦が伝えられた。逆に民主党は議席を増やし、共産党は議席倍増の勢い。安倍は周囲にこう漏らした。
 「なぜ維新と次世代は分裂してしまったんだ。多少不満があっても党を割ったらおしまいだろ。平沼赳夫(次世代の党党首)さんは郵政解散での失敗をまた繰り返してしまったな…」
 「憲法改正はわが党の悲願だが、国民投票があり、その前に衆参で3分の2という勢力を作り上げねばならない。大変高いハードルでまだそこには至っていない。国民の理解が深まるように憲法改正の必要性を訴えていきたい」
 衆院選は自公で3分の2超の議席を得たが、憲法改正は遠のいた。任期4年で改憲勢力をどう立て直すのか。勝利とは裏腹に安倍の表情は終始険しかった。(引用、終わり)

 このような現実は、改憲や原発再稼働を煽り続けてきた読売や産経にとっても由々しき事態であろう。
 その原発再稼働をめぐっても、今回の選挙結果によって、慎重・反対を唱える野党の勢力は解散前の119議席から139議席に増えたのである。これも安倍政権にとっては由々しき事態であろう。

<<「よく言えば冷静、悪く言えば冷淡な反応」>>
 議席数以上に深刻なのは、投票数の実態である。
 投票率は52.66%、戦後の最低記録を大きく更新し歴史的低投票率を記録した。総有権者数は1億396万2784人で、投票者は5474万3186人、自民得票は小選挙区で2543万1323票、比例区で1695万6321票であった。
 比例代表で見ると、自民は昨年の参院選と比べ90万票減、公明は29万票減、自民・公明で119万票の減である。これに対し、民主262万票増、共産88万票増。得票率も自民が1.57ポイント減、公明が0.51ポイント減である。小選挙区で見ても、有効投票総数は5293万票で、自民は2552万票、前回衆院選より12万票減である。全有権者比の絶対対得票率でみれば、自民は比例代表で16.99%、小選挙区で24.49%しか支持されていない。有効投票の半分以下、全有権者のわずか4分の1の支持でしかない。これをどうして「圧勝」などと表現できるのであろうか。政治不信から棄権票が増大したにもかかわらず、投票権を行使した有権者は明らかに、自公の独走に一定の、無視し得ない歯止めをかけた、と言えよう。
 自民党前幹事長の石破茂氏は、12/19付のブログで「それにしても、全国を廻ってみて今回の選挙ほど、有権者のよく言えば冷静、悪く言えば冷淡な反応を感じたことはありませんでした。街角で、あるいは対向車から手を振って下さる方は前回の四分の一ぐらいしかおられなかったように思います。政権交代の高揚感に欠けたとはいえ、獲得議席数と有権者の心理に乖離があるとすればこれは由々しき事態なのであり、我々はその間隙を埋める努力をしなくてはなりません。」と書かざるを得ない事態である。
 「獲得議席数と有権者の心理」とは、言い換えれば得票数の割に自公で3分の2超の議席を獲得できたことを示しており、それは得票率に比べて議席獲得率が高くなる小選挙区制のおかげであり、自公協力が何よりも大きく貢献したのである。

<<「この政権の傲岸な姿勢」>>
 しかしこの自公協力は、1月の名護市長選、11月の沖縄県知事選で大きく破綻し、沖縄選挙区では4小選挙区すべてで自民党候補が大敗、敗退した。選挙期間中、安倍首相は一度も沖縄選挙区を訪れることができなかった。にもかかわらず、沖縄小選挙区の自民候補は全員が復活当選した。沖縄小選挙区の自民候補は全員が比例九州ブロック1位に位置づけられたからである。この九州比例区では8人当選しているが、そのうち4人、半分が沖縄の候補であった。彼らは沖縄の民意によってではなく、本土側の、安倍政権の差し金によって復活当選したのである。安倍政権の陰湿な策謀が透けて見える典型例とも言えよう。
 12/16付琉球新報社説は「『オール沖縄』全勝 犠牲強要を拒む意思表示」と題して、安倍政権を手厳しく論断している。(以下、引用)

 歴史的局面と言っていい。名護市長選、知事選と考え合わせると、保革の隔たりを超え、沖縄は一体で犠牲の強要をはねのけると意思表示したのだ。もう本土の犠牲になるだけの存在ではないと初めて宣言したのである。
 それなのに、この政権の傲岸(ごうがん)な姿勢はどう評すべきだろう。
 安倍晋三首相は開票当日、「説明をしっかりしながら進めていきたい」と、なお新基地建設を強行する考えを示した。翌日には菅義偉官房長官も、沖縄の自民党候補全敗について「真摯(しんし)に受け止めるが、法令に基づき(移設を)淡々と進めていきたい」と述べた。
まるで沖縄には彼らが相手にする民意など存在しないかのようだ。
 今回の選挙で奇異なのは小選挙区で落選した議員が全員、比例で救済され、復活当選したことだ。有権者の審判と逆の結果が生じたという意味で、現行選挙制度の問題が極端な形で表れたといえる。
 復活当選した自民党議員たちは今後選択を迫られる。比例区当選者として政府の代弁者となるか、沖縄の民意を体現するかだ。言い換えれば、日本への過剰同化を進めて「植民地エリート」となるか、誇りある立場で沖縄の自己決定権獲得に貢献するか、である。(引用、終わり)

<<「自共対決」の現実>>
 沖縄の選挙結果で際立つのは、当選したのは1区共産党、2区社民党、3区生活の党、4区元自民党という、それぞれの党派の候補者であるにもかかわらず、沖縄県知事選で構築された「オール沖縄」という、沖縄が直面する最も重要な課題において共に戦う統一戦線が継続、維持されたことである。その統一戦線が、それぞれ各個の政党政派にかかわりなく、小選挙区で互いに協力・連携・共闘すれば勝利できることを明確に実際に体現し、有権者がそれを強く支持したことである。1区では「共産党政権を阻止せよ!」「中国に沖縄を売り渡すな!」などと反共キャンペーンがしつこく展開されたが、それでも自民支持層の17%が共産党の赤嶺候補に投票している。2区、3区、4区においてもそれぞれの党派だけでは過半数を制することはできなくても、統一戦線こそが勝利をもたらしたのである。
 省みて本土側では、反自民の野党共闘は無きに等しく、中途半端で、対決政策のすり合わせさえできない、そもそも共闘する意思さえもたず、各党派エゴ、セクト主義が優位を占めて、安倍政権を大いに助けたといえよう。
 共産党は大きく前進したが、沖縄方式は本土側では一箇所もなく、「自共対決」の名のもとに全小選挙区に候補者を立てた。文字通り、「自共対決」となった選挙区が今回は25カ所にも増えたが(前回12年は4カ所)、共闘や、統一戦線、連携は一切なかったし、1議席も獲得できなかった。小選挙区で共産党が議席を獲得できたのは、沖縄1区のみなのである。これでは「自共対決」などととても言えたものではない。それでも野党共闘の乱れや失敗によって、共産党が安倍政権批判票の一定の受け皿となり、「自共対決」区では10%台後半から30%台の得票を獲得し、共産党に大きな前進をもたらしたが、そこまでである。大阪3区、大阪5区、兵庫8区では共産党と公明党の一騎打ちとなったが、相手は自公連合であり、議席の獲得は不可能であった。
 今回の解散・総選挙は、この選挙結果によってさらに暴走しかねない安倍政権を阻止する統一戦線形成に大きな課題と問題点を提起したと言えよう。(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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