【投稿】都知事選をめぐって 統一戦線論(10) 

【投稿】都知事選をめぐって 統一戦線論(11) 

▼ にわかに政局は衆院解散・総選挙へと走り出した。安倍政権の走狗と化しつつある読売・NHKがリークし、主導する報道によれば、安倍首相は年内に総選挙を行うことを決断し、来年10月の消費税率10%への引き上げを延期する方針を表明するという。首相自身の表明もないうちに、「12月2日公示-14日投開票」が既定路線として駆け巡っている。
 自民党の石破前幹事長でさえ「総理が何一つ発言しておられないにも拘らず、一部のマスコミ報道によって端を発し、急速にこのような雰囲気が醸成されつつあるのは、正直何とも不思議な気が致します。消費税率アップなら消費減退を最小限に留めるとともに低所得者に対する対策を、先送りなら財政再建のための歳出改革の道筋を示すのが当然であって、それを示さないのなら何のための解散なのかわからない、と言われても仕方ないでしょう。」と発言し、自民党の岐阜県連は「消費税を解散の大義名分とするのは後付けで、国民のことを一切考えない党利党略」として、「年内の衆院解散・総選挙に反対する決議」を採択している。
 9月に内閣改造を行ったばかりで、次から次へと閣僚のぼろが出始め、当初は10%への消費税増税判断を12月上旬に行うとしていたものを、11/17の今年7~9月のGDP速報値発表で景気の落ち込みがさらに深刻化している実態、アベノミクスのボロがもはや覆い難い事態の進展を前に、政権の延命と保身のために、急遽、増税の延期と「引きかえ」に解散をするという全く、国政を私物化した解散・総選挙である。しかしそれは、今のうちに解散しておかなければ、事態はさらに悪化しかねないという、追い込まれた解散・総選挙だとも言えよう。
 安倍政権は、今年に入ってからの都知事選、滋賀県知事選、福島県知事選、そして沖縄県知事選、いずれにおいても安倍政権が推し進める原発再稼働政策、対中国対韓国緊張激化政策、特定秘密保護法、集団的自衛権と憲法改悪、そして沖縄辺野古の米軍新基地建設、等々の基本政策は全て選挙の争点とすることを徹底して避け続け、アベノミクスとその場しのぎのバラマキ政策を中心に据えて選挙戦をしのいできた。
▼ 10/26投開票の福島県知事選はその典型であった。自民党は、県連が擁立決定した候補を、首相官邸と党本部が引きずり降ろしてまでも相乗りを決める異例さであった。この時点で自民党は既に敗北しているのである。しかしその相乗りを認めた民主党や社民党も、自民党との対決を放棄し、政府・自民党の原発再稼働・福島切り捨て路線が明確な争点にならない、うやむやで曖昧な無責任な路線に同調してしまったのである。
 あの原発事故から三年七カ月以上を経ても収束どころか、「アンダーコントロール」もできず、放射能を拡散し、汚染水をたれ流し、補償にも力を入れず、県民不在のずさんな健康管理調査で、避難の権利さえ認めない、エネルギー政策の転換にさえ踏み出せない、そうした東電や政府の棄民政策とも言える日本の政治の冷厳な現実に福島県民は直面させられてしまったのである。
 その結果が、投票率は45.85%とワースト2位を記録。知事選では現職60万票が当然であったにもかかわらず、当選した前副知事の内堀氏は現職同然で、民主・社民・自民・公明等の相乗り、逆「オール福島」でありながら50万票を割る49万票であった。それでも候補者6名のなかでの得票率は、実に66.8%、他の5候補を大差で引き離したのであった。
 政府・自民党の原発再稼働路線に対して明確な対決姿勢を打ち出した、次点の新党改革=支持、共産=自主的支援の熊坂氏は13万票弱、元双葉町長の井戸川氏は3万票弱、と惨敗であり、選挙間際の付け焼刃的な統一戦線政策では有権者の信頼を勝ち取ることができないことが明示された。
 自民党は政策不在の「無風選挙」で原発政策が明確な争点にならず、形式上は連敗を逃れたことに安堵しているのであろうが、自らの政策選択をさえ迫ることができない、実質的には敗北なのである。
 急遽浮上した12月解散・総選挙も、これまた政権の延命と保身のために、アベノミクスの破綻を覆い隠すための増税先送りをいわば〝えさ〟にした、全くのご都合主義的な争点隠しの選挙戦略と言えよう。
▼ しかしこのような争点隠しの安倍政権の選挙戦略は、沖縄県知事選の現職・仲井眞氏の敗北によって吹き飛んでしまったといえよう。唐突な解散・総選挙説が浮上したのは、この敗北濃厚であった11/16の沖縄県知事選に焦点を合わせ、仲井眞陣営に喝を入れ、普天間基地県外移設で揺らいできた沖縄選挙区選出の自民党議員を引き締め、対抗馬である「オール沖縄」を体現する翁長氏の票を少しでも引き下げるための姑息な策略でもあったからである。
 菅官房長官は、翁長氏が知事選出馬を表明した9/10に、米軍の辺野古新基地建設を「(仲井真氏が)承認し、それに基づき粛々と工事している。この問題は過去のものだ」と傲慢極まりない発言をしたのであったが、実はこれが最大の争点であったことが逆に証明されてしまったのである。
 基地建設を強行せんとする安倍政権にとって、これは過去の問題ではなく、現実最大の問題であり、もはや基地建設を強行すれば安倍政権は完全に見放されてしまう、政権基盤をさえ脅かされかねない、最大の難関が沖縄県民の総意として突きつけられたのである。事態をここまで追い込んだ安倍政権、そしてこの沖縄県知事選の敗北は、自民・公明連合にとって最大の衝撃といえよう。
 当選を決めた翁長氏は11/16夜、「(辺野古埋め立て承認の)取り消し、撤回に向けて断固とした気持ちでやっていく」「私が当選したことで基地を造らせないという県民の民意がはっきり出た。それを日米両政府に伝え、辺野古の埋め立て承認の撤回に向けて県民の心に寄り添ってやっていく」と述べ、同日選となった那覇市長選でも、翁長氏の後継の前副市長が自民、公明が推す候補を破った。
 沖縄県知事選の翁長氏陣営の勝利は、沖縄の新しい歴史を切り開くとともに、日本の統一戦線史上、時代を画するものと言えよう。
(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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