【投稿】日本の全ての富を米金融資本に貢ぐ 世紀の国家詐欺「ハロウィ-ン追加緩和」 

【投稿】日本の全ての富を米金融資本に貢ぐ 世紀の国家詐欺「ハロウィ-ン追加緩和」 
                           福井 杉本達也

1 強引な黒田日銀の「ハロウィ-ン追加緩和」と年金資金による株買い
 10月31日、黒田日銀は突然の追加緩和を発表した。金融政策の目標としている資金供給量をこれまでの年60兆~70兆円から年80兆円へ増やす。長期国債の買い入れ額も年50兆円から80兆円へ大幅増。買い入れ国債の平均残存期間も7年から7~10年程度に延ばしてできるだけ先の長い期間の金利を下げる。加えて日本株と連動する上場投資信託〈ETF)や不動産投資信託(REIT)の購入も3倍増。GDP(国内総生産)に占める資金供給量や国債買い入れ高などは異次元緩和(QE3)の米国を大きく上回る。
 日銀の追加緩和と同時にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の新しい基本ポートフォリオも発表されて、市場が湧いた。今後、国内株式だけで10兆円以上を買い増しすると予想される。GPIFは約130兆円を運用する世界最大級の機関投資家である。運用しているのは、厚生年金、国民年金の積立金である。基本ポートフォリオでは全額債券並みのリスクで、「名目賃金上昇率+1.7%」とうたうが、そのような好都合で高い利回りが可能なのか。しかも、「想定運用期間」を25年として。しかし、変化の激しい時代、想定できるのは5年ではないか。山崎元氏は「「株式50%」新運用計画は素人でも許されない無責任な代物で、年間22兆5千億円の損失があり得る」と指摘する(「現代ビジネス」2014.11.13)。

2 日米の金利差拡大により資金を強制的に米国へ
 米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和(QE3)を10月末で止めたにもかかわらず、日銀が今回の追加緩和により、ゼロ金利政策をさらに続けるということは、当然日米の金利差が拡大することとなる。資金は金利の低い方から高い方に流れる。金利の低い円が売られドルが買われるので、為替レートは円安に傾く。「アベノミクス」の解説では「円安による輸出競争力の強化」と「物価目標2%の達成によるデフレからの脱却=景気回復」であるが、どちらも大嘘である。輸出が増えるはずの2013年度の経常収支はわずか8000億円に過ぎなかった。14年第1四半期は1兆4000億円の赤字になっている。円安にもかかわらず輸出が伸びず、しかも景気が低迷しているのに輸入が急増していることによる。海外工場移転先からの製品輸入や円安で原油・LNG価格などが高騰したことも大きい。燃料価格は1年半で20%も上昇している。輸入物価の上昇により中小企業と消費者は打撃を受け。当然ながら景気は冷え込んだままである。10月31日・日銀自身が成長率を0.6%へと下方修正せざるを得なくなった。
 円安誘導の真の狙いは、日本の資金を米国に持っていくことにある。資金が集まらなくなった米国をファイナンスすることにある。

3 中国を中心とするBRICS諸国の台頭により、資金が米国から新興国へ
 米国に資金が集まらなくなっているのは、特にBRICS開発銀行合意とアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の影響が大きい。BRICS銀行はIMFに対抗するものであり、AIIBはアジア開発銀行への対抗手段となる(FT:2014.10.31社説:日経)。中国はこれまで、米国への輸出で稼いだ金を米国債の購入に充て、米国の財政をファイナンスしてきた。2014年8月現在の中国の米国債保有残高は1兆2697億ドルであり、世界一ではあるが、ここ1・2年ほとんど変化していない。一方日本は1兆2301億ドルであり、貿易赤字の続くこの1年間にも800億ドル上乗せし、中国を再逆転しそうな雰囲気である。
 中国は貿易黒字で貯めた金を、米国に還流させることをやめ、新興国へのファイナンスに使い始めたのである。
 11月10日には中国とロシアは人民元決済による取引の拡大を発表したが、中国はその他カナダ・スイスとの通貨交換協定を、人民元建てのイギリス国債発行を、仏・独でも人民元決済サービスの提供を始めている。
 これまでは、中国を始めとする新興国の資金は、一旦、ニューヨークに集められ、米国の資金として米国の刻印を押されて他の発展途上国に貸し付けられていた。ところが、今後は米国をスル―して直接BRICS銀行などから発展途上国へ、または基軸通貨であるドルを使わず人民元決済が行われることとなる。こうした流れの中、6月・米ハゲタカ・ファンドから2001年デフォルト時の債務不履行を訴えられ、連邦地裁の支払い命令を受けたアルゼンチンは再デフォルト不可避と思われたが、ハゲタカの不当な要求を拒み対決している。
 この状況は基軸通貨ドル体制の崩壊であり、米国の崩壊へと通ずる道である。米国産のシェールオイルの原油やシェールガスのLNG化による輸出が盛んに叫ばれるようになっているが、ドルが米国に集まって来るなら、これまで通り国内資源保護政策として、豊富なドルで原油やガスを買えばよい。資金が集まらなくなっている(ドル暴落が時間の問題)から原油・ガスの輸出が叫ばれているのである。米国はウクライナ紛争によるロシアへの牽制、「イスラム国」騒動によるロシア・中国への牽制、香港『雨傘革命』による中国への牽制など、様々な手段によりBRICSが連携することを阻止しようとしてきたが、どれもうまくは行っていない。直近では、サウジを動かして原油安を仕掛けている。これは資源輸出に多くを依存するロシアの財政に打撃を与えるためである。「世界経済に与える影響、石油市場や地政学上の競争相手に与える打撃、そして安全保障の鍵を握る米国との関係。これらの戦略的判断がサウジの一手を決める」(小山堅日本エネルギー経済研究所:日経:2014.11.11)。原油価格は市場の需給関係で決まるというのは大嘘である。昔も今も政治商品である。
 こうした中、中国をどう取り込むか又は対決するかで米金融資本内においても意見の食い違いが大きくなっている。去る11月1・2日と箱根で開催された富士山会合(日本経済研究センターと日本国際問題研究所主催)ではデニス・ブレア元米国家情報長官は「中国主導で設立をめざすアジアインフラ投資銀行(AIIB)についても『反対すべきではない。不安があるなら中から変えるべきだ』」と発言、一方、米軍産複合体を代表するマシュー・グッドマン米戦略国際問題研究所(CSIS)政治経済部長や西室泰三東芝相談役らは参加に否定的見解を示している(日経:2014.11.12)。

4 米QE3を引き継いだ日銀「ハロウィ-ン緩和」は無限の米国への資金の垂れ流し
 中国やBRICSからの資金還流が少なくなるならば、『同盟国』日本から徹底的に収奪する以外に方法はない。日本の国富(年金資金や郵貯)をできるだけ多く合法的に収奪することが米金融資本の狙いである。日銀に追加緩和させ、年間80兆円のカネで日銀は今後、長期国債もどんどん買い増すとしており、長期国債も現物が市場から払底しマイナス金利に近づいている。日銀の資産は傷み、国債市場は機能不全に陥ってしまう。民間が最も安全な国債を買えないようにし、トコロテン式に資金を米国債に振り向けざるを得ないようにしている。為替ヘッジがなく、円高に振れたならば為替損が発生してしまう。また、ETF を3倍の3兆円、REITも3倍の900億円増して、株価も、不動産価格も釣り上げようというのである。株が高騰し、つられて、個人投資家が日本株を買い始め、130兆円の年金積立金を運用して、さらに株高を演出し、バブルが起こしたところで、外資は大量の空売りを仕掛ける。 政府や黒田日銀はこのような 外資のシナリオを先刻承知の上で、米金融資本の代理人として、究極の国家詐欺=売国政策を行いつつある。
 量的緩和とは「バブルで空いた穴をバブルで埋める」ことである。しかし、危険なゲームは長続きしない。既に「自動車版サブプライムローン」の危険性もささやかれている(日経:2014.9.3)。金融緩和の「出口」が模索され、金融がおかしくなる前にマネーの蛇口を締める。FRBは緩和マネーを2014年1月から減らし、10月末に量的緩和を終了した。欧州中央銀行(ECB)の量的緩和も始まる。米国が蟻地獄から抜けるのは黒田日銀の「ハロウィ-ン緩和」という“後釜”ができたからである。日本と欧州が緩和マネーをどんどん吐き出せば、米国の株式市場は暴落を避けることができる。しかし、その分、日本はバブルが弾けるときにはとてつもない打撃を受けることになろう。その時、日本の全勤労者が長年ため続けた、公的年金資金もろとも沈没するだろう。
 出口の全く見えない日銀の追加緩和を、米ヘッジファンドのゴールドマン・サックスは、旧日本軍の最後の玉砕突撃に重ねて「バンザイノミクス」と評している。 

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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