【投稿】政権延命目論む解散総選挙
<正当性無き粉飾解散>
安倍総理は消費税の10%への引き上げを延期したうえ、12月14日に総選挙を強行しようとしている。これは内政外交の失政を糊塗し、政権の延命のみを目論む政治的策謀にほかならない。
総選挙では、消費税増税延期について信を問うとしているが、市民はもとより野党も与党もほとんどが延期賛成であり、争点にはなりえない。
安倍総理としては「増税派」の徹底抗戦で「抵抗勢力」を作り上げ、「小泉劇場」の再演を目論んでいるのかも知れない。
現下の状況では再増税こそ信を問わねばならない判断であるのに、増税延期をさも自分の手柄の様に吹聴するのは滑稽でさえある。
安倍政権はこの間様々な問題で、行き詰まりの兆候を見せていた。
内政面では、改造内閣発足早々、小渕経済産業大臣、松島法務大臣が不透明な政治資金管理と有権者への寄付疑惑によって辞任に追い込まれた。
さらに江渡防衛相、宮沢経産相にも政治資金に係わるさまざまな問題が浮上しており、第2次安倍内閣はまさに「地雷内閣」の様相を呈していた。
野党の追及が厳しさを増すなか、アベノミクスの綻びは露わになり、経済環境は悪化の一途をたどっていた。
この難問を前に安倍総理は、消費増税延期を匂わす動きを見せていたが、それを阻止せんとした日銀の量的緩和の再拡大という奇策による円安、株高を好機とし、いわば逆手にとる形で一気に解散・総選挙に突き進みだしたのである。
予期せぬ事態に黒田総裁は「今回の金融緩和は予定通りの消費増税が前提」と慌てたが、菅官房長官は「増税は政権がきめること」とけんもほろろの対応である。
部下が「万歳突撃」を敢行したのに指揮官は動かなかったのである。これは安倍総理の裏切り行為であり、黒田総裁は本来なら抗議の意を込め辞任してしかるべきであろう。
アクセルを踏んだ車のブレーキを取り外したに等しい日銀、安倍政権の一連のちぐはぐな動きは、経済的整合性を無視し、制御不能な円安から市民生活破壊、財政破綻に落ち込む危険性を一層増大させた暴挙であろう。
他の目玉政策での失敗も大きいものがある。北朝鮮による拉致問題は、完全に頓挫した。10月27日政府は拉致問題に関する、北朝鮮の調査の進捗状況を確認するため、調査団を平壌に派遣した。
調査団は特別調査会の徐大河委員長らと会談したが、「日本側は拉致被害者の安否が最重要問題と考えている」と伝えるのが精いっぱいで、北朝鮮側からの具体的な回答は引き出せなかった。「夏の終わりから秋の初めに第1次回答を行う」という5月の日朝間ストックホルム合意は、完全に反故にされた。
拉致被害者家族はもちろん政府・与党内からも「何をしにいったのか」との声が出されるほどの散々たる事態である。
<外遊は海外逃避か>
様々な手詰まりから逃げるように、APEC首脳会議など11月9日から17日に渡る長期の外遊に出発した安倍総理であるが、これまでの外遊と同様、成果は残せなかった。
10日には北京で2年半ぶりの「日中首脳会談」が開かれたが、事前に日中間で合意文書が作成されるという異例の展開を見せた。
中国は首脳会談開催にあたって、「靖国不参拝の確約」と「尖閣諸島を巡る領有権問題の存在確認」を条件としていた。
合意文書では「歴史を直視し・・・両国関係の政治的困難を克服」「尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」という表現で、中国の主張を安倍政権が受け入れることとなった。
「前提条件なしの首脳会談」という前提条件は崩れ、安倍総理は習近平主席に会うこととなった。
しかしわずか25分の「会談」は終始ぎこちない雰囲気で進み、内容の無いものとなった。中国にすれば合意文書ができた以上、会談などさほど重要ではないということだろう。
合意文書発表直後から、安倍政権を支持してきた有象無象から「中国に屈した」という批判が巻き起こり、会談後も「笑顔、国旗のない中国の対応は無礼」という声が上がっている。
慌てた政府は岸田外相が「文書に法的拘束力はない」「日中間に領土問題はない」などと火消しに躍起となっているが、後の祭りというものであろう。
今回の会談は中国に屈したというよりはアメリカと経済界の圧力に屈したというべきものであろうが、安倍総理にとっては屈辱であったに違いない。
一方、日中に先立って行われた日露首脳会談は笑顔に満ちたものであったが、内容はプーチン大統領の年内訪日中止の確認という、侘しいものであった。
北京を後にした安倍総理はASEAN関連首脳会議に出席するため、12日ミャンマーを訪問した。
ASEAN首脳との会議では、北京での握手を忘れたかのように「『海における法の支配の三原則』にのっとった行動を期待しており、本件が地域共通の課題であることを明確にすることが重要」と中国をけん制した。
しかし議長声明等では、南シナ海問題に於ける中国包囲網は形成されず、逆に経済援助を拡大させる中国の存在が大きく印象づけられる結果となった。
同地での首脳外交でもオバマ大統領が、アウンサン・スーチー氏と会見し、ミヤンマーの一層の民主化を促す等、存在感をアピールしたのに比べ、安倍総理はセイン同国大統領との会談で、国交樹立60周年記念銀貨を渡すという儀礼的な外交に終始した。
15日からのG20首脳会議のため、訪れたオーストラリアで安倍総理はアベノミクスの成果を強調した。
しかしこの場でも来年のG20議長国に初めて中国がつくことが明らかになった他、BRICS首脳会議が開かれ新たな開発銀行の設立加速がアピールされるなど、外遊全体にわたり習主席の後塵を拝する形となった。
<中国敵視は不変>
安倍総理は「日中首脳会談」をもって政権の平和姿勢をアピールしているが、ASEANで見せたように、中国に対する敵視、警戒を解いていない。
安倍総理留守中の日本では、中国を「仮想敵」とした大規模な軍事演習が行われた。
安倍総理出発前日の11月8日からは「島嶼部に大規模な侵攻が発生」=「南西諸島に中国軍が上陸」したことを想定した日米合同軍事演習「キーンソード2015」開始された。
これは日本海から東シナ海までの広大な区域で、陸海空自衛隊約3万人、アメリカ軍約1万人が参加する、海上、航空作戦を軸とした演習であり今年で12回目となる。
また、陸上自衛隊は「キーンソード」の陸上作戦パート、さらに各自衛隊の「協同転地演習」の九州・沖縄方面作戦として、10月27日から11月26日まで「鎮西26」演習を展開している。
これは、民間船を「徴用」しての北海道、東北から九州、奄美への部隊移動、兵站訓練のほか、上陸作戦、さらに捕虜移送訓練など、より中国を意識した実戦的色彩の強いものとなった。
以前から計画されていたものとはいえ、首脳会談が実現するか否かの微妙な時期に、あからさまな挑発を行うようでは、習主席に笑顔を求めても無理であろう。
自民党政権は1998年、江沢民主席の訪日直前にも、3自衛隊による硫黄島での大規模な上陸演習を実施し、中国を刺激した「前科」がある。
<沖縄から総選挙へ>
オバマ政権は「キーンソード」に、空母「ジョージ・ワシントン」やF22戦闘機を参加させているが、中国とのバランスに腐心している。
APEC終了後2日間に及んだ米中首脳会談でオバマ大統領は、香港のデモなど人権問題や南シナ海問題で釘を刺したものの、経済、環境など様々な分野での協力に合意した。
この姿勢と軌を一にしてオバマ政権は軍部への牽制を強めている。
今年初めに「中国軍は自衛隊を短期的、激烈な戦闘で撃破し、尖閣諸島や琉球列島南部を占領する新たな任務を与えられた」と発言した太平洋艦隊のファンネル情報部長(大佐)が、APEC開催に合わせるかのように更迭された。
また、「日本の集団的自衛権を歓迎」し「アメリカには台湾を防衛する義務がある」と発言している、グリナート米海軍作戦部長(大将)は「沖縄に新型無人偵察機を配備する」と、11月4日に表明したが、1週間後に否定された。
新な日米防衛協力の指針(新ガイドライン)に関し、年内に予定していた最終報告を先送りするための協議を開始したことを明らかにした。
これは政府与党内で公明党との調整が難航しているためと言われているが、自衛隊が巡航ミサイルなどの敵基地(策源地)攻撃能力を保有することに、アメリカが難色を示していることと関係があるだろう。
アメリカが、無人偵察機配備を否定したことや、「キーンソード」の実動演習区域から沖縄近海を除外したことは、中国に対する配慮とともに沖縄知事選を考慮しての措置だったと考えられる。
しかしながら、11月16日の沖縄知事選挙では、辺野古移転反対を訴える翁長候補が当選した。妨害工作ともいえる喜納、下地両氏の立候補をはねのけての勝利である。
仲井間知事は「普天間基地の5年以内(2019年2月まで)の運用停止」を起死回生の訴えとしたが、アメリカばかりでなく安倍政権も実現に向けての真摯な動きを見せなかった。仲井間氏は梯子を外されたに等しい。
「知事選敗北は織り込み済み」と言わんばかりに選挙翌日安倍総理は素知らぬ顔で帰国した。
予定される総選挙での「勝利」を持って、内政外交の行き詰まりをリセットし、新たな市民生活負担増と東アジアでの緊張激化への「承認」を得ようとする、安倍政権の目論見を、沖縄の勝利を梃に阻止しなければならない。(大阪O)
【出典】 アサート No.444 2014年11月22日