【投稿】経済政策破綻糊塗する安倍軍拡
<景気後退と憎悪拡大>
景気の実態が急速に悪化している。4~6月期の国内総生産(GDP)は低下し、内閣府が10月7日に発表した8月期の景気動向指数でもそれが明らかとなった。
一致指数の基調判断では「景気動向指数(CI速報値)は、下方への局面変化を示している」とされ、7月期の「足踏み」判断から後退した。
この判断は、今年の春ごろが景気の山だった可能性が高いことを示しており、消費税引き上げが決定的となったと考えられる。今後の景気動向指数では「悪化」判断がなされるかが焦点となってきている。
労働者の収入は政府主導の賃上げなどにより、名目賃金は上昇したものの、物価上昇率を踏まえ修整した実質賃金は、14か月連続の前年割れとなっている。
これらを衆参両院の予算委員会で野党各党から追及された安倍政権は、「消費税引き上げの反動減だ」などと、都合の良い判断と数字を持ち出して反論した。
しかしこの間明らかとなった経済指標は勢いに欠けるものばかりで、とりわけ委員会開催期間中に公表された先述の景気動向指数は痛打となり、政府の弁明は説得力を持たなかった。
さらに安倍総理が「円安には良い面と悪い面がある」と述べたのに対し、黒田日銀総裁は「円安は全体的にはプラス」と述べるなど、政府と日銀の経済政策の迷走が露呈した。
安倍政権はいまだにアベノミクスの成果を喧伝しているが、三本の矢は的の手前ですでに地面に落ちている。
「大胆な金融政策」は限界が来ている。さらなる金融緩和が実施されれば、日米金利格差はさらに拡大し、「悪い円安」が一層昂進するだろう。
「機動的な財政政策」はもうばら撒くものも、ばら撒き先もない。9月の内閣改造で打ち出した「地方創生戦略」に関しては、早々に政権自ら「バラマキはしない」と地方の期待にくぎを刺した。渋々地方創生担当相を引き受けた石破大臣は、手ぶらでの地方行脚を強いられようとしている。
「新たな成長戦略」も具体的成果はない。「女性が輝く社会」は管理職登用の数値目標などが取り沙汰されているが実効性は不透明である。現状は安倍政権の女性閣僚、党役員が不気味な光を放つばかりである。
海外や民間投資も湿りがちとなっている。そこで政府は自ら投資を進めようとしている。塩崎厚労相らが目論む年金積立金の投機的運用が始まれば、不安定な経済情勢の中で巨額の損失が危ぶまれる。
現在国会では「カジノ法案」が審議されているが、安倍政権は「成長戦略」の名のもと日本経済のカジノ化を進めているのである。
安倍政権はIMFに急き立てられ「経済成長と財政再建を両立するため」と法人税減税と消費税増税を強行しようとしているが、現下の情勢では危うくなりつつある。
日本経済の失速感が強まるにつれ、アベノミクスの「四本目の矢」を求める声が、政府・与党、経済界から強まっている。しかし、「矢」が尽きてしまった安倍政権は残る「刀」を振り回し、経済的失政を軍拡とナショナリズムで糊塗しようとしている。
安倍政権は発足以来、中国、韓国との緊張関係を靖国参拝などで挑発的に激化させ、それを口実に軍備増強と集団的自衛権の解禁を強行してきた。
さらに政権寄りのマスコミやネットによる「朝日新聞」攻撃につづき、東アジア大会や御嶽山噴火に際してもデマや誹謗中傷が拡散され、排外主義的なナショナリズムが扇動されている。
<「新ガイドライン」の危険性>
こうしたなか10月8日、新たな日米防衛協力の指針(新ガイドライン)に関する中間報告が公表され、危険な動きが一層露わになった。
今回の中間報告では「Ⅰ 序文」において、「新ガイドライン」策定が「(集団的自衛権解禁の)閣議決定の内容を適切に反映し・・・日米両政府が、国際の平和と安全に対し、より広く寄与することを可能とする」として、安倍政権の進める「積極的平和主義」=軍事的プレゼンス拡大に沿ったものと規定している。
さらに「Ⅱ 指針及び日米防衛協力の目的」では「平時から緊急事態までのいかなる状況においても・・・アジア太平洋及びこれを超えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなる」ため「切れ目のない、力強い・・・実効的な日米共同の対応」を「日米同盟のグローバルな性質」に基づき進めるとしている。
これは「新ガイドライン」の目的が、「敵国」からの攻撃対応だけではなく、計画から演習、動員、出動という平時から有事まで連続した戦略を、日米一体で地域的な制約なしに進めることであることを明らかにしている。
こうした戦略の「歯止め」として「Ⅲ 基本的な前提及び考え方」で「日本の行為は、専守防衛、非核三原則等の日本の基本的な方針に従って行われる」としているが、「平時から・・・アジアを超えた地域」と「専守防衛」は明らかに矛盾するものであろう。
そして「Ⅳ 強化された同盟内の調整」では「地域の及びグローバルな安定を脅かす状況、・・・同盟の対応を必要とする可能性があるその他の状況に対処するため・・・切れ目のない実効的な政府全体にわたる同盟内の調整を確保する」としている。
これは、地球的規模での作戦行動に関し、平時から日米両「国家安全保障会議」(NSC)がイニシアをとり、戦時指導部としての権限を強化していくことを意味している。
次に具体的な措置として「Ⅴ 日本の平和及び安全の切れ目ない確保」では「日本に対する武力攻撃を伴わないときでも・・・平時から緊急時のいかなる段階においても切れ目のない形で・・・措置をとる」とし「訓練・演習」「後方支援」などに加え「アセット(装備品等)の防護」をあげている。
「アセット」とはアメリカ軍が装備するすべての兵器のことであり、弾薬から艦艇、航空機までが含まれ、地球上のどこでも米軍が攻撃されれば自衛隊が参戦する可能性を示唆している。
こうして「Ⅵ 地域及びグローバルな平和と安全のための協力」では「日米同盟のグローバルな性質を反映するため、協力の範囲を拡大する」としている。その対象分野は「平和維持活動」「人道支援・災害救援」「海洋安全保障」「能力構築」「情報収集、警戒監視、偵察」「後方支援」「非戦闘員の退避活動」などとしているが「これに限定されない」とも述べており、事実上無制限となっている。
加えて「Ⅶ 新たな戦略的領域における日米共同の対応」として「宇宙及びサイバー空間」での「安全保障上の課題に切れ目なく、実効的かつ適時に対処する」とし、日米軍事同盟を宇宙空間までに拡大しようとしているのである。
「Ⅷ 日米共同の取り組み」として「様々な分野における緊密な協議を実施し・・・安全保障及び防衛協力を強化し、発展させ続ける」として「防衛装備・技術協力」すなわち兵器の共同開発などをあげている。
最後に「Ⅸ 見直しのための手順」では「新ガイドライン」において、さらなる将来の見直し手順を記載するとしている。
<国際連帯で軍拡阻止へ>
現ガイドラインが、日本への武力攻撃及び周辺有事が惹起した場合の対処に重点が置かれていたのに対し、「新ガイドライン」では、平時から宇宙を含む世界的規模での日米共同作戦を想定し、スムーズに「切れ目なく」戦時体制に移行できるよう、演習、訓練に止まらず、両国政府がNCSを軸として綿密な計画を策定していくという、これまでの日本の防衛政策を大転換するものとなっている。
集団的自衛権に係わる具体的内容は、年末に策定が予定されている最終報告に先送りされた。安倍内閣は尖閣諸島を巡る中国との武力衝突に際し、アメリカ軍のより具体的な支援を求めている。
しかし中国との戦争など望んでいないオバマ政権は、「北朝鮮がいきなり(韓国、日本をスルーして)公海上のアメリカ艦船を攻撃する」という有りえないシナリオを、集団的自衛権行使の具体例とする程度でお茶を濁したいところだろう。
一方オバマ政権はシリアの「イスラム国」空爆作戦を、「自衛権の行使」として実行している。自衛権がいかに曖昧かつ恣意的に行使されているかがわかる。安倍政権は「イスラム国空爆への参加などありえない」と表明しているが、「新ガイドライン」策定は、日米両国を縛るものである以上、何らかの形での「自衛権の行使」は十分考えられる。
こうした問題を追及すべき国会では、経済政策に関しては野党から鋭い追及がなされたが、それ以外では「うちわ問題」や「侮蔑的ヤジ」などで有効な論陣が張れているとは言い難い。
この間もっとも安倍政権を驚愕させたのは、「憲法9条とそれを保持する日本国民」がノーベル平和賞の有力候補とされたことである。狼狽した安倍総理、石破大臣は「平和賞は政治的」と口を滑らせた。語るに落ちるとはこのことで、佐藤栄作の墓前でそれが言えるのだろうか。
平和賞はパキスタンのマララさんらに決まり、両名は胸をなでおろしているだろう。しかし、マララさんも昨年最有力とされていたが受賞を逃しているのであり、「9条」が候補である限り改憲派は安心できないだろう。
この動きは国際連帯活動の優れた成果であり、今後もこうした取り組み、とりわけ沖縄からの発信が非常に重要となっている。(大阪O)
【出典】 アサート No.443 2014年10月18日