【投稿】大飯原発敷地内の「活断層」はシロか
福井 杉本達也
1 大飯原発「活断層」に「シロ」判断?
9月3日の各紙は大飯原発の敷地内断層を調べた原子力規制委の有識者調査団は9月2日評価会合を開き、関電が「F-6」と呼ぶ3、4号機の重要施設の下を通る破砕帯(断層)は「地盤をずらす可能性のある断層(活断層)ではない」との認識で一致したと報じた。これを受け規制委は5日、3、4号機の定期検査後の再稼働に向けた安全審査を再開することを決めた。昨年10月から3回の現地調査と、5回の会合を重ねてきたが、有識者の間で見解が一致せず、1年間、決着が見られなかった。国内の6つの原発で進められている断層調査の中で、活断層の可能性を否定するケースとなった。報道で特に注目されたのは、大飯原発敷地内の「活断層」の疑いを早くから指摘していた変動地形学の渡辺満久東洋大教授(「大飯原発直下・破砕帯 県に調査求める」福井新聞2012.6.2)を含む有識者調査団全員が「活断層」ではないという見解で一致したという点である。
評価会合で争点となっていたのは、3、4号機用の非常用取水路の真下を横切る断層が活断層か否かであった。関電は今回、敷地を南北に走ると推定される「F-6」破砕帯を切る形で、1、2号機のすぐ北西背面の山頂に南西―東北方向の長さ150m・深さ約2mのトレンチ(溝)を掘ったが、山頂であるため当然ながら上層部には地層がない。そのため応力場等を考慮して活断層かどうかを判断せざるを得ない。これは渡辺氏の専門分野外である。有識者の1人・構造地質学の専門である重松紀生産業技術総合研究所主任研究員が活断層の可能性を否定したので、渡辺氏と他の有識者は重松氏の意見を尊重したという流れである。
2 関電が恣意的に活断層評価の「土俵」をずらし、「F-6破砕帯」を“幻”に
原発施設の下を横断しているため、「F-6破砕帯」の調査は容易ではない。関電は、「Fー6破砕帯」の北端、原発から約200メートルの海沿いにある「台場浜」付近にトレンチを堀り、調査団は2012年11月2日に現地調査で断層を確認した。渡辺氏らは台場浜トレンチの断層について、「将来の活動性が否定できない」=活断層ではないかという見方を強く持ったが、「地すべり」を主張する岡田篤正氏(立命館大学)らと意見が対立した。 しかし、これを受け、朝日新聞など各紙は「運転停止し詳細調査を」と主張した。
ところが、関電はこの2回目の評価会合で、それまでとは全く異なる主張を繰り広げた。「F-6破砕帯」の位置が異なっていたというのである。だがこの報告はほとんどマスコミでは報道されなかった。唯一、福井新聞だけが「関電は説明で、F-6断層が想定よりも東側を走り、900メートルとしていた長さも600メートルと修正した」(福井:2012.11.8)と記事にした。「F-6破砕帯」は大飯原発2号機と3号機の間の敷地中央から北の海沿い台場浜の方向に伸びるのではなく、北北東方向にずれており、しかも海にまでは達せず1、2号機背面の山腹の途中までで終わっているというのである。「F-6破砕帯」はそもそも、1980年後半、大飯3、4号機の設置変更許可申請時に、関電が自らの調査によって示したものだった。それを、今になって、断層はそこにはなかった、「F-6破砕帯」の位置が違うというのである。これまでの「F-6破砕帯」は“幻”であったというのである。関電のこの活断層調査の「土俵」自体を自らの都合の良いようにずらした報告書により、台場浜トレンチとの関連性は葬り去られた。台場浜のトレンチで発見された地層のずれが「活断層」の痕跡であろうが、「地滑り跡」であろうが「F-6」破砕帯の方向とは違う場所であるということで評価の対象外となってしまったのである。活断層評価の争点は関電が「F-6破砕帯」の「土俵」を東側にずらした非常用取水路の下に見つかった新しい断層一本に絞られ、結果的に「F-6破砕帯」全体が活断層ではないと否定されてしまったのである(参照:IWJ Independent Web Journal 「渡辺満久東洋大学教授インタビュー」 2013.9.3)。
3 活断層の「松田時彦の式」の誤用
原子力発電所の設計の基準では、近くにある活断層を調べて、その活断層が起こす最大の地震を想定して、それに耐えるようにしている。原子炉、炉心冷却装置など放射性物質を内蔵している機器は、このような限界地震に襲われて、機器が変形してしまっても、安全機能を保持すること。つまりその場合でも、最悪の事故だけは回避せよと求めている。 そのため、建設地の近くにある活断層の長さを見積り、その長さから、地震地質学者で東大地震研究所の松田時彦氏が作った「松田式の計算式」を使って、将来起こりうる地震のマグニチュードを計算して、M6.5におさまるかを確認している。しかし、この松田の式は、曖昧さが大きくて実際に起こりうる地震よりも、ずっと小さなマグニチュードが計算される場合もある。松田氏は、過去に活断層が起こした地震のマグニチュードと、それぞれの活断層の長さについて、横軸にマグニチュード、縦軸に活断層の長さをとって相関関係を研究した。雲のようにぼんやりとした形ながら右上がりの傾向が読みとれる。最小二乗法のようなデータ処理の手法で、この雲全体にいちばん当てはまる右上がりの直線を描いて、それが「マグニチュードと活断層の長さの関係」の式とされているのだが、いかにもデータが少ない。しかも、いったんこの式が出来てしまえば、「活断層の長さが分かれば、その長さからマグニチュードが計算できてしまう」ことになるのだが、実際は小さな地震が起きることもあり、ずっと大きな地震が起きる可能性もあり得る。つまり長さ何キロの活断層があるからマグニチュードがどのくらいの地震しか起きないとは言えない。さらに、一般的には活断層の長さが長いほど大きな地震を起こす。ところが実際の活断層は途切れたり、曖昧になったり、枝分かれしたりしながら、延々と続いていることが多い。その活断層のうち、どれだけの長さの部分が関与して地震を起こすかという判断は学者によって大幅に違う(島村英紀『「地震予知」はウソだらけ』・『人はなぜ御用学者になるのか』)。
4 大飯原発で活断層3連動地震も
原子力規制委は10月2日、大飯・高浜2原発の周辺を通る3つの活断層(高浜原発北20キロ沖の海底断層「FO-B断層」・高浜原発沖から大飯原発のすぐ北東・小浜湾の入り口にまたがる海底断層「FO-A断層」・大飯原発の東南東・小浜市から若狭町にまたがる「熊川断層」)について、関電の連続せず、連動して地震を起こさないという報告を認めず「都合のいい解釈をしている」と批判した。関電の調査では「FO-B断層」・「FO-A断層」・「熊川断層」はそれぞれ切れており連動して動くことはないとしているが、「FO-A断層」と「熊川断層」の間の小浜湾の海底調査はおざなりとなっている。これらの断層が連動して動けば総延長は63キロにもなり、“幻”の破砕帯の1本は否定されたものの、大飯原発敷地内にあると思われる無数の破砕帯も連動して動かざるを得ない。また、敷地海岸沿いの台場浜は場所によって海岸線の高さが異なっているが、これは海底の大きな断層が動き、土地が隆起した証拠である。海底断層が動いた時に、敷地がかなり隆起して傾くこととなる。その時大飯原発は耐えられるのか。
【出典】 アサート No.431 2013年10月26日