【投稿】暴走する安倍軍拡
<「ガイドライン」の裏側>
10月3日、東京で日米の外務・防衛4閣僚による安全保障協議委員会(2+2)が開催され、戦時における自衛隊と米軍の任務を定めた「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)の1997年以来の再改定を2014年末までに完了させることを柱とする共同文書が発表された。
今回の「2+2」で安倍政権は、尖閣諸島周辺での中国の活動に対抗する緊密な日米同盟を、喧伝することを目論んでおり、岸田外相は終了後の記者会見で、「尖閣諸島が日本の施政下にあり、いかなる一方的な行動にも反対する力強い立場が表明された」と強調。
さらに安倍総理もケリー国務、ヘーゲル国防両長官と首相官邸で会談、「日米同盟の強い絆を内外に示すことができた」とアピールした。
共同文書では、安倍政権が進める集団的自衛権行使解禁や防衛大綱の見直しなどについて、アメリカは「歓迎し、緊密に連携していく」とした。しかし「日米同盟の強い絆」が本当に存在し、オバマ政権が安倍政権の動きを評価しているか疑わしいものがある。
この間アメリカは、シリア内戦で化学兵器使用を使用したアサド政権に対する軍事攻撃を企図したが、国内外の反発で断念せざるを得なかった。さらに核開発を進めるイランに対しても、軍事的圧力ではなく外交交渉による解決へと方針を転換しつつある。
アメリカが最重要視している中東地域でさえ、このように軍事的プレゼンスは弱体化していっている。これに関してはアラブ世界一の「親米国」であるサウジアラビアが、抗議の意として国連安保理の非常任理事国への就任を拒否するという前代未聞の事態が起こり、アメリカの威信は大きく低下した。
これに拍車をかけたのが、長期化した連邦予算と債務上限法案の店晒し状態である。この影響は多方面に及んだが、日本関連では10月15日から宮城県で実施予定であった陸上自衛隊とアメリカ陸軍の共同演習が中止になった。
8日からの滋賀県におけるオスプレイを投入しての陸自、海兵隊による共同訓練は、かろうじて実施されたが、オバマ大統領のAPEC出席中止で「アジア重視」の底が見えたのと同様に「同盟の強い絆も金次第」というお寒い実態が明らかになった。
さらに深刻なのは、アメリカが主体的に準備したシリア攻撃は、巡航ミサイルと限定的な空爆という、自軍の戦死者を出さないことを前提とする計画にもかかわらず、実施できなかったということである。
アメリカ政府は、イラク、アフガンで泥沼化した地上戦の教訓から、極力犠牲者を抑えるため、武装勢力に対し同地域やパキスタンで無人機による攻撃を常態化させている。
先日明らかになった国連人権委員会が委託した実態調査の中間集約によると、2004年以降の米英、イスラエルの攻撃により、パキスタンなど3カ国で2千人以上が殺害され、民間人の犠牲者も500人弱に上るという。今後最終報告が提出されれば死者数はさらに増加し、アメリカに対する批判も一層強まるだろう。アメリカはますます「戦争のできない国」になりつつあるのである。
この様な状況の中では「尖閣諸島に上陸した中国軍をオスプレイに乗ったアメリカ軍が殲滅してくれる」という想定が、いかに非現実的かがわかる。アメリカは、自国民のほとんどすべてが名前も位置も知らない無人島に流す血など一滴も持ち合わせていない。
今回の「2+2」でも確認されたのは、確固たる領有権ではなく、あいまいな「施政下」という表現である。
さらに「いかなる一方的な行動」という表現も、現在中国政府が行っている公船による一時的な領海侵犯を含むと解釈するには無理がある。これは逆に言えば、現レベル程度の中国の活動は容認すると言っているのと同じであろう。
日本政府も尖閣諸島だけではアメリカ軍を引っ張り出せないことは百も承知で、中国軍の侵攻想定地域を与那国、石垣など先島諸島から沖縄本島まで拡大させている。
最近では、中国軍侵攻の呼び水として右派論壇が「琉球独立論」をやり玉に挙げており、「オスプレイ配備に反対する沖縄県民=国賊」とのヘイトスピーチもネット上を中心に拡散しつつあり、これを放置する政府も同罪であろう。
2+2でも、沖縄の負担軽減策として、本島東側のアメリカ軍の海上、空域訓練区域の航行制限の一部解除や、返還予定の米軍基地への、地元自治体職員の立ち入りを認めることなども盛り込まれたものの、「辺野古移設」は既定路線であり、真の負担軽減には程遠い。
日本政府は集団的自衛権行使解禁によりアメリカに恩を売り、その分を対中国で返してもらおう、と目論んでいるのが露わであり、オバマ政権の警戒感を高めているのが現状である。
<進む外征準備>
安倍総理は、9月の国連総会などで「積極的平和主義」などという歯の浮きそうな美辞麗句で、真の意図を覆い隠そうとしているが、この間の具体的な動きを見れば衣の下の鎧は隠しきれるものではない。
安倍総理の指示で置かれた、政府内に外交・安保に関する二つの懇談会では積極的軍拡に向けての議論が着々と進んでいる。
それは、「国家安全保障戦略」を策定するとともに、新防衛大綱策定を進めるための「安全保障と防衛力に関する懇談会」(安防懇)であり、集団的自衛権行使解禁のため実質改憲を合理化する「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)である。
このうち「安保法制懇」は16日、総理官邸で第3回となる会合を開き、自衛隊の活動を拡大すべき五つの具体例を安倍総理に提示した。
それは①米国を攻撃した国に武器を供給する船舶に対する強制検査 ②近隣有事での集団的自衛権行使や集団安全保障への参加 ③国連決議に基づく多国籍軍への参加 ④日本への原油輸送に関わる海峡封鎖時の機雷除去 ⑤領海侵入した他国の潜水艦への実力行使という、専守防衛を完全に逸脱し海外での武力行使に道を拓くものとなっている。
こうした指針に対応する、自衛隊の編成、装備の更新も次々と明らかになっている
防衛省は12月に策定する新防衛大綱に、陸上自衛隊に「水陸両用団」(仮称)の設置を盛り込むことを固めた。
この部隊は離島などの防衛を任務として2002に新設された、陸上自衛隊西部方面普通科連隊(長崎県佐世保市、700人)を基幹として、14年度に準備隊を立ち上げ、15年度に発足、将来的に3千人規模に増員するとしている。同部隊に配備される、アメリカ製の水陸両用装甲兵員輸送車の取得も予算化されている。
また防衛省は9日、新型の装甲戦闘車両である「機動戦闘車」の試作車を神奈川県の同省施設で報道関係に公開した。
この8輪で走る車両は、離島防衛や市街地での対ゲリラ戦闘などで使うことを想定したとして、中国軍の戦車を撃破可能な105ミリ砲を装備しながら、C2次期輸送機にも搭載可能な26tで、戦闘地域への迅速な展開が可能とされている。
これらの部隊、装備は、島嶼防衛を理由にすれば予算が通る現在の状況を利用した陸自の権益拡大である。対中国では海自、空自の後塵を拝している陸自が、先に述べた政府の侵攻想定地域拡大と二人三脚で演じているパフォーマンスである。
水陸両用団はアメリカ海兵隊をモデルにしているというが、外征軍である海兵隊は、海軍との一体運用のもと専用の艦艇(強襲揚陸艦など)と自前の航空隊を保持しており、陸自の部隊が海自の揚陸艦に乗るという現在の運用構想では本家と程遠いものがある。今後、米海兵隊に近づこうとするほど、海自、空自との摩擦が起こるだろう。
「機動戦闘車」も「戦車は船でしか運べないので先にC2輸送機で運ぶ」としているが、「中国軍が占領している島」に輸送機は近づけないし、それ以前にC2が着陸できる滑走路が先島諸島にはほとんどない。
いずれにしても、「水陸両用団」も「機動戦闘車」も島嶼防衛で使われることはないだろう。英米のみならず、フランス、イタリアなど諸外国におけるこうした部隊、装備の投入例は、海外領土、旧植民地での治安維持や武装勢力の鎮圧、さらにはPKFなどであり、実例からそれらの用途も明らかになっていくだろう。
安倍総理は今後起こりうるであろう、批判や反対の動きを封じ込めるため、戦時体制指導部たる国家安全保障会議(NSC)の設置や、政府が恣意的に指定した「特定秘密」をマスコミなどに伝えた公務員や報道関係者を厳しく処罰する「特定秘密保護法案」の成立も目論んでいる。
さらに、安倍総理は中国、韓国、アメリカなどからの懸念をよそに「私を右翼の軍国主義者と呼びたいのなら、どうぞ呼んでほしい」と開き直り、19日には福島県相馬市で「第一次安倍政権で靖国公式参拝ができなかったのは痛恨の極み」と述べ、挑発的言動を繰り返している。
臨時国会で平和勢力には安全保障問題に関しても、安倍政権を厳しく追及することが求められている。(大阪O)
【出典】 アサート No.431 2013年10月26日