【本の紹介】日本経済の憂鬱–デフレ不況の政治経済学–
佐和隆光 ダイヤモンド社 2013年6月27日 1600円+税
アベノミクスとは一体何なのか。政権が変わるだけで、円安になり、株が上がり、経済がよくなったのか。いろいろな「アベノミクス関連本」を読んできた。今回、紹介する本を読み、これが一番的を得ているのではないか、と感じたので、紹介したいと思う。
<自民党のポピュリズム的選挙戦略>
「アベノミクスはあやうい。ねらいは、小泉構造改革との決別、そして国家資本主義の復活なのだ。」これが、本の表紙に書かれている。
本書の構成は、まず前政権である民主党政権の敗北の要因分析で始まり、次にアベノミクスの解明という展開である。
「・・・3年3ヶ月間、政権の座にあった民主党は、長引く経済停滞に不満を鬱積させた有権者の『声なき声』を聴きとるに足る感性を持ち合わせていなかった。2009年衆議院選挙の民主党マニュフェストは、リベラル色を鮮明に打ち出していたのだが、その中身は分配面の施策に片寄りすぎており、欧米のリベラリストがもっとも重視する経済成長や雇用への配慮を欠いていた。・・・一言で言うと3年3ヶ月つづいた民主党政権の『経済無策』こそが最大の敗因だったと、私は考える。」(P12)
一方、自民党は「機を見るに敏だった」。経済無策の民主党の虚をついた。自民党の公約は「経済を取り戻す」「安心を取り戻す」として、経済成長、社会福祉、雇用に関する公約が大半を占め、「デフレ・円高不況を克服する成長戦略を前面に打ち出した。」優れて、ポピュリズム的選挙戦略が功を奏した、と著者は語る。
小泉構造改革は、市場にすべて委ねるという意味で、新自由主義を純化させたが、安倍の経済政策・アベノミクスは、規制緩和等は含まれているが、「官主導」が明らかである。
<正体不明のアベノミクス>
「①日銀の独立性の侵害、②公共投資の大幅増額、③道路特別会計の復活、④国債の乱発、⑤高額所得者への増税、⑤日本企業の海外展開を支援する官民ファンドの創設・・など、(アベノミクスは)産業政策的色合いが濃いこと、そして「人からコンクリートへ」の資金のシフトを際だたせる一方、相続税の増税、高額所得者の所得税増税というリベラルな税制改革を組みあわせるなど、アベノミクスは、保守とリベラルと言う対立軸を超越した、経済成長至上主義に徹する経済政策にほかならない」(P27)と著者は分析する。
それは、小泉政権が、ぶっ潰そうとした古い自民党の復活でもある。
第四章日本経済の躍進と挫折、第五章日本経済はどこへいくでは、アベノミクスの三つの矢の分析や、個別政策の評価を行い、問題点を指摘されているが著者は、敢えてアベノミクスの評価を下していない。まだ、結果は出ていないという意味であろうか。
円安・株高で、高額所得者や資産家の支出は増えても、経済的弱者には、何の成果も出ていないこと、制限のない国債の乱発と金利上昇にどう対処するのかも、シナリオが示されていないことなど、まさに「アベノミクスはあやうい」と指摘される。
<民主党は、リベラル政党なのか>
アベノミクスの分析に続いて、日本の戦後政治の変遷、民主党の政権交代後の対応にも厳しい批判を展開される。私がすっきりした印象を持つのは、むしろこの部分かもしれない。「正統派リベラル政権ならば、まずは正規雇用の確保と賃金の上昇を第一義とし、そのために必要不可欠な経済成長に取り組み、消費税増税ではなく個人所得税の累進性を高めることにより財政赤字の縮減をはかりつつ、公共投資を誘い水とする内需誘発効果を発揮させ、国内総生産(GDP)の成長と拡大をめざすべきであった。」(P179)
それが出来ない民主党であって、リベラルと保守、そして新自由主義が混在した政党だったため、消費増税を巡り分裂も起こり、アベノミクスにも、一貫した批判と対案が打ち出せないのだろう。
「日本経済の憂鬱」との題名だか、政治の憂鬱も解明されているように思う。(2013-07-22佐野)
【出典】 アサート No.428 2013年7月27日