【投稿】国家・官僚の無誤謬神話と「核兵器開発宣言」クーデター

【投稿】国家・官僚の無誤謬神話と「核兵器開発宣言」クーデター
                            福井 杉本達也 

1 日本存亡の危機に「事務系だから」と敵前逃亡した無能国家官僚
 前原子力・保安院長であり福島原発事故対策本部事務局長であった寺坂信昭は福島原発事故対応の真っただ中・東日本大震災発生の当日3月11日午後7時すぎ、原災本部初会合終了後官邸を去り、保安院に戻ってしまった。事務方のトップが職務放棄したことに対し、彼は今年2月の国会事故調の参考人聴取で次のように答えている。
 
○参考人(寺坂信昭君)「私はどうしても事務系の人間でございますので、これだけの非常に大きな事故、技術的な知見というものも極めて重要になってくる、そういった中で、私が残るよりも、官邸の方に技術的によりわかった人間が残ってもらう方がいいのではないかというふうに、これは私自身が判断いたしまして、私が原子力安全・保安院の方に戻った次第でございます。」
○野村修也君「私はちょっとびっくりするのですけれども、原子力の規制行政庁のトップは原子力についての知見を持たない方がなっておられるということなんですか。」
○参考人(寺坂信昭君) 「知見といいましょうか、今私が申し上げましたのは、私は原子力工学その他、理科系のそういう訓練といいますか学問を積んで、それで原子力安全行政をずっとやってきたということではないということでございまして、もともとは事務的な者でございまして、次長のときに初めて原子力安全行政を担当した、そういうことでございます。」(2012.2.15 「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会会議録第四号」・寺坂信昭前保安院長発言部分)
 寺坂の敵前逃亡の行為は国家公務員法第82条第1項「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」に該当し明白に懲戒の対象である。しかし、処分を受けたと言う話は寡聞にして知らない。しかも、職務放棄の言い訳が“事務系”だからという答えに委員の野村修也は言葉を失った(産経:2012.4.24)。正に官僚の無責任体質を地で行く人物である。こんな人物を代々トップに据える保安院が、「原子力規制委員会ができるまでは安全審査はうちの領分である」と大飯3.4号機の再稼働を認めた。我が国家は落ちるところまで落ちたといわねばならない。

2 国家・官僚は“無誤謬(むごびゅう)”-何があっても誤りを認めない
 自治官僚出身の西川一誠福井県知事は大飯原発再稼働に当たり、「政府がぶれることなく国民にメッセージを示して欲しい」との首相に会見をせまった(朝日福井紙面:6.18)。「ぶれるな」とは何があっても誤りを認めず、過去の政策を踏襲せよということである。 元経産省官僚の古賀茂明氏は「役人には非常に無謬性とかいう言葉でよく言われるんですけど、間違い認めないんですね。…もう1つ非常に欠けてるのは責任をとらない。…失敗したら誰が責任取るんだってことを考えているうちに…後手に回る」(文化放送:2011.10.19 「吉田照美ソコダイジナトコ」)と述べている。
「綸言汗の如し」(りんげんあせのごとし=皇帝の発言は、かいてしまった汗のように体に戻すことができない)とは、皇帝が一旦発した言葉(綸言)は取り消したり訂正することができないという中国歴史上の格言である。皇帝など国家の支配者の発言は神聖であり絶対無誤謬性を有するとされ、臣下が疑念や異議を差し挟むことは不敬とされた。 このため、一旦皇帝より発せられた言葉は仮に誤りがあっても、それを訂正することは皇帝が自らの絶対無誤謬性を否定することになり、皇帝の権威を貶めてしまうためタブーとされたのである(参照:Wikipedia)。「役人は先例があれば安心し、先例の見直しは、よほどの外圧がかかるまではしない。政治が変われど、行政の継続性が大切であるというのである。先例に誤りがあっても、役人無誤謬論で、敗戦のさいの国体護持のごとく、先例を護持する。」(阿部泰隆中央大教授『こんな法律はいらない』)。

7/16さよなら原発10万人集会より

3 原子力基本法の改悪はあからさまな「核兵器開発宣言」―宮廷クーデター
 6月20日、この官僚国家は原子力規制委員会設置法の附則第11条として密かに「前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。」という原子力基本法第2条の法の「(基本方針)」を根底からひっくり返す改正条文を忍び込ませ、前代未聞にも「個別法」の附則で「基本法」を改正する挙に打って出たのである。「基本法」とは、国の制度・政策に関する理念、基本方針が示されているとともに、その方針に沿った措置を講ずべきことを定めている法律である。その基本方針を受けて、その目的・内容等に適合するように行政諸施策が定められ、「個別法」(例えば今回の「原子力規制委員会設置法」)にて遂行される。基本法は「親法」として優越的な地位をもち、他の法律や行政を指導・誘導する役割がある(参照:Wikipedia)。当法案は議員立法で提案されたものであるが、附則の改正で本法を改正するなどという裏技を議員ができるはずはない。これは官僚による暴挙・“宮廷クーデター”以外の何物でもない。いかに自らが信頼されていないか、国民とは分離した存在であるかを暴露した。
「安全保障に資する」とはどう読もうが“軍事目的”と言うことであり、すなわち核兵器を開発するという意味である。「原子力の平和利用」という名の下、1955年以降密かに核兵器の開発を進めてきた日本国家は、福島原発事故において、「平和利用」に説得性がなくなったと見るや露骨に居直り、あからさまに核開発の宣言を対外・内的に行ったのである。同日成立した、宇宙航空研究開発機構(JAXA)法は、「平和目的に限る」との規定を削除し、安全保障目的で人工衛星などを開発できるように改正した。核弾頭と運搬手段のミサイル開発の合法化により、名実とも日本の「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まない」(佐藤総理答弁 1967年12月11日:外務省HPより)という非核三原則は放棄された。

4 日本を滅亡に追い込む官僚機構の核政策
 2009年の民主党を中心とする連立政権は日本史上初めて選挙による民主主義が実現したと評価された。あれから3年、この党は官僚に乗っ取られてしまった。最初は検察特捜部の小沢捜査に始まり、鳩山氏の贈与問題と普天間問題で官僚機構に手玉に取られ全面降伏した。その後政権人事に介入し、「脱原発」に踏み込み官僚機構を裏切った菅首相下ろし、「最後の言葉はオフレコです。絶対書いたらその社は終わりだから」の松本龍前復興長官発言、鉢呂前経産相の「放射能つけちゃうぞ」発言などで官僚に都合の悪い政治家をどしどし排除した。一川保夫前々防衛大臣・田中直紀前防衛大臣の“失言”をあげつらい、自衛官→外務省上がりの森本敏氏を防衛大臣に担ぎ、オスプレイの普天間・岩国配備にやっきとなっている。「米政府の基本方針で『どうしろこうしろ』と言う話ではない」(フジテレビ:6.16)と野田首相は自らの言葉を持てず親米派官僚の操り人形となっている。極めつけは、陸山会事件で虚偽捜査報告書を作成した検察特捜部を不起訴処分にしたことである。 4月26日の東京地裁小沢氏無罪判決の中でも検察による虚偽の捜査報告書の作成及び検察審査会への送付は厳しく批判されている。しかし、腐りきった検察官僚機構を指揮権発動によって正そうとした小川敏夫前法相を逆に首相は解任してしまった。
 西川知事のように「ぶれることなく」原発を推進し続ければ、日本は早晩地球上から消滅することとなるであろう。原発敷地内を通る活断層。福島第一内の大量の放射性物質はどうするのか。16万人もの避難住民はどうするのか。
 武田邦彦氏は日本の指導層の「ぶれない」核政策を以下のように整理している。「1)日本の産業と軍事(核武装)を発展させるためには原子力を進めなければならない、2)しかし原爆を落とされた日本では原子力を進めるのは国民の抵抗が強い、3)そこで国民に2つのウソをつく必要がある、4)一つは原子力を平和利用に限ると約束する、5)もう一つは原発が安全だと約束する、6)並行して核武装のために遠心分離器によるウラン濃縮と核廃棄物が2.6倍になる再処理をして原爆用のプルトニウムを得る」(武田HP 7.17)、これに7)もんじゅを運転再開して純度98%のプルトニウム239を得る、8)原発が危険と知れ渡ってしまったので、平和利用というウソをやめて公然と核武装を宣言する。が付け加わる。
 東日本の大半を放射能で汚染させ、東京3,000万人が避難の瀬戸際に追い込まれても何もなかったかのように平然と振る舞う官僚機構。「放射能の直接影響で亡くなった方は1人もいない」とうそぶく中部電力の課長職(意見聴取会7.16)。「日米原子力共同体」を掲げる寺島実郎(『世界』2012.6)。そして外務・文科省官僚を中心に日本の核武装化へと公然と歩み始めた。しかし、核の先の悲劇は見えている。官僚機構はヌエ的存在である。選挙で落選することもなく、捜査報告書を偽造して冤罪事件を起こしても免職されることもない。勝手に法律を自分の都合のいいように改悪し、選挙で国家の頭部を奪取しても官僚機構に乗っ取られる。
 毎週金曜日・首相官邸前の脱原発行動が行われ、前例なき「革命」となっている(朝日:7.18)が、本来の姿を見せない敵に対しどのような行動を取るかは今後の課題である。 
 【出典】 アサート No.416 2012年7月28日

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