【投稿】修正加速するアメリカの世界戦略と東アジアの情勢
<一方的な移転計画変更>
この間複数のメディアが、沖縄駐留米海兵隊のグアム移転について、「アメリカ側が当初の計画を変更、沖縄に司令部を残し、戦闘部隊を多めにグアムに移駐させる方向」と報道している。
これまで2006年のロードマップで示されている、海兵隊8千人と家族9千人のグアム移転については、第3海兵機動展開部隊(3MEF)司令部とその要員が中心とされていた。
つまり、司令部は後方にさがるが、戦闘部隊基幹は引き続き沖縄に駐留し、「抑止力」を発揮するものと捉えられ、新旧の日米両政府もことある毎にそれをアピールしてきた。
ギリギリまで普天間基地の県外、国外移設にこだわった鳩山前総理も最後には「沖縄に駐留する海兵隊の抑止力が重要なことを学んだ」などと発言、辺野古移設を合理化する口実としていた。
ところが、去る5月28日、日米安全保障協議委員会(SCC)=日米2+2(外務、防衛閣僚=岡田外相、北澤防衛相、クリントン国務長官、ゲーツ国防長官)が連名で発表した日米共同声明ではアメリカ側の要求でその部分が微妙な表現となった。
声明では「両政府は、09年2月17日のグアム協定(在沖縄海兵隊のグアム移転に係る協定)に従い、3.MEFの要員・・・の沖縄から米領グアムへの移転が着実に実施されることを確認した・・・米側は、地元の懸念に配慮しつつ、抑止力を含む地域の安全保障全般の文脈において、沖縄に残留する3.MEFの要員の部隊構成を検討する」と書かれている。
「抑止力を含む地域の安全保障全般の文脈」とは、駐留理由において「抑止力」が絶対要件ではなくなり、トータルな観点=アメリカの都合で、残留部隊を決めると言うことであり、「地元の懸念に配慮」とは沖縄の事情も考えてますよ、というリップサービスと変更は日本のせい、というだめ押しである。
日本政府が必死になって説明してきた、海兵隊の沖縄駐留理由を否定するような事を突然アメリカ側が言い出してきたわけである。
移転部隊の差し替えについて詳細は明らかになっていないが、司令部に変わり戦闘部隊数千人程度を追加し、現在普天間に駐留する問題のヘリ部隊も移転する可能性があるという。そうなれば、代替施設を辺野古近辺に建設する必要性はますます薄れていき、これまでの議論は白紙に戻るかも知れない。
<アフガンが最重要>
こうした決定の背景にあるのは、世界的な米軍再編=トランスフォーメーションに基づくアメリカの世界戦略と「対テロ戦争」が、とりわけアフガン情勢の悪化に直面し修正を余儀なくされ、この影響が、「脅威」の見積もりに於ける日米韓のギャップが存在している東アジアに及び「同地域軽視」として現れていることである。
アフガン情勢については深刻な事態になりつつある。オバマ政権は今年2月「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)を発表。これまでの2正面作戦を見直し、アフガン最優先の戦略を打ち出した。
これに沿って「立つ鳥後を濁す」ようにイラクからの撤退を進める一方、アフガンに対しては来年からの撤退をスムーズに進めるため、今年中にタリバーンとの「決着」を付けようと増派を進め、この春からアフガン軍と共同で大規模な軍事作戦を展開しているが、状況は芳しくない。
こうしたなか6月末には派遣軍の司令官であるマクリスタル陸軍大将が、雑誌のインタビューでアメリカ政府批判を展開。激怒したオバマ大統領に召還されたうえでの「辞表提出」という事実上の解任処分を受けた。
現在、アメリカ軍はカンダハル制圧に向けた準備を進めているが、タリバーンの巧妙な戦術に翻弄され、消耗戦を強いられている。対ソ連用に構築された空母打撃部隊や戦略空軍は、アフガン戦争、イラク戦争の緒戦では威力を発揮したが、本格的な非対称戦争のでは、有効な戦力にはなっていない。
<中国とは妥協と協調>
QDRによれば、中国について「潜在的な敵国に関する記述」で、北朝鮮などとともに触れ、「攻撃型潜水艦や空母の建造、コンピューターネットワークや宇宙空間での攻撃能力向上など・・・で近代化を進めている」として「そうした近代化の長期的意図が何なのか疑念を生んでいる」と指摘しているが、正面とは位置づけられていない。
この間の「チョナン」爆沈を巡るアメリカの動きをみれば明らかで、QDRの表現とは裏腹に、中国に対する配慮を押し出した行動を見せている。
当初6月上旬にも黄海で予定されていた米韓合同演習は、国連安保理の動きを見ながら、規模や日程も明らかにされない中、ズルズルと延期。そうするうちに7月9日に、国連安保理議長声明が明らかになった。
アメリカと中国の妥協による声明は「46人の人命損失を招いた攻撃を非難する」として沈没の原因が「攻撃」であることを認めたものの、攻撃の主体については言及しないという、曖昧な表現のものとなっている。
こうした決着を見越し、中国は本誌390号で指摘した「何らかの反応」として黄海での米韓合同軍事演習に断固反対することを再三にわたり表明、7月15日には東シナ海でミサイル演習を実施した。
これらの動きを受け、アメリカも当初の計画を変更。演習自体は行うものの黄海と日本海に分散、懸案となっていた原子力空母「ジョージ・ワシントン」は黄海には入らない方向となっている。
これらは、韓国と同国に対する「全面支持」を打ち出した日本政府から見れば明らかに弱腰であり、とりわけ韓国にとっては、先の国連議長声明とともにフラストレーションのたまる内容となっている。
<はしごを外すアメリカ>
韓国に対しては、現在アメリカ軍が持っている韓国軍の指揮権である作戦統制権の韓国への移管について、当初予定の2012年4月から約3年半延期することで、引き続き韓国防衛に責任を持つ姿勢を示した。
しかし在韓米軍については、一時アフガンへの派遣が検討されるなど、ここでもアメリカの都合が露骨に見え隠れしている。普天間のヘリ部隊などは、アフガン派遣で定数割れが常態化していといわれており、日本の期待とは違い、中国や「テロ支援国家」再指定が見送られた北朝鮮への対応など2の次であることが判る。
それでは、アフガン情勢が好転し、撤退が順調に進めば東アジアが「作戦正面」=戦闘部隊の貼り付け対象になるかといえば、そうはならないだろう。トランスフォーメーションにおける在外駐留兵力の引き上げは既定事実で、韓国軍の指揮権移管延期などはあるものの、QDRでの実戦部隊の前方展開戦略の見直しはそれを加速化させる形となっている。その具体的な形はアメリカ政府が、今年末をめどに策定を進めている「世界規模の兵力構成見直し」(GPR)で明らかになるだろう。
現在菅政権は、日米合意の着実な実行を表明し、辺野古移転を推進しようとしているが、民主党政権にとっては2階に上がってはしごを外されたような事態となるだろう。参議院選挙において沖縄で示された民意を踏まえ、空洞化しつつある日米同盟の見直しをすすめることこそが求められている。 (大阪O)
【出典】 アサート No.392 2010年7月24日