【投稿】鳩山政権:驕りと軽挙・軽薄な政治への警鐘
<<「私の不徳の致すところ」>>
「迷走」という言葉がそのまま当てはまるような鳩山政権の右往左往は、有権者から厳しい審判を突きつけられている。
先月2/21の長崎県知事選の結果は、民主党候補の大敗であった。民主党は、昨年夏の総選挙で県内4小選挙区すべてで勝利し、選挙区選出の参院議員2人も民主党が占める民主独占県であったにもかかわらず、そして4選に意欲を示していた元自民党衆院議員の金子知事が戦意を喪失、昨年11月、不出馬を表明、慌てた自民党県議団の民主党への相乗り一本化要請を拒否して、「県政にも政権交代を」とあえて絶対有利な、負けるはずがない対決を望んだにもかかわらず、9万票を超す大差で敗北。
鳩山首相はこの選挙結果について「厳しかった。やはり国政の影響があったことは否めない。政治とカネの問題が影響を受けたと思う。このことに関しては、私どもは真摯に受け止める必要がある」と語ったが、小沢幹事長は「私の不徳の致すところで、大変申し訳ない。」と陳謝すれども「どんな状況でも自民党に勝つような政権党にならないといけない」と自らの責任問題を棚に上げる強気の姿勢を誇示している。
しかし選挙結果は、功を奏すはずであった小沢幹事長主導の露骨な利益誘導型選挙、組織選も通じなかったのである。選挙戦術にいくら老獪・巧みであっても、問われている政策選択で、前政権と代わり映えのしない、数で押し切る傲慢な利益誘導型選挙では有権者から見放されることの証左でもあろう。
同じ2/21の東京都・町田市長選においても、昨年の都議選、総選挙で民主党候補が躍進した選挙区でありながら、民主、社民、国民新推薦の候補が大敗し、続く翌週2/28の沖縄県・石垣市長選においても民主、共産、社民、沖縄社大推薦の現職候補が自・公推薦の新人候補に大敗している。長崎を含め、いずれにおいても自民党は弱体化し、回復不能なまでに得票力が格段に減衰しているにもかかわらず、この事態である。
<<危険水域入り寸前>>
三月に入ってからの世論調査では、鳩山内閣への評価は先月よりもさらに厳しい結果を突きつけられている。
内閣支持率が軒並み、30%台に突入しだしたのである。
共同通信社が3/6-7に実施した世論調査では、鳩山内閣の支持率は36・3%と、2月の前回調査より5・1ポイント下落し、昨年9月の内閣発足以来初めて40%を割り込み、発足時に72・0%だった支持率は半年でほぼ半減という事態である。不支持率は3・8ポイント増の48・9%。不支持理由のトップは「首相に指導力がない」であった。
読売新聞(3/5-7実施)調査では、内閣支持率は41%、不支持率は50%、小沢氏は幹事長を「辞任すべきだ」は78%、「衆院議員を辞職すべきだ」が68%にまで達している。
JNNの世論調査では、鳩山内閣の支持率は、37.7%、NHKの世論調査でも38%、時事通信の世論調査では、30.9%と、30%割れの危険水域入り寸前である。読売の調査でかろうじて41%であるが、このまま推移すれば、来月以降は内閣支持率が20%台に突入しかねない事態である。
さらに注目の夏の参院選について、「民主党が参院で単独過半数を占めない方がよい」と答えた人は、共同で58.6%、読売で57%、朝日新聞でも55%に達し、民主党単独過半数に拒否反応が示されている。
明らかに民主党への追い風は逆転し、逆風が鳩山内閣に吹き始めている。総選挙で民主党に勝利をもたらし、政権交代を実現させた民意、政権交代への期待は、鳩山政権ならびに民主党の実態にあきれ果て、見放されかねない事態に直面しているのである。
<<「斟酌する必要はない」」>>
半年ばかりの間になぜここまで悪化したのであろうか。それは、小泉政権以来の市場経済原理主義、福祉切り捨て・セーフティネット破壊政策からの転換、米ブッシュ政権の戦争政策への追随からの転換、「国民生活が第一」への「政権交代」を掲げた鳩山政権の誕生であったが、政権成立後の政権運営の実態は、この転換への期待を大きく裏切り、あらゆる政策遂行面において、政策転換の一貫性を欠き、右往左往し、旧来の自民党政権と変わらない混迷に陥っていることにあるといえよう。
まず第一に、鳩山政権の経済政策は、旧来の小泉政権と同じくあくまでも縮小経済政策、財政均衡第一主義にとらわれ、規制緩和と民営化路線をそのまま引き継いでいることにある。そのために、セーフティネットの新たな再編・構築、失業・雇用対策、中小企業対策、環境保護対策、社会資本整備対策に大胆に予算措置をするニューディール政策を打ち出すことができず、すべてが中途半端なけちけち作戦に終始してしまい、誰もがそこに不況脱出への期待をかけられなくなってきているのである。任期中は上げないと公約していたはずの消費税を、半年もたたないうちに、それを引き上げることが危機脱出の出口であるかのような議論誘導を画策し、問い詰められると、右往左往してお茶を濁すあいまいな政治姿勢が見抜かれてしまっているのである。
さらに、対米追随・戦争協力政策からの政策転換についても、鳩山政権の姿勢が前政権とは異なる積極的な平和政策の推進であるという政治姿勢がまったく打ち出されておらず、東アジア共同体構想などは事実上忘れ去られてしまい、積極的具体的な平和外交がほとんどなされていない。逆に軍事基地の強化拡大につながる米軍事政策への追随をあくまで堅持することに最大限の配慮を払い、米軍普天間基地の移設問題をめぐっては、沖縄県民の意思など「斟酌する必要はない」と土地の強制収用を匂わせてまで居直る官房長官の姿勢が際立つ、その底意があからさまな政治姿勢が明瞭になっている。それぞれの閣僚は定見の定まらない得手勝手な発言を繰り返し、首相はそれらを打ち消すことを繰り返し、注意はおろか、指導力さえ発揮できない事態がここでも見透かされているのである。
<<「超のんきな性格でございます」>>
平和と「友愛」、人権と人道に反する極めつけは、高校無償化対象から朝鮮学校を除外するなどという、民族差別と憎悪を煽動するような措置を、鳩山首相自身が容認し、発言が二転三転した結果、「第三者委員会」なるものの判断にまかせるという責任逃れの政治姿勢である。火をつけた中井洽拉致担当相は、首相が衆院予算委員会で、朝鮮学校の生徒と面会する意向を示したことに触れ、「総理は人がいいから、人に会うと、すぐちゃっと迎合する。超のんきというか、総理のご性格でございます」と茶化すような人物であり、こんな不見識極まりない閣僚を首相は野放しにしているのである。
首相が閣僚に対して行った唯一の注意処分は、前原国土交通相に対してであるが、公表前の公共事業の「個所付け」情報を、国土交通省から民主党を通じて事前に自治体に漏洩させたものであるが、これなどは典型的な権力犯罪といえよう。幹事長室で取り仕切った陳情を利益誘導で恣意的に政権党に有利なように配分し、差配する、旧来の自民党政権が日常茶飯事に行っていたことをより露骨に、あくどく行ったものである。
こうした権力を握ったものに特有の驕りと傲慢、それを取り繕う軽薄で軽挙な言動、居直り、政権交代への意義をゼロにし、期待を打ち砕くような事態が誰の目にも明らかになってきていることが、現在の鳩山政権、民主党への逆風の正体であり、厳粛な警鐘とも言えよう。鳩山政権が発足してまだ半年しか経過していないにもかかわらず、政権自体の質的人的劣化がここまで明らかになっているとすれば、そしてそれでもなお「政権交代」への期待が存続しているとすれば、民主党には一刻も早い自己改革と再出発が求められている。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.388 2010年3月20日