【討論】総選挙結果について意見交換会(その1)
歴史的選挙となった第45回総選挙。政権交代が実現した歴史的な選挙となった。選挙直後の9月6日、在阪の編集委員が集まり、恒例の意見交換会を開催しました。以下は、それをまとめたものです。(文責:佐野)
恒例の意見交換会を開催します。歴史的な政権交代選挙となったわけですが、まず、それぞれの感想から始めたいと思います。
<公明党の大敗も大きな特徴点>
A)思った通りの結果でしたが、民主が290くらいまでかな、とも思ってました。320まではちょっとね。300越えればすごいということでしたが、結果は308議席ということですね。自民党が減るのは当然としても、公明党があそこまで大敗するとは考えてなかったです。非常に良いことなんですが。公明党が負けたということが印象的な選挙でした。
B)これまでは、民主党候補の事務所にお手伝いにいく程度だったのですが、今回は力を入れまして、推薦はがきをPTAの人脈などにお願いしてみたんです。その反応がすごくよかった。前の会長は創価学会のバリバリだったんですが、その人ですら、もう自民党ではやってられん、と言うわけですね。自民党と連立している矛盾が公明内部にもかなり広がっていることを感じましたね。比例はアカンで、ということでしたが、理解もしてくれました。要因はいろいろ言われてますが、自分の周りは新興の住宅地で、暮らし向きもそこそこと思っていたんです。でも、経済状況の影響は厳しくて、パート仕事を増やしたとか、教育費が大変、など住民の実感もかなり変化していたわけですね。子ども手当や高校無料化など受けていたと思います。昨日の朝日新聞ですが、高橋源一郎氏ですか、「これまで、自民党が家父長制の中で、親父であって、国民は妻であった。我慢していた妻だったが、前回の小泉郵政選挙があって、これなら離婚できると考えた。妻は気づいて今回親父に離婚届けを突きつけた。」との指摘をされていた。
老人政治家達の敗退を見て、私もそう同感ですね。
<小泉劇場とは質的に違う>
C)前回は「小泉チルドレン」で、今回は「小沢チルドレン」と報道されています。前回は、確かに劇場型選挙と言われた状況があった。しかし、今回は、日本のあらゆるところ、都市部でも地方でも、国民諸階層の中で市場原理主義の破綻が明らかになっていたわけですね。社会保障を毎年2000億円削減するとか、派遣切りに代表的なように社会のセーフティネットが崩壊している状況があった。昨日の自民党の会議では、茨城の代表が言うわけですが、白衣を着た医者や看護師が民主党の宣伝をしていた。2000億を減らして勝てるはずがないと。前回の劇場型とは質的に違う社会的広がりがあって政権交代が起こったと考えるわけです。
D)この会議ではいつも選挙制度を問題にして発言しています。中選挙区論者なんですが、ただ今回の選挙は中選挙区で計算しても比較第1党は民主党になるんです。公明党については、公明党らしさを失って、政権に擦り寄って協力してきたという点で、自民党以上に批判が強かったと考えるべきだと思いますね。私の投票ですが、小選挙区は民主党に、比例区は社民党に入れたわけです。民主党は、西村慎吾などもかつていたように、極右も存在し、社会党系も存在している党です。これを右振れさせないためにも社民・共産にもう少し伸びてほしいという思いがありますた。結果的には現状維持という結果でした。小沢チルドレンという表現はマスコミが作った表現であって、前回の小泉の時は、なかなかうまい命名だと思ったわけです。しかし、今回は、小泉のようなヒーローはいなかったわけで、敢えて言えば民主党旋風だった。今後の政権ですが、この多数政党がまとまって構造改革ができるかどうかが焦点になると思います。小泉の時は単純で「官から民へ」というだけだった。経済で言えば、内需拡大であろうし、所得再分配での消費拡大だろうと。水が土に染み込んで溢れるには時間がかかるわけです。国民には「待つ」という一定の辛抱が必要でしょうし、民主には「団結」を維持するという試練もあると思います。
<「自民党的」なものへの拒否行動>
E)民主党がここまで勝つとは思っていませんでした。小選挙区制恐るべしというところですね。私の周りでも中小企業の社長さんなど、本来は自民党のはずなんですが、今回は自民党には入れられないという状況は確かにあったわけです。大企業の営業マンや農業をしている人にも同様の空気を感じていました。自民党はひどすぎた。民主党が勝ったというのはいいんですが、ちょっと不安な面も強い。自治体にいるわけで、後期高齢者医療の廃止だとか、仕事上の混乱も予想されるわけです。
F)思い越せば1996年の民主党結成以来ですね、政権交代可能な政党を作ろうと労働組合も議論に参加してきたわけで、10数年で政権交代を実現したという感慨はあります。小選挙区制への選挙制度改正も、政権交代がしやすいという意味がありました。しかし、今回の政権交代は、イギリスの労働党と保守党、アメリカの民主党と共和党という2大政党制における政権交代とは違う様相が出てきている。ひょっとしたら自民党が消滅する可能性が否定できないのではないか。「自民党的」なものが維持できなくなってきている。次の選挙で自民党が返り咲く可能性は極めて低いのではないか。民主党が政権を握った以上、2回程度の予算編成・執行ができたら、「自民党的なもの」を無くすことが可能になるのではないか。単なる政権交代で終わらない可能性について見て行きたいと思います。
自民党ですが、負けても爽やかさがない。情けないくらい。一方の公明党は代表・幹事長ともに落選して、今後どうなるか。
そこで民主党ですが、残念ながら地方議会では圧倒的少数という現実がありますね。ここで政権与党だと天狗になる人も出てくる。
予算の問題ですが、補正予算をめぐっては、地方自治体で大変なことになると思っています。政策を変更するわけですから、後期高齢医療、生活保護の母子加算、障害者自立支援法の関連など。マニフェスト選挙でしたから国民への説明はわかりやすくなりましたね。自民党的な構造から、次の「民主党的」な構造がどうなるか、というとですね。
<3党連立協議の行方>
F)民主党と社民党・国民新党との連立協議については、安全保障問題で対立しているかのように報道されていますね。しかし、私は落ち着きどころがあると感じています。
C)時間的余裕を持った内容とする方向のようです。阿部知子という人も非常に柔軟な人で、なかなかしっかりした人物のようですね。小児科医で、以前からメールマガジン「かえるニュース」を出していて、見ているわけですね。臓器移植法の時も対案を用意してがんばっていましたね。
F)小選挙区で社民党は3議席を獲得しているわけですが、すべて民主党推薦です。選挙調整ができていて当選した経過がある。沖縄・大分・大阪8区です。スタートから調整すみですね。さらに、参議院選挙が来年ありますからね。それまでは、参議院過半数が必要という民主党の計算もある。
C)沖縄では、自民の衆議院議員はゼロになりました。彼等はすべて基地の県内移設派でした。自民党の参議院議員だけが県内移設派となった。民主党のマニフェストでは、アメリカと交渉するとなっていますが、決して簡単ではない。米国務省は直ちに反応して、再交渉はないと明言した。来年の参議院選挙では、県内移設派の自民党議員を落とすことが必要であろう。その中に社民党がいるということは重要な事だと思いますね。
F)福島代表が入閣と報道されているし、国民新党は郵政改革で総務大臣をと要請しているようです。
<民主党政策の財源論について>
D)不安はあるでしょうね。中小企業対策はどう変わる–民主党の政策について、などど研修会を宣伝すればたくさん参加するでしょう。みんなちょっと不安に思っているからね。まだ見えていない部分がある。公務員についても国家公務員の人件費2割削減なども含まれていて、戦々恐々というところではあります。
E)でも、実際のところ公務員にはどんな影響が出るのかな。また、財源論も議論になっていたけれどね。
F)財源論だけれど、北沢栄という人が「亡国予算」という本を出しています。特別会計のからくりを明らかにした内容です。そもそも一般会計と特別会計の2本立ての国家予算構造は日本だけのようです。一度も執行されたことのない外為基金とかね。天下り先を作っているようなもので、もっと財政状況を公開させていけば、かなりの財源が温存されていると見ていいと思います。
B)財政再建が至上命令の自治体の立場から言えば、それは臨時的なものになりますね。経常的な歳入の必要があると思います。臨時的利用はできたとしてもね。ただ、自民党はそれを温存していたわけで、手をつっこんでみることは政権交代で可能になった。
C)確かに財源論は、選挙の焦点になった。ただ、民主党も明確な内容を示した経過はない。ところが、それが選挙行動のマイナス材料となったかというと、そうではなかったんだね。世論調査でも、民主に投票した人の84%が財源論について信用していないと答えている。それでも、自民党には退場していただこうという結論だった。
E)子ども手当にしても高速道路の無料化にしても反対意見の方が多数というんですね。それは財源論に対する不安があるからでしょう。
<高速道路無料化問題>
D)高速道路料金は安い方がいいわけですが、時間とともに輸送経費などが縮小して経済効果が出てくるという面は否定できないです。民主党もそういう説明はしている。最近のマスコミの流行でね、わかりやすさを求める傾向が強い。民主党の話も十分に説明されると、なるほどという事が多いのも事実ですね。
C)高速道路問題はまさに典型ですね。反対派は環境を悪化させる、渋滞が起こる、など重大な問題だと批判している。だから、これも段階的実施にならざるをえないと思いますね。
A)首都高速と阪神高速は除外と最初から言ってるし、地方から段階的に進めるようですが。実際に、琵琶湖の西を走っている湖西道路は有料から無料になりましたが、渋滞は起きていませんしね。車も増えていない。どこの道路を無料化するか、という点ですね。
C)昨日、馬渕議員が説明してましたね。彼の説明では、CO2などの環境悪化を生み出しているのは一般道路だというわけです。都市近郊のね。無料化になることでトラックなどの輸送産業は高速道路に回り、環境悪化には効果があるという説明をしていた。
E)ヨーロッパなんかは無料なんですか。
C)基本的に無料ですね。但し、都市部に入ると有料になったり、渋滞エリアに入ると有料という場合があるようです。
A)交通政策全体との関係で提起する必要があると思います。都市部への乗り入れ規制やパークアンドライドなどですね。ナンバーで規制するとか。都市部と東名・名神などの幹線道路をどうするか、などの問題ですね。
F)5月の連休と7月に大渋滞の経験があります。道路の問題であると共にライフスタイルの問題でもあって、連休やお盆などに車の移動が集中するという背景がある。休暇のあり方、過ごし方を分散できるようにする必要がある。
<製造業派遣の禁止について>
D)内需拡大に向けた構造改革の問題として、労働法制の規制強化の問題がある。これは非常に重要な問題ですね。トヨタの会長が若者にもっと車を売れ!という。どんどん派遣切りをやってきた会社ですよ。年収200万円以下で、どうして車を維持できますか。製造業の派遣労働を認めたことが格差社会を決定的にしたわけです。民主党政権は、労働法制を改革して安定的な社会をめざすべきです。マニフェストにも書いていたと思います。派遣労働含めて資本の側の論理には、国際競争力の維持ということがあった。北欧型の資本主義でも、国際競争力は維持しているわけですね。高度経済成長型ではないけれど安定的成長をめざすということではいけないのか。そういう意味で資本への規制を強める必要があると思いますね。
E)選挙選で自民党は経済成長なくして生活の安定はない、という主張だった。民主党は生活が第一ということで、あざやかな対比でした。あれだけ長い選挙期間だったので、印象に残ったと思いますね。
D)小泉時代の終わりに若干の経済が持ち直した。しかし、それで雇用は伸びたのか、所得は改善したのか、という点です。ほとんどなかったし、賃金はむしろ低下した。池田内閣当時の経済成長は、配分の原資・パイも増えて、合理化も雇用の拡大と矛盾しなかった。今の時代はそうではない。国民も感覚的にわかってきている。
<トリクルダウン論>
F)金持ちが儲ければ、おこぼれは貧困層含めて社会に回ってくる、というのが自民党のトリクル・ダウン論ですね。能力のある者がより多くの所得を得ることが社会の利益になる、ということですか。でも、それは実現していませんよ。より貧しくなっていった。
C)民主党のマニフェストでは「常用雇用を拡大し製造現場への派遣を原則禁止」と書いてある。ただ、これを直ちに実施というのは、難しいね。登録型派遣の禁止も書いてあるが、業界は猛烈に反対している。これが実現すると失業者が増大するとも主張して、抵抗が強い。実現するには、ワークシェアリングなどの労働政策と組み合わせるなどの方法が必要になるのではないか。
F)現在、雇用調整給付金の対象者が234万人と報道されていましたね。いわば企業内失業といっていい。戦後最悪の失業率5.7%と言われているが、企業内失業者や、求職活動をあきらめてハローワークに行ってない人は含まれていないわけです。常用派遣の原則禁止と言っても雇用の場が生まれてこないと意味がない。雇用政策全般が問われていると思います。
D)反論するわけではないけれど、もし製造業の派遣が禁止されていたら、自動車産業は競争力を失っていたのか、という問題がある。やはり直接雇用の原則が大事だと思います。そして同一労働同一賃金の考え方の徹底が必要だと思います。同じ仕事をして技能を磨いても、明らかな賃金差別がある。資本主義社会の中の封建的身分制度ですね。均等な待遇、正社員への登用の保障など改善が必要です。
外国人労働者の問題が最近騒がれなくなった。それは国内の賃金水準が圧倒的に下がってきたからですよ。高卒程度の若い労働者の賃金は、外国人と比較しても大差がない。常用派遣の禁止となった場合、再び外国人労働が問題になる可能性はあります。しかし、派遣禁止となった場合、失業者が増えるという議論ですが、より安定的なシステムに向けての我慢ということで、別の対応が政府に求められるという議論の方向が必要だと思いますが。
E)オランダ型では、派遣を禁止しているわけではなく、派遣契約が終了しても、所得保障や職業訓練ができるというシステムですね。その前提には同一労働同一賃金という原則が確立しているわけですね。単に派遣禁止というだけでなく、同一労働同一賃金の原則、さらに雇用のセーフティネットの確立が求められていると思います。
反貧困ネットの湯浅さんが言ってますが、派遣労働を切られたら、何のセーフティネットにもかからずに、すべり落ちる。「すべり台社会」と言ってますね。社会保険のない、雇用保険もない、生活保護も住居がなければ受けられないというわけです。
<民主党は何をめざすのか>
F)今回の選挙は、「政権交代」がキーワードだった。何も「社会民主主義」を国民が選択したのでもなければ、民主党が明確に戦略を示したわけでもないところに問題があると思います。今回はかなり保守層も民主党に流れた。民主党はまだアメリカ型の「市場主義モデル」なのか、北欧型のモデルをめざすのか、曖昧なままですよ。市場原理主義には批判的な姿勢を強めてはいるけれど、社会モデルを純化させて提起をしているわけではない。
C)派遣労働でも直接雇用みなし制度を創設するとマニフェストには書いているね。一応考えてはいるけれどね。
F)マスコミも、新政権に我慢強く待つべきとの論調ですね。
A)4年間あるのだから、じっくりやればいいわけですね。
D)労働問題に戻しますが、雇用保険にしても今、現行法制すら守られていないわけです。パート労働でも週24時間でしたか、越えれば雇用保険に入れる義務がある。有給休暇然り。現行法制をしっかり守らせることから始める必要があるんですね。
また、日本は労働組合も産業別ではなく企業別の組織化が主流ですね。ならば、常用雇用における派遣規制についても、企業グループの枠組みで正規職員化という規制をかける方法もあると思いますね。障害者雇用の分野でグループ企業で1.9%を守らせるという改正も行われているんです。弾力化して安定雇用を実現するという方向ですね。(続く)
【出典】 アサート No.382 2009年9月25日